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クレイドル〜忘れられし天使の都〜  作者: アルス
第2部 クレイドル〜地底に眠りし龍の楽園〜
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第18章 * 目覚め *

――嵐の前の静けさ。


大樹の麓へ猛進していた旅団に追いついたバリスとシャルが感じたものだった。


いや、その場全員が、じっとりとした魔力が渦巻くような重さの風を肌で感じていた。


「あなたは……。いえ失礼。私はユアン。不死の龍の血を求めるこの団の長です」


正体不明の少年を前にもユアンはいつもの礼儀を忘れなかった。

言葉とは裏腹に、槍を握りしめた手がいつもより力が込められていたこと以外は。


「俺はこのクレイドルの守護者、リンだ。それより、不死の龍……? 伝承か何かか」


諦めや悲哀を含んだ声音でリンは答えた。


「その様子だと何か知っているようだ。教えて頂けないでしょうか?」


ユアンは戦闘体勢を崩さないまま問答を続ける。


「ああ、知っている。お前達に伝わっている伝承は誤っている。不死はこの大樹として眠る龍だけだ。こいつを目覚めさせて、お前達が得るのはーー」


一息つき、リンは続けた。


「この足元に広がる白骨達と同様の、ただの死だけだ」


旅団の雰囲気が熱狂から、冷えた殺意へと変わっていくのが分かる。


「……私達が求めていたものはないと?」


変わらずにユアンは聞く。

返答次第でその手の槍で、目の前の少年を躊躇なく刺し貫くことも厭わない殺気が漏れ出ている。


「くどいな、そんなものはこのクレイドルにはない」


他の旅団が動きかけたところを制止するユアン。


「ならば、あなたはその見た目の若さで、このクレイドルにどれだけ滞在しているのです?」


リンは答えない。

それが答えかとというふうに、ユアンは動いた。


「龍でもあなたでも構いません。その不死の断片だけでも教えてもらいます!!!」


その身、その血から聞き出すという勢いのまま、ユアンたちは緑龍とリンへ向けて攻撃を始めた。


奇しくも同じ槍使い。


互いの槍術の実力は拮抗していた。


刺突、薙ぎ払いの応酬。

入れ替わり立ち替わりの激しい攻防により、周りの誰もがその剣幕に

横槍を入れることができなかった。


「はぁはぁ、ようやく追いつきました……!」


周囲がその二人の戦いに釘付けになっている中、フィはやっとの思い出この戦場へ現れた。


ユアンさんに、あれはリンさん!?

龍種との戦いじゃなかったのですか!?


遠目から見えた戦況の予測は、簡単に外れてしまった。


――こうなったら!


大きく私は息を吸い込んだ。

そしてーー


「お二人とも止めてください!!」


戦場に響かせるように停戦の意思を叫んだ。


「フィさん、無事でしたか……」


槍の鋒をリンさんへ向けたままユアンさんが振り向く。


「お前は、あの廃墟の」


リンさんも武器へ込めた力は抜かないものの、こちらへ振り返ってくれた。


「お二人ともきっと事情がおありだと思います! けど、争い合う必要は本当にあるんですか!?」


「ある」


間髪入れずに、渾身の問いかけはリンさんにより掻き消された。


「それは、何故ですか……?」


先行きに不安を感じながらも、声を絞り出す。


「この緑龍旅団とかいう奴らは、このクレイドルに眠る天使、銀龍を目覚めさせようとしている」


「銀龍?」


次から次へと疑問が湧きでる。


「ああ、あの廃墟で話した人工の天使、古の大量虐殺兵器のことだ」


廃墟で語られた旧人類の禁忌。

その人工の天使である銀龍が、リンさんが守っている深緑と廃墟を纏った大樹のようなものなの!?


情報の波に溺れそうになる思考を、強引に整理する。


「あなたにとってそれは、旧時代の禁忌なのかもしれない」


沈黙を貫いていたユアンさんが口を開く。


「しかし、それは我々にとっての新時代の希望なのです」


居場所を追われた我々にとっての、ね。

途中から出た言葉は力無く掠れて、風に消えた。


「愚者はその身に直接刻まれることでしか、事実を受け入れられないか」


「あなたに諭されて、簡単に諦めるような我等であれは、ここにすら辿り着いていませんよ」


互いに言葉は不要という事実が刻まれた瞬間、両者の魔力が最大出力された。


「ううっ!?」


立つのもやっとなくらいに、魔力によって乱れた気流が周囲を荒れ狂う。


「そこを退いてもらいますよ」


「やれるものならな」


魔力風に満ちた戦場で、その短い言葉が聞こえた気がした。


次の瞬間――


ユアンさんの槍があった場所から強烈な突風が巻き起こり、そのうねりは大蛇を思わせるような荒々しさを有していた。


その大蛇は宙を這うように、疾風となり獲物を食らいつこうと猛進する。

その凶悪な顎の一撃をリンさんが当然のように受け止める。


武器と魔力の衝突による、鈍い音があたりに響き渡る。

そのまま、両者ともに動毛ないかと思ったのも束の間。


ユアンの魔力に満ちた魔術槍は、最速の詠唱と共に持ち手から消えていく。

いや、正確には消失ではなく不可視の状態へと変化していた。

まるで一陣の疾風へと状態を変化させていく。


その異変に気づいたリンさんを嘲笑うかの如く、受け止めていた槍をすり抜け、リンさんの横腹を喰いちぎりながら、大樹へと暴風と化した大蛇が食らいついた。


地鳴りと共に、地面が激しく揺れ出した。


「……目覚めさてしまったか」


槍を手に携えたリンさんが傷の苦痛に顔を歪めながら、諦観を含んだ瞳で、木々と廃墟に覆われた山のような大樹を見据えた。


「目を覚ましたって、まさかあの大樹全体が!?」


私は驚愕を隠せずに、リンさんと同じ方向を見続けることしかできなかった。


緑に覆われた都市の残骸、その全てを乗せた大地が脈動する。

墓標のように聳え立つ鋼鉄の大樹たちも、木の葉のように揺れ動いている。


地面が隆起し、木々が折れる中、それは現れる。


――今、新緑の大地が目覚める。


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