第10章 * 継ぎ接ぎの街 *
暗闇の中に光を感じ、その方向へ振り返る。
「すごい……」
振り返った先にはいくつもの色鮮やかな光源に彩られた風景が広がっていた。
そこは、居住区のようであり、商店のようであり、工房のようであり。
一見乱雑に作り上げられた場所に見えるが、全てがそこで正しいと言うふうに風景に馴染んでいる。
その一つ一つの生活感を照らすように、妖しくも美しく極彩色の光源が明滅を繰り返しながら薄暗闇を彩っていた。
「しかし、こりゃあ一体どう言うことだ? 地下にあるのは龍の楽園じゃないのか?」
バリスさんが当然の疑問を口にする。
「そうね。上階もそうだったけれど、ここは明らかに人が住んでいた場所よね?」
シャルさんが冷静にここを分析していく。
「ですけど、これだけの地下都市を築いた人たちは一体どこへ?」
私が発した言葉に二人とも唸る。
「そこなんだよな。これだけの広さと技術力を持った人たちに一体何があったんだろうな」
今度は三人で唸る。
三人で目を閉じ、思考していると、耳に不穏な音が響いてきた。
バリスさんがすぐに大剣を抜き、前へと出る。
高速で回転する物体がバリスさんの大剣へ自ら突撃してくる。
「う、お、お、おおおおおお!?」
そのまま、大剣を坂のように駆け上がり、頭上を通り越していく。
後には金属が擦れた焦げた匂いが残される。
「い、今のは一体何でしょうか?」
戦闘態勢を取りつつも、呆気に取られてしまう。
「わからねぇが、会うもの全てとやりあう必要もねえ! 駆けるぞ!!」
バリスさんが明滅を繰り返す建造物群の中へと潜り込んでいく。
「フィ! 呆けてないで!!」
シャルさんに手を引かれ、ハッとする。
「い、行きましょう!!」
私とシャルさんも妖光の中へと身を滑り込ませる。
常に光と影が入れ替わる街の中、必死に次の階層への道を探す。
この街は本当に不規則で、寝床や何かを捌くような場所、小瓶に謎の物体が入った商店のような場所などが絡み合い、隣接していた。
先ほどの回転していた何かも気になりますが、この街もとても気になります!
魔物に警戒しつつも、街なみを観察していく。
瓶や壺が引き詰められたお店に、何かの実験室のような怪しすぎる場所が堂々と築かれている。
その中でも目を引く場所があった。
お肉屋さん、だったのでしょうか?
見たことのない生物の頭蓋骨が並び、各部位であろう骨が机の上に並べられている。
「はゎあ、一体どんな風に商いが行われていたのでしょうか?」
気になり一人呟いていると、やけに生々しい様子の、首、が!?
影で輪郭しか見えなかった首の口から、鋭い刃が自分の喉元を目掛けて飛び出してくる。
「くぅッ!?」
無理やり体勢を捻り、頬へのかすり傷一つでやり過ごす。
しかし、左右からも黒牙が商店を切り裂きながらこちらへと迫る。
迎撃の構えを取ろうとした瞬間、背後から氷の棘が左右の刃を打ち砕く。
SYUAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!
影から姿を現した黒牙の龍はのたうちまわって倒れ込む。
「フィ、無事!?」
シャルさんが冷気を漂わせた杖を握り、叫ぶ。
「だ、大丈夫です! 助かりました!!」
崩れた商店から離れ、シャルさんの方へ急ぐ。
「おいおい、次が来るぞ!!」
バリスさんが大剣を構え、継ぎ接ぎの都市の奥、影で隠れた方角を睨む。
――あ、れ?
すると、地面が揺れ出すような感覚に襲われた。
「何ですか、今度は!?」
轟音と振動が合わさりながら、こちらへと迫ってくる。
大剣を杖をそして、拳を構える。
その暴動のような存在が近づくにつれ、姿がはっきりとしてくる。
「あれは、さっきの!?」
分厚い鱗を纏ったような外皮に、熱気を纏った硬質の瘤のようなものが、金属製の通路を凹ませながらこちらへと迫りくる。捩じくれた角が側面に生えており、さらに攻撃範囲を広くしている。
摩擦なのか、熱気なのか、その背後に白煙を漂わせながら距離を詰めてくる。
街そのものを地均しするが如く、こちらへと肉薄してくる。
「みたいだな! 二人とも俺の後ろにいてくれ!!」
バリスさんが盾のように大剣を構える。
「あんたアレを受け止める気!? 無茶よ、受け切ったところで魔力が持たないわよ!」
シャルさんが必死に叫ぶ。
「ですけど、あの勢いではどこに逃げても破壊しながら追いかけてきますよ!?」
震える拳を握り締めながら、叫ぶ。
そんな私たち三人を待つこなく、巨大な火球のようなその群れと衝突する瞬間――
背に黒龍の刺繍が刻まれた緑衣たちが、継ぎ接ぎの街の暗闇から一斉に現れる。
「防御体制!!」
聞き覚えのある重い声が暗闇から響く。
すると、現れた緑衣の集団は大盾を構え人の壁を構築する。
盾と熱気の塊が重なり、激しい音と白煙を上げる。
衝撃が空気を伝わり、肌を震わす。
「突撃体制!!」
再び声が聞こえると、盾の後ろから別の槍を持った部隊が一斉に隙間から槍を刺し込む。
GUOOOAAAAAAAAAAAA!!!!!
回転する龍種の動きが、痛みを伴った咆哮と共に止まる。
「止めを!!」
槍を持った部隊とは別の部隊が前へと出る。
片手に直剣、もう片方の手には内部に魔力が渦巻くランタンのようなものを構え始めた。
剣士たちが並ぶと、その龍を象ったランタンの内部へ直剣を刺し入れた。
そして、すぐさまその剣を抜き出し構えた。
直前まで宿っていなかった雷の魔力が蒼い電流となり、剣に纏われていた。
その剣を一斉に振り上げ、回転する龍へと突き立てる。
刺突による傷とそこから注がれる雷の魔力が龍種の体内を焼き尽くしていく。
体表に生えた苔のようなものが、内部からの伝熱により焦がされていく。
GURUOOOOOOAAAAAA AAAA AAA
重なり合う咆哮が一つ、また一つと止んでいく。
完全に動きが止まったのを確認し、緑衣の剣士たちは剣を引き抜いていく。
「危ないところでしたね」
号令をかけていた威厳のある声が近づいてくる。
「ユアンさんっ!」
そこには、緑龍旅団団長のユアンさんの姿があった。
「あんたら、一体どこに?」
バリスさんが構えを解きながら聞く。
「ええ、私たちは恐らくですが……」
ユアンさんが説明に困ると言った顔で、一旦区切りながら再度話し始めた。
「恐らく、別の《クレイドル》からこちらへと移動してきました」
「別の?」
間髪を入れずにシャルさんが聞く。
――確かに、別の《クレイドル》って?
「私も説明に困っていましてね。ここに来るまでに見えた通路の景色を信じるならば、ここはいくつものーー」
ユアンさんが言い終える間際だった。
砕けた金属の破片が勢いよく飛び散り、こちらへと飛来する。
「うぅ!?」
咄嗟に籠手で防御の構えをとる。
横殴りの鋼鉄の雨が止み、瞼を開く。
すると、
目の前には、
見覚えのある白い鉄剣が、
振り下ろされーー
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