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クレイドル〜忘れられし天使の都〜  作者: アルス
第2部 クレイドル〜地底に眠りし龍の楽園〜
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第8章 * 白刃と黒牙 *

バリスさんの大剣と白の鉄剣が激しい衝撃音を響かせながら、ぶつかり合う。


「くッ! ここじゃ狭いわね……」


シャルさんが援護の魔術を放とうとするも、バリスさんと白骨騎士の激しい戦闘に魔術を差し込む隙が生まれない。


あの中に飛び込むのは厳しそうですね……。


激しい剣幕を見て、私も二の足を踏む。


バリスさんが白骨の剣士を壁際へと追い込んでいく。


その隙に、紅い血の海に沈む人へ駆ける。


「大丈夫ですかッ!? 返事を!!」


呼びかけても沈黙だけが返ってくる。


シャルさんに向き直り、懇願するように見つめる。


私の意思を察したのか、俯いて首を振る。


「そんな……!」


悔しさに拳を握りしめる。


よく見ると、首元に銀色に光る小さな板がかけられていた。


「これは、クランタグ……」


探索に出る際、どこで朽ち果てようとも、特殊な鉱石で作られたそれだけは永遠に銀色の輝きを失わない。いつまでも、その所持者の痕跡を残すために。


せめて、これだけでも……!


クランタグを仕舞い、激しい剣同士の衝撃音が響く方へと向き直る。


バリスさんは大剣に炎の魔力を込め、勢いよく白骨の剣士の鉄剣を打ち払う。


白骨の鎧は純白の壁に勢いよく打ち付けられたが、声を上げることなく無言で再びこちらを見据える。動きが止まったその姿をよく見ると、白い鎧を彩るように夥しい量の血が付着していることがわかった。


まさか、この白骨の剣士があの大量の血に染まった通路を作り出したモノの正体なの?!


バリスさんは体勢を整えて、白骨の剣士へと剣を構え直す。


「頑丈とかそういう次元じゃないな!」


バリスさんの大剣を握る手は、衝撃に痺れ、冷や汗が滲んでいた。


凹んだ壁から体を剥がし、白骨の鎧が再び剣を振り上げる。


バリスさんも再び大剣で受け切る。


「ぐっ!!」


徐々に白骨の鉄剣がバリスさんを押し始めた。


――その時だった。


「うッ!?」


突如、白骨の剣士の胸から黒い牙が勢いよく突き抜けてくる。


器用に大剣の向きを僅かに変え、火花を散らしながら黒い牙の軌道を逸らす。


「はっ、今のは予想できなかったが二度は通じねぇぜ?」


距離を取ったバリスさんが体勢を整え、斬撃を放とうと構えた時だった。


「バリスさんッ!! 今のはその白骨の剣士の攻撃じゃないです! その後ろからです!!」


「後ろだと……?」


バリスさんが思考するその僅かな間だった。


直後、重量感のあるその鎧が浮かび上がり、吹き飛んできた。


「ッ!?」


距離を保っていたバリスさんが、急に吹き飛ばされてきた白骨の剣士を紙一重で躱す。


地面へと転がっていく白骨の剣士に牙の主が追い討ちをかけていく。

白骨の剣士の後ろに隠れていたモノはーー


「龍種!!」


私は思わず叫んだ。


龍種が存在していた!

やはり、ここは伝承の《龍の楽園》に関係しているの!?


現れた龍種は、黒い鱗に薄らと緑の苔を生やし、長い尾をしならせている。

こちらを睨む眼とその両の黒牙は龍よりも狼に近く感じた。


――苔?

妙な違和感に襲われる。


そんな僅かな思考の間にも、黒牙の龍は何度もその牙で鎧を突き刺し、息の根を絶とうとしていた。


その横面を勢いよく拳で、その黒牙ごと弾き飛ばす白骨。


「何だかわからねぇが、今のうちに行っちまった方が良さそうだな……!」


バリスさんが大剣を背負い、気取られぬように話す。


「ちょっと、あれ!?」


シャルさんが驚愕の表情で黒牙の龍が来た方向を指差す。


「嘘、ですよね……」


その方向には、何頭もの黒牙の龍が迫ってきていた。


「こりゃ、いよいよ退散した方が良さそうだって、おい後ろ!!」


シャルさんの後ろに黒牙の龍が迫りくるのが見えた。


「ふッ!」


籠手に氷結の魔力を集中させ、勢いよく黒牙の龍へ打ち込む。


GURU RURU RU


咆哮がその身体と共に凍結されていく。


「シャルさん、無事ですか!?」


「え、ええ助かったわ」


シャルさんは冷や汗をかきながら、お礼を言う。


「シャル、この通路を氷壁で塞げないか!?」


叫ぶバリスさんの前方には、集まってきた黒牙の龍を白い大剣で一閃する白骨の剣士の姿があった。


確かにこのままじゃ、どちらかが雪崩れ込んでくる!

そうなれば、この狭い通路での戦闘は熾烈を極めるだろう。

それを防ぐためには、あの通路を塞ぐしかない。


「分かったわ、やってみる!」


シャルさんの周りの空気が冷気を帯び始める。

シャルさんの詠唱に乗り、銀色の風が通路を覆い始める。


「狂い咲け!」


シャルさんが最後の詠唱の一節を唱えると、美しい氷の華が通路を遮断するように狂い咲く。


「今のうちに行くぞ!!」


バリスさんが先行して、通路の先へ駆ける。


背後ではぎしぎしと氷の壁が軋む音が響く。


「時間稼ぎ程度にしかならないわね……」


シャルさんが歯噛みしながら言う。


「くそ、この場所じゃ戦いにゃ適さねえ!」


バリスさんもこの場所で敵に囲まれた際のことを想定し、唸る。


旧時代の武器庫部屋が並ぶ通路の中、思考しながら駆ける。


武器庫、火薬の匂い、狭い通路……。


「あの!」


バリスさんとシャルさんがこちらへ顔を向ける。


「この通路を爆破しませんか!?」


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