第29章 * 灯籠昇 *
灯籠昇。
ジール国に伝わるお祭りだ。
太古の大戦で失われた命を弔うために引き継がれてきた儀式。
小型の龍の形にした灯籠を空へ魔力で打ち上げていく。
その光景は、無数の龍が星空と一体になるような幻想的なものだった。
「大昔に散った命と緑龍旅団も一緒に報われればいいな」
「ああ、そうだな」
私とトライは、ジールの上部、『龍蓋』に作られた展望台のような場所で昇る灯籠と星々を眺めていた。
「なーにしけた顔してんだ? これ食って元気出せ!」
大量のいい匂いがする袋を腕にぶら下げてバリスが現れた。
バリスが灯籠昇りで出店している屋台から、大量に食べ物を買ってきたようだ。
「そうよ、自分たちが無事に生還できたことを喜びなさい?」
シャルも屋台で買ったのか、魔術儀式で使うような丸みを帯びた瓶に淡く光る青色の飲み物を飲んでいた。
かわいいです!
ただ、味は美味しいのかな?
「ほれ!」
バリスさんが差し出したお菓子をトライと一緒にもらう。
「かわいい! ちっちゃい龍の形をした焼き菓子なんですね!」
一口食べるとふわふわの生地の中に甘いクリームが詰まっていた。
「ほら! トライも!」
小さな龍をトライに渡す。
「……ん、うまいな」
少し間があったけど、口に合わなかったかな?
甘いの好きなはずだけど。
「それにしても良かったよな。この行事とクレイドルの件で警備が厳重になってくれていたおかげで、俺たちは見つけてもらえたんだから」
トライは少しずつお菓子を食べながら話し始めた。
私は大量に小型の龍を貪りながらトライの話を聞く。
「ああ、クレイドル突入前に助けたジールの魔術師たちも回復魔術が間に合って無事みたいだったしな。そういえば、ホーリットと緑龍旅団の二人はどうしてるか知ってるか? シャル?」
ジュース?を飲んでいたシャルさんがジトリとバリスさんを見ながら口を開く。
「ホーリットのシエラさんがこの件の説明をしに緑龍の子達を連れて王宮へ行ってくれたんでしょ? 覚えてないの?」
悪い悪いとバリスさんが頭を掻きながら聴いている。
「ひとまふ、一件落着でふね!!」
「フィ……」
「フィちゃん……」
「フィ、あんたねぇ……」
私がきょとんとしていると一斉にみんなが口を開いた。
「「「食べ終わってから喋りなさい」」」
「ほへんなさい!!!」
みんなの笑い声が空へと溶けていく。
そう、ようやく揃った4人の声が。
*****
ジール郊外 灼腕により穿たれた大穴にて
「案外早かったね。トライのやつ!」
白い外套を纏った女は言う。
「そうだね。次もこれくらいで片付けてくれると助かるな。大穴の規模は予想外だけど、クレイドルの修復機能で、穴が閉じ切るのも時間の問題みたいだね」
同じ白い外套に身を包んだ細身の男が、すでにほとんど閉じ切った大穴を見ながらそれに答える。
「……」
3人目の白き外套を纏うものは無言で佇んでいた。
「それでは引き続き警備のほど、お願いしますね」
堂々と警備に当たっていたジールの魔術師たちに挨拶をし、3人はその場を後にした。
その背にノウクランの紋章を背負いながら。
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