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クレイドル〜忘れられし天使の都〜  作者: アルス
第2部 クレイドル〜地底に眠りし龍の楽園〜
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第11章 * 風穴 *

眼前の白い鉄剣が勢いよく振り下ろされる瞬間――


「……」


振り下ろされるはずだった白い鉄剣は、床から形成された氷の杭により、鉄剣の所持者ごと貫かれ動きを止めていた。


「私のフィに何しようとしてるの?」


シャルさんが凍てつく眼差しで、凍結された白骨の剣士を睨む。


「シャルさんっ!!」


白骨の剣士が動きを止めたところに、すかさず二つの影が距離を詰める。


「うらあああああ!!」


「ふッ!!」


バリスさんの大剣が首を一閃し、ユアンさんの槍が心臓部を刺し貫いた。


剣士の首が軽い金属音を響かせ、地面に静かに転がる。


「おいおい? どうなってんだ、これは!?」


錆びた鎧の中に漆黒を内包した空洞だけがこちらを見つめていた。


「傀儡の類ですかな。こういったモノは、大抵徒党を組んだ用いられ方をしますが」


ユアンさんが話す中、辺りから錆びた金属を引きずるような音が木霊する。


「噂をすれば、だな……!」


バリスさんが強気な笑みで言う。


緑龍旅団の皆さんと円を作るように背中合わせになる。


次の瞬間――


継ぎ接ぎの街がこちらへ雪崩れ込むように降り注ぐ。

明滅を繰り返していた極彩色の照明たちも火花を上げながらこちらへと倒れ込んでくる。


「大楯部隊!!」


ユアンさんが重く響く声で指揮を叫ぶ。


途端に乱れかけた隊列は整然と円を描き直し、降りかかる鉄塊を強固な盾で弾き返す。


「長槍部隊、構え!!」


降り頻る鋼鉄の雨の奥に、白い影が滲む。

その不穏な影に狙いを定め、矛先に風を纏う。


「放ていッ!!」


ユアンさんを中心とした円陣の外周から、突き刺すような疾風が全方位に放たれる。


鋼鉄の雨を跳ね返すように、疾風と化した魔力の槍が正確に黒錆の剣士達を直撃する。


継ぎ接ぎの街に、再び静寂が訪れる。


「あれだけの数を一瞬で……!」


魔術が扱えない私でも分かる。


熟練された魔術、その威力がとてつもないことを。


けれど、それ以上にーー


「なんつー連携だよ……」


バリスさんが零れたように言葉を口にする。


十人以上がユアンさんの号令の下、目配せもなしに同じ魔術を同タイミングで放ったのだ。


きっと私以上に場慣れしているお二人の方がもっとその凄さを感じているに違いない。


魔術を放ち終えた矛先が再び、構えられる。


「もう、敵は倒したはずじゃ……?」


崩れ落ちる白い影の奥、重苦しい音を響かせながら夥しい白骨の隊列が迫りくる。


「どうやら、退却戦へ切り替えた方がいいようですね」


ユアンさんが冷静ながらも、苦虫を噛み潰したような声音で提案する。


緑龍旅団の皆さんが一方向に突破するための隊列へと組み直していく。


「団長、下層への移動装置を発見!!」


緑色の外套を頭まで被った小柄な女性が指を指しながら叫ぶ。


「分かりました、フェン。全員、鏃の陣にて前進!!」


ユアンさんを中心に、一点突破の陣形が敷かれる。


私たちも、その中心から離れないように並走する。


破壊により、急激にその姿を変えてていく継ぎ接ぎの街。

時折ちらつく極彩色の光源が、街の影から追撃してくる白骨の剣士達を照らし出す。


「穿て! この街ごとあいつらに風穴を開けろ!!」


ユアンさんの号令に反響するように、重い雄叫びが周囲で巻き起こる。


鋭い疾風の魔力が隊の先頭から後方へと流れるように構成されていく。

それはまるで一本の巨大な風の槍を連想させた。


その穂先が、街を白骨を明滅する光源を砕き貫いていく。


街を構成していた鋼鉄の資材が風に吹かれた花のように舞い散っていく。


「団長! あそこです!!」


進路を指し示した少女が叫ぶ。


そこには更なる深淵へと誘うように、下層へと続く暗闇が口を開けていた。


「風槍部隊、最大魔力で下層へ突き進め!!!」


応と声が重なり、一つの生物のように呼吸が揃う。


目指すべき進路にはもう、障害となり得るものは消えていた。


――はず、だった。


前方の街の影、進路の側面。


片方には白骨の隊列が、もう片方には黒牙と地均しの龍種が現れる。

希望を断つように二つの勢力が道を閉ざしていく。


「分が悪いかもしれませんね」


ユアンさんが冷静に絶望的な言葉を紡ぐ


「そ、そんな! 私たちも協力して迎え撃ちましょう!」


必死に状況を打開すべく、意見する。


しかし。


「フィちゃん、冷静に行こう。仮に突破口を開けても、何人がその細い希望へと滑り込める?」


「そ、れは……」


確かに、それは少しの希望をもぎ取るために、数多の絶望を捧げると同義なのかも知れなかった。


「団長、俺らが壁になります」


緑衣の中から強い意志を感じさせる瞳で、一人の少年が声を発した。


「レイ、気持ちは嬉しいです」


少しの間を開けて、ユアンさんが言葉を紡ぐ。


「私は家族である、あなた達全員と楽園へ辿り着きたいのです」


もう、失うことには飽いてしまったのですよ。

そう、消え入るような言葉が聞こえた気がした。


「でも、それならこの階層を突破するにはどうすれば……」


まだ見ぬ下層への道をこの入り組んだ継ぎ接ぎの街で探すの?

正体不明の白骨の戦士、多数の龍種が徘徊するこの街で。


全ての敵と戦う必要はない。

けれど、どれだけ必要な戦いが生じるかも未知数だ。


絶望的な思考が張り巡らされていく。


けど、けれど。


私はトライを見つけたい、もう一度会いたい!!


思考が、足を死地へと踏み出させるその瞬間だった。


「見て! あいつら互いに争い合ってるんじゃないかしら!?」


シャルさんが指差す方向では、鋼鉄と硬質の刃がぶつかり、鎧と鱗が潰れ合う凄惨な音が響き合っていた。


互いが互いを潰し合うことに必死で、こちらへの防御態勢は微塵も感じられはしなかった。


「今が好機、ですね」


ユアンさんが言うと、片手を挙げ、凄惨な死地の方角へと振り下ろした。


「今を逃すな!! 奴らの屍を踏み越えろ!!!」


再び疾風の魔力が巨大な槍の形を形成していく。

その穂先が全てを吹き飛ばすように疾走を始める。


白骨、龍種、そして風槍が一地点で衝突する。


その血に塗れた混沌を制したのはーー


「このまま下層へ駆け抜けろ!!!!」


鋭い槍の穂先と化した疾風が、触れるもの全てを切り裂き、血路を開く。

守られる形で、追走していた私達は自然と殿を務める態勢となっていた。


「これだけの魔術の威力、龍種の鱗すら簡単に切り裂いていきますね……」


幾多の屍を築き上げた魔術の威力に慄いたのか、二つの勢力は動きを取れずにいた。

改めてその一つの生物のような魔術構築技術と、それを可能にする身体能力に驚かされる。


「おかげで、魔力を消費せずに次の階層へ行けるわね」


シャルさんは上機嫌で走っている。


「油断するな、よっ!」


バリスさんが背後の暗闇から追ってきた龍種へ炎の短剣を放つ。


脚部に短剣が刺さり、龍種は短い叫び声を上げると再び暗闇へと姿を消していく。


「そろそろ、武器も足りなくなってきたな……」


バリスさんが短剣のホルダーを見ながら、苦い顔でこぼす。


「ご心配なく。後は我々が」


暗闇から緑衣が浮かび上がる。

短くそう告げると、再び姿を消した。


「い、今のも緑龍旅団の方でしょうか?」


気配をまるで感じませんでした……。


そう考えていると、背後で小規模ながらも爆発音が聞こえた。


先ほどの方のものでしょうか?


ぼんやりと考えていると、爆風の余波が背を舐めた。


「これ、私たちも巻き込まれませんか!?」


慌てて走るのを早める。


「なくはないわね」


「言ってる場合か! 下層への移動装置が見えてきたから全力で走れ!!」


全員が息も絶え絶えに、移動装置へと辿り着く。


「う、動かせないのか!?」


先にたどり着いたバリスさんが叫ぶ。


緑龍旅団の方々が必死に操作盤らしきものを動かしていた。


「ええ、動作しないようでしてね」


ユアンさんは冷や汗一つかいてはいないものの、眼には動揺の色が見られた。


操作盤を見て、瞬時に理解ができた。

あれは、見たことがある!


「わ、私に任せてもらえませんか!?」


全員が焦燥を込めた眼で、こちらを見る。


「ガザ国で同じような装置を見せてもらったことがあります! 私がやってみます!!」


困惑する旅団の皆さんにユアンさんが言う。


「彼女に任せてみましょう。我々は防衛態勢を!!」


ユアンさんの号令で、旅団の方が一枚の壁のような防御態勢を築き上げる。


操作盤は、ザガ国で見せてもらった遺物と似たマークで構成されていた。


これなら……!


拙いながらも、必死に操作盤上で指を滑らせる。


壊れた継ぎ接ぎの街の闇から、刃が擦れ、蒸気が噴出する音が続々と迫ってくる。

無論、全てが敵意に満ち満ちている。


「フィ、こっちは気にすんなよ!」


「私たちがいるから安心して、操作なさい!」


二人は微塵も、私が失敗するとは思っていないことが伝わってくる。


この窮地を脱したい。


けど、それ以上にーー


二人の信頼を裏切りたくない!!


「これで、どうです!?」


最後のボタンを押し、僅かの沈黙の後、歯車が回り出す音が響き始めた。


「やった!」


心の声がそのまま漏れ出す。


「よくやったな! 後はこっちに任せな!」


「そこで休憩してなさい!」


バリスさんは炎を剣に宿し、シャルさんは鋭い冷気を杖に集中させ構えた。

緑龍旅団の方々も各々の武器に雷と風を纏わせる。


移動装置が下降を始めた瞬間、暗闇から刃と熱気がこちらを目掛けて襲いかかる。


構えていた全員がその急襲に合わせて、各々の魔術と武器を撃ち放つ。


衝撃波による突風が視界を塞ぎ、移動装置を震わせた。


*****


「ふぅ、なんとか防ぎきったな」


迎撃は成功に終わった。

その余韻に浸りながら、バリスさんが口を開いた。


全員が乗った移動装置は、順調に下層へと降りていく。


「魔力は消費しちゃったけれどね」


シャルさんが残念そうに呟く。


緑龍旅団の方々も疲労が顔に見え始めてきている。


「でも、皆さん無事で切り抜けられました!」


誰一人欠けることがなく、進むことができていれば御の字です!


「ははッ、確かにな!」


「フィは前向きで羨ましいわ」


ほんの少し、和やかな雰囲気に包まれた、その時だった。


頭上で金属が砕ける鈍い音が聞こえた。


「――あ、え?」


足が浮く。


いや、違う。


足場そのものが重力に従い、下層へと落下し始めていた。


移動装置の後を追うように、全員が暗闇へと飲まれていく。


先が見えないほどに深い深い、闇の中へ。


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