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クレイドル〜忘れられし天使の都〜  作者: アルス
第2部 クレイドル〜地底に眠りし龍の楽園〜
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第28章 * 地上に広がる空 *

地上に大穴を開けながら、本当の空に向かってさらにシエラの魔術龍は昇っていく。


地上の時は夕暮れ、地平線には半分に沈んだ夕陽が生き絶える直前の輝きを放っている。

空には星と月が青いカーテンの中で演じるように光を放っている。

それらを見守るように蒼き太陽もいつもと変わらずに空に浮かんでいた。


GUOOOOOOOOOOOONNNNNNNNN


それら全ての絵画のような美しさを壊すように、暗雲と化した巨龍は未だにこちらを追いかけてきていた。


「まだ追ってくるの!?」


悲鳴に似たシャルさんの叫びが聞こえた。


「安心しろ! 今、俺たちでーー」


「――決着をつけます!!」


魔力と機械の翼を展開したトライと手を繋ぎ、魔術龍からその身を空中へと飛ばす。


眼前に暗雲龍の明滅する牙と魔力を帯びた暴風が迫り来る。


「トライ、行こう!!」


「ああ!!」


短く言葉を交わす。


視線は自然そのものと化した巨龍。


片手には灼熱を。


もう片手には灼熱よりも熱く感じる君の手を。


GUOOOOOOOOOOONNNNNNNNNNNN


嵐にも似た巨龍の咆哮の中を、身を切り裂きながらトライと共に赤く紅く赫く染まった腕を巨龍の頭蓋に向けて振り放つ。


その瞬間、世界は夕暮れから白昼へと時を戻されたかのように白んだ。

一対の灼腕が龍の頭蓋から尾までを真っ二つに引き裂く。


巨龍は今度こそ本当の空に霧散していった。

魔力を含んだ雲が霧散した影響で、夕暮れの中に光り輝く雨粒がいくつも降り注ぐ。


地上へと生還したものを祝福するように、夕陽と星、月や雨が視界いっぱいに広がる。


「綺麗……」


気付くと、私は一人呟いていた。


「だな」


トライの手が少しだけ強く私の手を握る。


「今度こそ、みんなで帰ってこれたね」


トライの目を見て話す。


「ああ、待たせてごめん」


トライは子供っぽく苦笑いして言う。


「いいよ、許したげる。その代わりーー」


「その代わり?」


トライはきょとんとした顔で見てくる。


私は心臓から熱が顔にまで上ってくるのを感じながら言った。


「もう、ひとりにしないでね?」


精一杯言葉を紡いで、目を伏せる。


沈黙に耐えきれずにトライを見る。


「ああ、もう一人にしないよ。ずっと一緒だ!」


真剣な表情で言ったあと、トライも恥ずかしくなったのか赤くなりながら子供っぽく笑った。

私の顔もずっと赤いままだ。

いや、互いの顔が赤いならきっと夕日のせいだ!


二人、昼と夜の狭間、空と大地の真ん中で私たちは二人きりだった。


「お二人さーん、もう話しかけてもいいかい?」


二人きりじゃなかった!


バリスさんが笑いながら、こちらを見ていた。


「バカバリス! 邪魔しちゃダメでしょ!」


杖でバリスさんを殴りながら、シャルさんも赤面しながらこちらを見ていた。


何なら、シエラさんの魔術龍が隣まで来ていて、みんなに一部始終見られていた。


「うわああああああ、見ないでえええええ!! トライ早く地上に降ろしてええええ!!!」


私がバタバタと暴れながらトライに言うと、トライは申し訳なさそうな声で言った。


「ごめん、フィ。俺の魔力の翼も限界だ。シエラさんの龍で地上まで戻ろう……」


トライは恥ずかしさを抑えながら言った。


「ええええええええ!!」


恥ずかしい、あんな場面見られた後に皆で地上に戻るの恥ずかしい!!!


私は夕日よりも赤くなった状態で、みんなの元へ連れて行かれそうになった時だった。


「すみません、私の魔力もここまでみたいです」


シエラさんが変わらぬテンションで今一番まずいであろう言葉を放った。


瞬間――


魔術で編まれた龍は霧散し、全員が空中に放り出された。


「えええええええええええええ!!!」


絶叫しすぎて、私の喉が壊れそうだった。


空、地面、星、太陽、ジールの街、雨粒。

トライの手を離さないまま、ぐるぐると視界が切り替わっていく。


「フィ、もっと近く!」


トライが私を引き寄せて、抱きしめるような状態になる。


ドキドキ胸がうるさい!

そんな場合じゃないのに!!


空中を見ると、みんなそれぞれ体勢を整えながら詠唱を始めていた。

落下のタイミングでなけなしの魔術を放ち、着地の衝撃を和らげようとしていた。


トライの片腕も灼腕の残り少ない魔力を集中しているようだった。


どんどん地面が近づいてくる。


星々や月が離れていく。


私は目を瞑りながら、トライを抱きしめた。


世界は風の切る音と、彼の鼓動だけになる。


これはこれでいいかもなんて思った。


次の瞬間、今までの身を切るような風ではなく、柔なかな風が身を包んだ。


「何が、起きたの……?」


恐る恐る目を開けると、魔力で編まれた風の揺籠が私たちを優しく包んでいた。


「あの人たちは、クレイドルに入る時に助けた……!」


下を見ると、ジールの龍蓋の上から魔術師たちがこちらへ手を振っていた。


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