第22章 * 灼熱と晴嵐 *
「フィちゃん! あのデカブツの体勢を崩すぞ!!」
バリスさんが迫り来る山脈のような龍へ駆けながら叫ぶ。
「体勢を崩して身動きできないようにするのは分かるけど、その後は!?」
シャルさんも氷板による滑空をしながら問い返す。
そこで、私はバリスさんの意図が読めた。
「ユアンさんが抉ったあの傷ですね!?」
「ご名答!」
バリスさんはニッと笑い、大剣へ炎を纏わせ始めた。
「なるほど、その案、俺も一枚噛ませてもらおう」
いつの間にかリンさんが疾風のように並走していた。
「うおっ!? いつの間に?!」
バリスさんがよろめきそうになりながら、ビクッと反応する。
「この状況になってしまっては、アイツを永遠に眠らすしかない。どうか協力させてくれ」
真摯な懇願に私たちの答えは一つだけだった。
「こちらこそお願いします!!」
バリスさんはおかしそうに、シャルさんは呆れたように微笑を浮かべた。
「すまない、感謝する」
そういうと、リンさんは走る方向をトライの方へと変えた。
「体勢を崩すのは任せた。俺は一撃でアイツの心核を貫くために魔力を練り上げる。それまでトライを守る」
そういうと、再び風のように姿を消した。
「何という速さ……! あれが噂に聞くニンジャ!?」
「フィちゃん、その伝承はシーラ大陸の隣の島のだ」
冷静に突っ込まれてしまいました。
「フィ、おふざけはここまでよ! さぁ、まずはあの巨木のような前足を狙うわよ!」
シャルさんが残りの魔力を絞り出すように練り上げる。
辺り一帯が蒼白く氷結していくような錯覚に陥るほどの温度低下が始まる。
「氷精よ、大輪を咲かせろ!!」
聞くものを凍てつかせるような詠唱が終わった瞬間、それは巨龍の脚に乱れ咲いた。
GYAUUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAA
いくつもの氷の大輪が巨龍の脚に乱れ咲く。
たまらずご銀龍は、地鳴りのような咆哮を上げる。
「次は俺の番だな!!」
後ろ脚へバリスさんが回り込み、巨大な火柱と化した大剣で一閃した。
バリスさんの大剣は、深く巨龍の脚を抉り切った。
再び巨大な咆哮を上げて、巨龍は蹲る。
傷跡が隠れてしまう!
その前に!!
全力で巨龍の眼前へ全力疾走を始める。
巨龍と視線が合う。
その瞬間、がぱっと顎が開かれる。
再び、銀色の閃光が口内に迸り始める。
「何のこ、れ、し、きぃ!!!」
拳に灼腕の魔力をこちらも迸らせる。
「うらあああああああああああ!!!!」
銀色の閃光が目の前を全て覆う。
それでも灼腕の紅い光を目印に全力疾走を続ける。
「見えた! ここだァ!!!!」
銀色の閃光を抜けた先に、巨龍の顎が見えた。
その顎めがけて、灼腕を振り上げた。
アッパーの形で灼腕の魔力が巨龍を抉りながら、上体を起こすほどの衝撃を生じさせる。
「トライ!!! リン!!!」
喉が千切れるほどに叫ぶ。
「任せろ!! 準備万端だ!!!」
灼腕の魔力を立ち上らせながら、トライがこちらへ疾走する。
「こちらも魔力を練り上げ終えた」
大嵐のように荒ぶる魔力が槍に一点集中した状態でリンさんが答えた。
灼熱と晴嵐の魔力が巨龍へと疾駆する。
巨龍は再び銀色の終焉を抉られた顎から放とうと、灼熱と晴嵐の魔力へと狙いを定める。
「トライ行けるか?」
「馴れ馴れしいな! ああ、問題ねえよ!!」
短い会話を交わす二人に容赦なく銀色の祝福が降り注ぐ。
包まれた銀色の霧を振り払うようにトライが姿を現した。
「いけよ!! リン!!!」
「ふん、馴れ馴れしいな」
短い会話が再び交わされたと思った瞬間、二人のいた位置から荒れ狂う風が突如吹き荒んだ。
「俺がそばにいようーー」
リンが呟く。
「――だからせめて、安らかに眠ってくれ」
静かに壮絶に凄惨に槍の穂先が巨龍へと穿たれていく。
「トライ!!!」
私は気づいた。
銀色の閃光がまた口内へ充填されていくのが。
「分かってる!! フィも一緒に!!!」
お互い示し合わせたように並走する。
同時に灼腕の魔力を纏い始める。
そうして練り上げられた二人分の灼い腕は、巨大な紅い両椀となる。
「あの銀色の息吹を打ち消すぞ!!」
「うん!!」
リンさんの道を切り開くように、銀色の光を紅い光で打ち消していく。
「もう、少し……!」
今まで見せなかったリンさの鬼気迫る表情が物語っていた。
――リンさんの腕がすでに白骨化を始めていたことを。
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