第3章 * 緑龍旅団 *
翌朝。
透き通るような青空に薄い雲が揺れる。
赤と青の太陽が燦々と照りつける平原に、私は横たわっていた。
「ふあ〜! よく寝ました!」
伸びをしながら辺りを見回す。
バリスさんもシャルさんもすでに起きて、朝食の準備をしていました。
「おはようございます! 朝食の準備、私も手伝います!」
「おはよ、起きたのね。準備の前にそれで顔洗いなさいよ?」
シャルさんの氷結魔法で作った入れ物に氷から生成した水を入れて、顔を洗う。
「ふぅ! すっきり!」
顔を拭くと、より朝を感じた。
草原に吹く風が、朝のためかまだ少し冷たい。
地平線まで続く草原と壊れた旧時代の遺構が転々と散らばっている。
どこまでも続くように伸びた石橋や、途中から折れてしまった塔のような遺構などがかつての栄華の残り香を漂わせていた。
巨大な砲台のようなものが朝日に狙いを定めながら、朽ち果てている。
かつての旧時代の戦いのものか、今では役目を終えて眠りについている。
そして、それとは対照的に地平線の果てには、生命の息吹を思わせる巨大な緑色の影が揺らめいていた。
あれは、龍?
まさか、ですね。
であれば、あの大きさは陽炎の類でしょうか?
――彼を探すため、そのためだけど。
目の前の風景に、自分の中に冒険心というものが存在していたんだと気付く。
「さーて、今日もやってやりますよお!!」
「何をだよ……?」
「早く朝ごはんの準備手伝いなさい?」
私の決意の叫びは、バリスさんとシャルさんに軽く受け流されました。
気を取り直して。
「はぁい! ただいま行きますよ!」
私は2人の元へ急ぐ。
今日も新しい冒険の1日の始まりです!
*****
朝食を食べ終えて一息ついた時に、太陽が輝く地平線から、大勢の黒い影がこちらへ向かって来ていることに気がつく。
「なんだ、この辺を巡回している騎士団なんて知らねえが……」
バリスさんは側に置いていた大剣に手をかける。
「まぁ、こういう場合は野盗とかの可能性が高いわね」
シャルさんも氷結晶が先端に装着されている杖を構える。
「ちょ、ちょっと2人とも! 気が早いですよ!」
構える2人を落ち着かせようとあたふたしてしまう。
うぅ、そんなに警戒しなくてもいいんじゃないですか?
内心でそう考えながらも、2人を見ていると自ずと警戒心が高まってしまう。
太陽を背に現れた集団は一様に緑の外套を風にたなびかせ、こちらへと向かってくる。
念のため、静かに装着した籠手が震える。
そんな警戒とは裏腹に、集団の先頭から威厳がありながらも優しい声が聞こえた。
「旅の方々ですかな?」
先頭にいた男性が頭からかぶっていた外套を外し、こちらを見てきた。
「そうだが、あんたらはこの辺の自警団かい? 後ろの方々は外套に隠れちゃいるが、得物を構えるのはちょっと物騒だよな?」
バリスさんが私の態度とは正反対に強気で、集団のリーダーと思わしき方を問い詰める。
「ああ、これは失礼。私たちは『緑龍旅団』というものです。最近、ジール国の探索クランとして任命されました。以後、お見知り置きを」
私達にクランの証明書を見せながら、団長さんは言った。
「最近クランとして任命された……? あなた達、もしかして」
シャルさんが何かに勘付いたように聞く。
「ええ、この大陸の伝承にある《龍の楽園》の調査を正式に任命されました。《クレイドル》と言うよりはこちらの方が我々にとって馴染みのある呼び方でしてね」
――《龍の楽園》。
このシーラ大陸で、蒼陽暦ができるその何千年も前から語り継がれている伝承。
曰く、この大陸の地中に幾千の龍が住うとされている楽園があると。
今ではその正体が《クレイドル》という説が提唱されています。
もちろん、シャルさんに習いました!
「私たちもです! 私たちも、《クレイドル》の可能性がある伝承の《龍の楽園》を目指して来ました!」
目的地が一緒なら、もう仲間ですよね?
「フィ、あなたね。リンネ国王からこの件は、内密での行動と仰せつかったでしょ!」
「シャル、お前も喋りすぎだ……」
シャルさんがしまったという顔をすると、バリスさんはやれやれとため息をついた。
「疑ってすまなかった。俺はバリス=ズワルト。こっちの魔術師がシャル=プレニオール。そして」
「私はフィ=トラッシュです! よろしくお願いします!」
挨拶は元気よく!
「これはご紹介ありがとうございます。私はユアン=ダイクスーア。こちらは緑龍旅団の団員達です」
団員達は頷きこそすれど、沈黙を守っていた。
厳しい戒律か何かがあるのだろうか。
「我々もここに来るまで龍種の遺骸やそれに対しての戦闘痕跡が複数あったので、警戒をしていたのです。無粋な真似をしてしまい、申し訳ない」
団長さんは深々と頭を下げた。
確かに来た道では、地面が荒れたり、遺構が壊れている箇所がありましたが……。
複数の戦闘痕跡、他にも龍種と相対した方がいたのでしょうか?
先行していた『あの』クランの方々?
それとも……。
「そのことはもういいぜ。それより、ジール国へ行くんだろ? この辺の道を知ってるなら教えてくれないか?」
バリスさんは地平線の先を指差す。
「ええ、もちろんです。それでは行きましょうか。《龍の楽園》、いえ、あの国ではこう名付けられたのでしたね」
ユアンさんがゴホンと咳払いをする。
「《クレイドル》『ローク』が発見された国、ジールへ」
ユアンさんが道案内を買って出てくれた。
「よろしくお願いします! バリスさん、シャルさんも早く!」
2人ともやれやれと言った風に聖霊馬を走らせ始めた。
「あんた、すぐに信用しすぎよ?」
シャルさんが近くで小さい声で耳打ちしてきた。
「大丈夫ですよ! それに私達この大陸自体初めてなんですから、頼っちゃいましょう!」
シャルさんもこれ以上は何も言うまいと首を振った。
さぁ行きましょう、ジールへ!
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