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クレイドル〜忘れられし天使の都〜  作者: アルス
第1部 クレイドル〜忘れられし鋼鉄の都〜
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第5.5章 * 銀色の月と過去の面影 *

月を見上げていた。


地上から遥かな高さにあるこの場所から見る月は、簡単に掴めてしまいそうだった。


その月に照らされた天使が銀色の微笑みを浮かべている。


ここは、平和なあの工房があった国ではない。


そう、ここは冷たい鋼鉄の壁に包まれた過去の揺籠だった。


ーー1日前。


「ここ、は……?」


ぼーっとした頭で起き上がると、そこは宮殿のように洗練された部屋だった。


……宮殿に入ってことはないけれど。


そう例えたくなるくらいに、綺麗な部屋だったのだ。


部屋に明かりは付いていなかったが、窓から入る月明かりで部屋の輪郭は分かった。


暗いことを考えると、今は夜なのだろう。


窓に付いているカーテンが夜風と踊る。


カーテンをめくり、外を見た。


息を飲む。


そこには、崩れかけの巨大な都市が静かに息絶えていた。


「どこなの? ここは?」


急に不安と焦燥に駆られる。


「起きたのか」


どこかで聞き覚えのある声がした。

後ろを振り返ると、鎧の男が部屋の扉を開けてこちらを見ていた。


「あ、あなたは……!」


地下道に迷い込んだラルを追ってたら、急にあの鉄の扉をくり抜いて出てきた人……!


確か、そのあと衛士さん達を……。


「うっ……」


思い出し、気分が悪くなる。


「驚かせてすまない。水だ、飲め」


そう言うと、鎧の男は水瓶を置いた。


「あ、ありがとう……」


予想外の行動に、素直にお礼を言ってしまう。


「少し、話をしないか」


意外な提案が鎧の男から持ち出される。


「……良いですけど、ここはどこなの?」


恐る恐る質問をしてみる。


「ここか? ここはお前のような外の世界に住む者が『ウォール』と呼ぶ今は名も忘れ去られた過去の都だ」


以外に素直に話してくれた。


それよりも、今私はあの壁の中に入ってしまったの!?


「そ、それじゃあ、あの天使みたいなものは?」


冷静を装い、次の質問をする。


あの銀色の微笑みを浮かべたものについて。


「あれは、天使などではない」


ぴしゃりと冷たい口調で断言される。


「あれは天使の紛い物、旧人類が作り上げた殺意の塊だ」


「旧人類が作り上げた、殺意の塊……?」


物騒な言葉が飛び出した。


あれを昔の人が作ったていうの?


「はるか昔のことだ。ここがまだ世界の中心だった頃、大国同士が争いを始めた。その戦いの最終局面で各国は禁忌とされた兵器を互いに使用した」


そこで鎧の男は、空に浮かぶ天使の紛い物を見た。


「まさか、あれが……?」


鎧の男が頷く。


「そうだ、あれがその過去の禁忌の1つだ」


まるで、おとぎ話の世界に迷い込んでしまったような感覚がした。


「……そもそもなのだけど、あなたは何者なの?」


情報が多すぎて混乱しそうな中、まずは目の前の人物について聞くことにした。


「俺か? 俺は、影だ。この都同様に過去に縛り付けられたな」


「影……?」


鎧の男は私へ向き直り、話を続ける。


「そうだ。だから、俺は変化を望む。あの空に浮かぶ禁忌をここへ堕とす」


「あれを!?」


あんな巨大な質量が堕ちたら、きっとここは…!


「この地は消え失せるだろう。だが、それでいい。物事には全て終わりが必要なのだ。この都にも、この命にもな」


そんな、どうしようもできないの?!

私には……!


「今度はお前の番だ」


「えっ?」


2度目の予想外な展開だった。


「俺が話したんだ、今度はお前の世界のことを話してくれ」


そこには、純粋な外への憧れが見えた気がした。


「……外の世界は、平和よ。時々国の境で小競り合いはあるけれど、各国は均衡を保っているわ」


簡潔に大陸の国について話した。


「そうか、平和なのか。お前の国は、どういうところなんだ?」


どんどん質問が来る。


「私が住んでいる国?この『ウォール』のような旧文明の解明をしようとしてる国よ。ここ以外にも地中や空にクレイドルがあると言って探しにいく人もいるわ。あとは、あっ、工房があるわ! おじいちゃんとトライで鍛治をしているの!」


自分の工房の話になって浮かれて喋る。


「……トライ?」


一瞬空気が重く、冷たいものへと変わった。


「……どうしたの?」


不安になり尋ねた。


「……いや、何でもない。そのトライの話を聞かせてくれ」


落ち着いた雰囲気に鎧が戻る。


「トライは、あなたが入ってきた場所の近くにある廃材の溜まり場にいたの。ひどい傷を負って今にも倒れそうなところを私が見つけたの」


昔を振り返りながら話す。


「その後、家の工房へ連れて行ったわ。最初はすごく警戒してた。自分の記憶が名前しかないことも関係していたのかも」


鎧が反応した。


「……名前しか記憶がなかったのか?」


私は頷き、話を続けた。


「そうよ、それ以外の記憶はないと言ってたわ。何かに怯えているようにも見えた。だから、私たちは家族でトライを温かく迎えたの」


平穏な日々を思い出しながら、続ける。


「工房のある家は、孤児を迎え入れていたの。その子たちもトライに懐いていたわ」


よくかくれんぼでトライが困り果ててたっけ。

あの辺りは隠れる場所いっぱいだからね。


思い出して、つい笑いが出てしまう。


「……どうやらトライはお前たちの世界に馴染んでいたようだな」


鎧の男が私を見て口を開いた。


「ええ、とても生き生きとしていたわ!」


そんな彼を私は……。


「そこまで分かればいい。夜も深い、休むことだな」


鎧の男の去り際に聞こえた言葉が何故か心に残った。


奴なりの生き方を見つけたか、と。


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