第20章 * 灼腕 *
紅く明滅する腕を軽く横に薙ぐ。
銀色の粒子が、紅い灼熱の熱波に散っていく。
「フィ、遅くなった! もう大丈夫だからな!!」
彼は、トライは変わらずにそう言い放った。
頬を伝う涙をそのままに、私は言った。
「……お」
「お?」
「おそーーーーーい!!!」
この場全ての音を凌駕する大声で言い放った。
トライは耳を抑えて、こちらを恐る恐る見てくる。
「こっちが、こっちがどんな思いで探していたと思ってるの!? ……って言いたいとこだけど」
一旦落ち着いて、呼吸を整える。
「けど……?」
トライは私の言葉を待つ。
「許してあげる! だから今は、さっさとこの巨大な龍を一緒に片付けるよ!!」
「ああ!!」
二人で動き出した銀龍の前に立つ。
「フィ、その装備は俺の義手をモデルにしているんだろ?」
トライは眼前の龍から目を逸らさずに、この装備の核心に気づいた。
さすがトライ、鍛冶屋の観察眼は鈍ってないわね!
「ええ、もちろん性能も!」
トライはニッと笑い、紅い拳を私の腕の前に出した。
「これは……?」
紅い魔力の奔流が籠手の中で迸っている。
「話すと長いから簡潔に。そいつは全てを溶かす魔力だ」
全てを溶かす魔力。
それで、あの粒子も溶かして無効化したのね。
先ほどの事象を理解した。そしてトライが望む次の行動も。
「その魔力、借りるね!」
「ああ、思う存分借りてくれ!」
こんと子気味いい音が、トライと私の拳同士で鳴る。
その瞬間、尋常ではない魔力がそのまま、二つに増えたことによりその場の空気を震わせた。
「あと、今のうちにこれを返すよ」
返しそびれることはもうないだろうけどと彼は付け加えながら、それを手渡してきた。
「あっ、私のリボン……」
カルメリア大陸のクレイドル『ウォール』に連れ去られた時に失くしたとばかり思っていた。
「じゃあ、私からも!」
リボンを受け取りながら、腕に巻いていたトライの漆黒のバンダナを解き、代わりに手渡す。
「俺のバンダナ、拾ってくれていたのか……」
呟くとフィが答える。
「これで、準備完了だね!」
「ああ!」
互いにバンダナとリボンを着ける。
灼腕の魔力に感応するように、深緑と廃墟を纏った銀色の龍が体全体を持ち上げる。
山脈が動くような有り得ないほどの迫力を発している。
「へへっ、あの時の赤龍よりもでかいんじゃないか?」
トライは不敵に笑いながら言う。
「そうかもね。でも、大丈夫でしょ?」
私もトライに不敵な笑みを返す。
「当然!!」
地響きが鳴り響く中、後ろから声が聞こえた。
「おいおい、二人だけで抜け駆けか?」
「私たちも混ぜなさいよね?」
懐かしい声が響く。
「バリス!! シャル!!」
トライはぱあっと子犬のような笑みを浮かべた。
「よーしよし、感動の再会は後だぜ?」
「さっさとあのデカブツ片付けるわよ!」
トライは感動をどうにか抑えながら、再び前を見る。
そして、全員が武器を構える。
大きく息を吸い、叫ぶ。
「行くぞ!!!」
巨大な銀色の畏怖を前に、決戦が始まった。
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