第30章 * 帰るまでが冒険です! *
クレイドルから帰還した翌日。
祭りの後の静けさが、早朝のジールの街を包み込んでいた。
その中で、早足に歩く者たちがいた。
「トライ! こんなに早く出国しなくてもいいんじゃないの!?」
静けさは消し飛び、私の声が町の支配権を得た。
「しー! 静かにしてくれ、フィ!」
トライは辺りを見ながら答える。
辺りじゃなくて、私を見て話しなさい!
私の視線に気付いたトライは苦笑いをしながら話す。
「ここで目立ったらホーリットが面倒な手続きや申請をしてくれた意味がなくなる! クレイドル生還者の噂は昨日の祭りですでに拡がってるはずだ」
そうなったら、厄介な連中に目をつけられるリスクがあるんだと、辺りを見回しながらジールの入国門まで歩くトライ。
「厄介な連中って、何? トライはその人たちに追われでもしたの?」
「……いや、そういうわけじゃ」
苦虫を大量に口に押し込まれたような表情のトライ。
えっ、そんなに会ったらまずい人たちがいるの?
あまりの表情に私は黙ってしまった。
「ふぁぁ、もうすぐあのデカい門に着くな」
あくびをしながら、龍蓋の顎部分を見ながらバリスさんが言う。
バリスさんとシャルさんも一緒についてきてくれている。
お二人曰く。
「こいつ一人にしたらよお」
「また、どっかほっつき始めるでしょ」
至極当然、同意しかなかった。
無事に龍蓋の顎、入国門を過ぎ、精霊馬でカルメリア大陸を目指す。
帰るまでが冒険、です!
壮大な草原を4頭の精霊馬で走り抜けていく。
その道中には、小さいが豪奢な祠が見られた、
ここに来るまではトライのことしか考えてなくて、あまり目につかなかったけど、もしかしてあの祠たちが本来のクレイドルの入り口だったのかな。
そんなあてもない大昔のことに想いを馳せながら、広大な緑を進んでいく。
途中、空が灰色の雲に覆われ始める。
あれ? さっきまで晴天だったのに。
残念、と一人思っていた時だった。
灰色の空の下、草原の緑の中、不意に三つの純白が混じった。
しろ、いろ?
およそ自然の産物ではないと言うように、その白さは人工的な明るさを纏って翻っていた。
あれ、はーー
「みんな、止まれ!!!」
トライが叫び、我に帰る。
そう、あれはーー
「……ノウクラン!!!」
トライの憎しみが籠った視線が、3人の純白を貫く。
「そんな怖い顔で見ないでくれるかな」
優しげだが、どこか底知れない声が白い外套の内から聞こえてくる。
「君たちに面倒がないように、簡単にジールの街から出れるようにしたのにさ」
やけに街自体が静かだったのは、この人が仕組んでいたの!?
することの規模の大きさから、思考が追いつかない。
「その『面倒』ってのは、お前たちも含まれてるんだけどなあッ!?」
トライは精霊馬から飛び降りると、即座に灼腕を展開した。
「あーあ、せっかくその腕を用意してあげたのに。向ける相手を間違えてるんじゃない?」
恩を仇で返すとはこのことだね。
ぼやきながら、首を振る仕草を見せるほどに白外套の男は動じていないようだった。
「間違えちゃいねょよ!! 勝手にこんな腕にしやがって!!」
はぁ。
そんな短いため息を吐きながら、白外套の男は腰に下げていた剣をスラリと抜く。
その刀身は蒼く、以前のトライの蒼腕を想起させる色合いだった。
トライの灼腕と白外套の蒼剣が、衝突する。
一瞬の閃光、視界が白に塗りつぶされる。
直後――
凄まじい衝撃と暴風が辺りを襲い、曇天の空は真っ二つに切り裂かれた。
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