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クレイドル〜忘れられし天使の都〜  作者: アルス
第2部 クレイドル〜地底に眠りし龍の楽園〜
33/59

第4章 * 龍蓋都市ジール *

龍蓋都市ジール。


シーラ大陸の北に位置する平原に築かれた都市。


ここは各大陸への中継拠点になっている。そのため、行商人や輸送を請け負った冒険者の拠点としても利用されている。


ジール国城門前にて。


「ふわぁ! めちゃくちゃ大きいです!!」


ジール国の城門は立派に作られており、かなり規模の大きいものでした。


けれど、その上に見えるものは、それよりも圧倒的でした。


巨大な龍の顎が我々を飲み込もうと、その巨大な口を牙を剥き出しにしている。


「こいつが骨で助かったぜ……」


バリスさんが冷や汗をかきながら軽口を言う。


そう、巨大な龍骨、その頭部がこの街の門だった。

あの陽炎だと思っていたものが、骨とは言え本物だったとは!


「どれだけでかいのよ、こいつは……」


シャルさんも目眩がするように頭を押さえ、遥か彼方を見る。


頭部から連なる緑色の龍骨は国全てを包むように広がっていた。


「実際にここは、この龍骨に国全てが覆われているんですよ」


ユアンさんが教えてくれる。


「旧時代はこんな大きな龍が生きていたんですね……」


ふぇーと感嘆の息を漏らす。


今では龍骨の表面は緑が生い茂り、眼孔のあたりには何やら鳥類が巣を作っているようでした。

龍とは言え、いずれ朽ち果てるのは変わらないみたいです。

その遺骸が今では他種の寝床になっている事実に、どこか不思議な感動を覚えた。


「ん? そういえば、ホーリット国の奴らも来てるんだったよな?」


バリスさんは思い出したと言うふうに話す。


「まぁ、入国すれば嫌でも分かるでしょ。いつも派手だし」


お二人の話を聞いていると、ホーリット国のクランの皆さんはいつも派手な登場していたようですね。

私も負けていられません!


「私たちは物資の確認をするが、君たちはどうするんだ?」


ユアンさんが黒毛の聖霊馬から降り、聞いてきた。


「私たちはクレイドルの場所を確認したら、ジール国王へ謁見しに行きます!」


私たちはリンネ国王からジール国王宛の書簡を預かっている。

この書簡がジール国への入国許可証であり、『クレイドル』への探索許可証にもなる。


「そうか、粗相がないようにな。次に会うのは、『クレイドル』の中かもしれいな」


ユアンさんは私たちを優しく見送ってくれた。


大きく手を振り、一旦緑龍旅団の方々とお別れしました!


*****


「巨大です! 綺麗です!! 高まります!!!」


巨大な天幕が風に揺られて青空を時折見せている。

天幕には色鮮やかな刺繍が施されており、見るものの心を奪う。

吊り下げられた小型の龍の飾りも優雅に風を泳いでいた。


だが、それ以上に。


「本当にこの国全体を覆い尽くしているんですね!!」


巨大な天幕の更にその先。


青空をも飲み込もうとする大きさで、大龍骨が広がっていた。


物言わぬそれは、ただ悠然とそこにあった。

何年、何十年、何百年を重ねたのか、骨の上部分から植物が垂れ下がりながらも己の生態系を築き上げていた。


だらりと垂れ下がる蔦が直射日光を遮り、街に縞模様の影を映し出していた。

そのおかげか、どこか涼しげな風が街を走るように感じる。


天幕に揺れる龍の飾りを見ながら、バザールを通る。


広い道では龍種を象った布を被った人たちが音楽に合わせて踊っている。


……混ざりたい!


その欲求を我慢して、先へと急ぐ。


『クレイドル』が見つかると各地から探索者や商人が集まり、膨大な経済効果を生む、らしい。実際『ウォール』のときも、物凄い数の人たちが入国してましたね。


「ここもリンネ国同様、行商人たちが集まってきているな」


「そうね。戦い慣れた人間も多く見られるわね」


街を往来しているのは行商人の他に、剣や杖、鎧や盾に身を包んだ者たちも多く見られた。


「なんだか、クランの方ってよりも荒っぽそうな方が多いですね……」


各国の紋章を背負った鎧ではなく急造の装備をつけている人も少なくなかった。


「どうやら、《クレイドル》が急に出現したせいで正式な探索者以外にも、街周辺の魔獣対策として傭兵を雇っているのかもな」


バリスさんが冷静に分析して教えてくれた。


「そうね。もう一つ、このシーラ大陸は大国が小国を飲み込んで成長してきた歴史があるわ。そのために戦場がいくつも生まれ、そこで生き残ったものたちがここに流れ着いているのかもしれないわね」


シャルさんの言うとおり、正式な国の紋章が刻まれていない、もしくは削り取られた装備をつけている人たちは目つきがやはり違うように感じられた。


「ま、安心なさい。流石に都市の中で何かやらかそうと言う奴はそうそういないわよ」


……時々いるのかな?


「そうだぜ、フィちゃん。何か起こるとすればクレイドルの中っ!?」


バリスさんがシャルさんに勢いよく叩かれる。


「フィを心配させてどうすんのよ?」


シャルさんがじとりと見下ろしながら、バリスさんを責める。


「あはは、シャルさん大丈夫ですよ!」


私は苦笑いしながら、バリスさんをフォローする。


「本当? フィ、今ならまだーー」


「シャルさん」


私はシャルさんの言葉を遮り、真っ直ぐに2人を見る。


「私はどんな場所であろうと、トライを迎えに行きますよ!」


迷いなく、己の思いを改めて2人へ告げる。


「ふぅ、そう言うわよね」


シャルさんは、呆れたように言葉にしたけど、その目は嬉しそうに閉じられており。


「そうこなくちゃな、フィちゃん!」


バリスさんは全力で肯定するように笑ってくれた。


「私、いえ私たちで迎えにいきましょう!」


私たちは3人は歩みを進める。


――彼の笑顔と再会するために。


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