第23章 * 教室 *
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
リンさんが叫びながら、より一層嵐の魔力を解放する。
それは、まるで命を擲つかのように見えた。
すでに手から始まって、腕にまで白骨化の症状が出ていた。
「リンさん!! これ以上は!!!」
「いいから!! フィ、アイツの道を切り開くぞ!!!!」
リンさんは振り向いて少しの笑みを浮かべて、再び前を向いた。
次の瞬間、世界は白に包まれた。
――見覚えのない教室。
……教室って何だろう?
誰かの感情や知識、記憶が流れ込んでくる。
魔術による記憶の操作があるってシャルさんから聞いたことあるけど、これも何か魔力の副作用なのかな?
ぼんやりと夕焼けに染まるその教室を見ていた。
夏、と言う季節らしい。
熱気を含む夕方の風が流れ込み、その風に乗って蝉の鳴き声が響いている。
二人の男の子が机と椅子、それぞれに座って何か話している。
髪色こそ黒いが、トライのように見えた。
「なあ、二人でゆっくり話すなんて800年前の学生の時以来だな」
リンさんに似たような男の子がゆっくりと話し出す。
「そうか? まあ凛斗としっかり話し始めたのは『試練』の日からだったよな」
黒髪の子が懐かしむように言う。
「くく、『試練』の日以降なんて、長くても1ヶ月ほどだったろう?」
おかしそうに凛斗と呼ばれた子は笑った。
「まあな。実際、俺も最後まで生き残る『番』じゃなかったからな」
黒髪の子は少し悔しそうに言った。
「あれだけやって、世界はこの有様だ。あの時の世界は跡形もなくなったな」
自嘲気味に凛斗は言う。
「……それでも、あの時の『試練』を越えられたから、俺たちは今こうしてもう一度話せているんだろ?」
黒髪の子はまっすぐに凛斗を見つめて言う。
「ふ、それもそうだな」
なら悪い結果じゃなかったのかもなと、凛斗は呟く。
「さて、昔話もお終いだ。これからの話をしよう」
凛斗の雰囲気が重く変わる。
「あの龍を倒して、他の天使も同じように目覚めさせ、殲滅を繰り返していく気か?」
凛斗の瞳は虚飾を一切許さないと言わんばかりの気迫に満ちていた。
「……ああ。俺は天使を殲滅させて、フィたちが安心して生きていける世界を作りたい」
黒髪の子の言葉で確信した。
あの子はトライだ。
けど、いったい何であんな姿で、この世界じゃなさそうな場所で話を?
疑問が駆け巡る中、話しは進んでいく。
「そうか。ならいつかトライ、お前は『試練』の日以来、もう一度死ぬことになるぞ?」
死。
それも二度目の死。
頭が完全に追いついていない。
「それは、力の差で負けるってことか? それともーー」
「お前が考えているもう一択の方だ。まあ、戦力差で負けることも充分にあるがな」
間髪入れずに凛斗が答える。
「……『試練』の時と同じ仕組みか」
トライは重くゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ああ、騎士と天使の『一対消滅』だ」
『一対消滅』。
言葉から想像するのは難しくなかった。
「騎士と天使、両者一体ずつ消滅することが天使の殲滅条件、か」
トライは苦虫を噛み潰したような表情で言う。
「ああ、だから今回は俺が受け持つ。だが、それから先はーー」
世界が急に色付き始め、現実へ戻ろうとしていく。
「凛斗!!」
叫ぶトライの言葉も変わりゆく世界へ吸い込まれていく。
最後に、凛斗の声が聞こえた気がした。
――そこから先は、来人、お前の覚悟次第だ。
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