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クレイドル〜忘れられし天使の都〜  作者: アルス
第1部 クレイドル〜忘れられし鋼鉄の都〜
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第4章 * 眠れぬ過去の大群 *

ホーリット国のクランと情報を交換しながら、食事を囲んだ。


『ウォール』の入り口で衛士が倒れており、フィが鎧の人物に囚われたこと。


そこで俺たちがウォールに突入し、紅い龍から逃げ切ったこと。


ホーリットクランはその2つともに遭遇していないそうだ。

ホーリットクランが入った入り口から距離があったせいだろうか。


ホーリットクランからは、このウォール内の時空が何かしらの魔術により歪められている可能性があるとのことだった。

曰く、全く同じ道が繰り返す場所や、元来た道へ戻ろうとしたら、この場所に来ていたとのことだ。


また、巨大な塔の建物自体か分からないが、その周辺から魔力が濃密に流れてきているらしい。


その塔自体がかなり重要な場所の可能性がある。

結界の発生源かもしれない。


目指すべき場所として、考えていいかもしれないな。


「後な、これが信じられないんだが……」


アールがもったいぶる。


「何だよアール?」


「……実際に明日、外で見たほうが早いと思うんだが。俺たちが信仰している……」


「アール。見たままだけが全てではありませんよ。答えを急がないことです」


ぴしゃりとシエラさんがアールが言いかけたことを遮った。


「……というわけで、実際に明日見てくれよな! さ、食ったし寝るか!」


アールは自由だった。

ある種、これも強さの一つなのかもしれない。


しかし一体、外に何があったんだ?


気になるが、龍に百足に寝る暇がなかったので、誰も深くは反応する者はいなかった。


――全員が寝静まった頃。


天井から落ちる水滴とは別に、何かが集まってくる音がした。


「起きたか」


バリスが静かに確認する。


「ああ、何だ? 何が起こっている?」


俺も静かにバリスに問う。


「どうやら、新手が現れたらしい。大群でな」


バリスの言葉を確認するべく、周りを見た。


転送装置の明かりだけがぼんやりとトンネルを照らしている。


そのわずかな明かりに照らされて、いくつもの眼光が武器を携え、こちらを囲んでいた。

砕けた鎧や破けたローブを身に纏い、首元には小さな銀色が天井からの月光を反射し、小さく輝いていた。


「人、みたいな形じゃないか? だとしても……」


「話し合いは出来そうにないわね」


シャルも杖を構えて、戦闘態勢を取る。


「一難去って、また一難か」


イシュが盾を構える。


「皆さま、ここに結界を構築します。危険な時はここへ」


シエラが結界の詠唱を始める。


「さぁ、行こうか!」


アールの掛け声と共に、暗闇の大群も襲いかかってきた。


各々がそれぞれの武器で応戦する。


暗闇の大群は、そこらに落ちてる資材か、素手で殴りかかってきた。


「なっ!?やっぱり人じゃないのか?!」


驚き、声を上げる。


暗闇から現れたそれは、完全に姿形は人だった。


「言ってる場合か!襲われてんだぞ!?」


バリスが吠えながら、魔力を纏った大剣で横薙ぎする。


「それに、ちゃんと顔を見てみなさい!」


シャルに言われ、相手の顔を見た。


それは完全に人ではなく緑の表皮に、目が複数あり、口が裂け切っていた。


「なんなんだよ、ちくしょお!」


俺は爺ちゃんから預かったレンチを取り出す。


「変形〈トーチ〉!」


変形機構を取り入れたレンチの先端が伸び、炎を纏う。


「来るなら、容赦しねぇ!」


――広場にどこからか朝日が差し込んできた頃。


全員が生き残っていたが、まだ奴らにも生き残りがいた。


「ははっ、キリがねぇな!」


アールは相変わらず軽い調子で喋りかけていた。


「いや、奴らの勢いも落ちてきてる! もう一踏ん張りだ!」


俺が気張るために返答した。


――その時だった。


ズドンと、広間全体が軋むのが分かった。


「おいおい、暴れすぎちまったか?」


バリスが冷や汗をかきながら、周囲を見渡す。


「シエラ様、ここから避難しましょう」


「ええ、そうねイシュ。アール、あなた達も、ここは一度撤退した方が良いと思います」


「りょーかーい!」


アールが元気に敵を倒しながら、返答する。


「私たちも逃げる準備するわよ」


シャルが氷の棘で牽制しながら、敵から距離を取る。


ふと、アール達が結界を解いて、シエラと避難する準備をしているその頭上に。


奴らが飛びかかろうとしていた。


――ドクン。


自分の心臓が脈打つのが分かった。


今から叫んでも、間に合わない。


バリスもシャルも戦っている。


俺が助けなきゃ……!!


強い感情が体を駆け巡る。


その時、生身の右手に蒼い文様が浮き上がる。


自分の意思とは裏腹に、その右手は頭上にいる奴らへ向けられた。


右手から空中に魔法陣のようなものが浮き上がる。


自分でも驚くような冷たい目で敵を定める。


「放て」


右手から荒れ狂う灼熱の炎が、騎士達の頭上の奴らを焼き焦がした。


「うおっ、何だ!?」


アールが驚きながらも、イシュと2人で焦げた肉塊をシエラから弾いた。


「おまえ、その炎はあの龍の……」


バリスが驚きながらこちらを見てくる。


「ああ、俺にも何がなんだか分からないんだが……。肩、貸してくれないか?」


全身から力が抜けてしまっていた。


バリスが俺の肩を担いで、体勢を整えた時だった。


こちらとホーリットクランを分かつように、溶けた鉄骨が崩れてきた。


全員に被害は無かったが、ホーリットクランとの合流は絶望的だった。


「おい、その奥に地上への道があるぜ!」


アールが指差す方向に地上への階段があった。


「アール達はどうすんだよ!?」


崩れゆく広間で、叫ぶ。


「ああ、俺たちか? 最強のクランだからな! 心配すんな!」


アールは調子の良いことを叫ぶ。


「この広間の先に別のトンネルがある。私たちはそこから脱出を試みる」


イシュが補足してくれた。


「ほら早く行くんだ!」


アールが急かす。


「天井がひび割れてきてる! 崩壊寸前よ!」


「分かってる、行くぞ! 走れるか!」


「ああ、大丈夫だ!」


意識が少しはっきりしてきた。


バリスに肩を貸してもらいながら、地上に向けて走る。


「生きて会おうぜ!」


アールがなおも明るく叫ぶ。


「当たり前だ! アール達も絶対に生き延びろよ!!」


敵を倒しながら、アールは手を振っていた。


そのアールの姿も、崩れゆく広間と共に見えなくなる。


今は生き延びていることを祈るしかない……。


「あと少しだ、気張れよ!」


バリスが目前に迫る地上の光に目を細くしながら、励ましてくれる。


「見て、地上よ!」


シャルが階段を上りきり、光の先を指差す。


――そこには。


遠目に見えていた塔が女神の形だと分かるくらいに近づいていた。


そして、その頭上。


その塔へとーー


巨大な銀色の天使が微笑みながら落下していた。


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