第17章 * 大樹と大嵐 *
白骨の大地に聳え立つ異様な存在感を放つ山のような大樹の麓。
魔力反応の爆炎がそこかしこに立ち込めていた。
「麟・息・爪の体勢を崩すな!!」
翼龍や刃龍、骨魚龍の大群と緑龍旅団が衝突していた。
旅団側も独自の魔術による戦いを展開していた。
龍鱗による自身の強化、様々な魔術属性による龍の息の模倣、
その魔術ブレスを剣へ付与するなど、龍に一歩も引かない戦いをしている。
拮抗しているように見えた戦況は、ユアンによる的確な指揮と、
旅団の得意とする魔術により形勢を変え始めていた。
――そして。
「うぉらああああああああああ!!!」
爆炎を纏う大剣が種類問わずに、龍達を焼き薙ぎ払う。
「どれだけいるのよ!?」
悪態を吐きながらも、流れるような詠唱が完了し、
辺り一面を氷原と化す。
「シャル、調子よさそうだな!」
「バリス、あんたもね!」
互いに不敵な笑みを浮かべ、眼前に迫る龍の第2陣を睨む。
――まずいな。
――まずいわね。
互いに声を出さずとも、この戦況の未来を予測し、表情が険しくなる。
このままじゃ、埒が明かねえ。
龍は、あの馬鹿でかい大樹から、無限に湧いてくる。
大元を断ち切らないと、今の戦況から逆転されて、物量で潰される。
バリスが思考を巡らす中、シャルもまた別の問題で思考していた。
目の前の龍もそうだけど、未だにフィが見つからないのも辛いところね。
バリスとシャルが互いに問題を思考しながら、龍種との戦闘をしているところで号令が響き渡った。
「このままじゃ、数で押し切られます!! 風葬の陣で龍の出現地点と思われる大樹まで
前進します!!」
おおおおおおおおおおお!!!
龍種に負けぬ呼応の雄叫びが旅団から響き渡る。
外郭の部隊が龍種に対応しつつ、一本の大槍のような陣の輪郭を形成していく。
「進めぇ!!!」
その一声で、風纏う大槍は純白の大地を疾駆し始めた。
一点集中の魔力が荒れ狂う嵐のように、龍種を礫のように弾き飛ばしながら
大樹の麓へと迫る。
そして、いよいよ大樹の下、龍種が湧き出てくる場所に辿り着いた。
「これは……」
ユアンはその大樹の剥き出しの部分を凝視した。
そこには銀色に輝く龍の鱗が僅かに鼓動に合わせて動いているのが見えた。
――緑龍の伝承は、この銀の龍が苔むしたところから来ていた、というところでしょうか。
一瞬で推察を済ませると、躊躇なく己の槍を構える。
「聞け!! この大樹自身が伝承の緑龍だ!!! 我々は目的を達成したのだ!!!」
歓喜の叫びがえ旅団から響く。
「今からこの龍の血を拝領し、原初の不死人となろう!!!」
旅団の歓喜は頂点に達し、一種の狂気へと変貌を遂げていた。
その熱狂に水を差すように、一陣の風が旅団の前に立ちはだかった。
「止せ。その一撃は貴様の団、いやこのクレイドルを巻き込んだ世界の崩壊を呼び起こすぞ」
リンの諭すような冷たい声が、旅団の前に静かに響く。
その短い言葉は、大嵐を呼ぶ前兆に相応しい重みを含んでいた。
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