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クレイドル〜忘れられし天使の都〜  作者: アルス
第1部 クレイドル〜忘れられし鋼鉄の都〜
25/59

第24章 * 堕ち行く天使と散り行く廃都 *

崩れゆく結界の隙間、灰色の都が暖かい太陽の光に照らされる。


澄み渡る青空を背に、それは堕ち始めた。


ーー天使。


両の手で構えた真紅の大剣をこの地に突き立てようと、迷いなく落ちる。


「どうして、今まで動きがなかったのに……!?」


揺れる天使からデルタを連れて、退避するトライ。


「旧支配者。大層な椅子で死んでた爺さんの心臓が天使を留めていた結界解除の第一の鍵だったのさ」


それを壊したのは、俺だがなと笑うデルタ。


「なぜ、そんなことを?!」


「さてね、トライのように好きに生きたくなっていたのかもな」


この檻を壊してなと続けた。


「だが、結界第二の鍵を壊したのはお前だ、トライ」


ひらひらと切断された方の腕を揺らすデルタ。


「まさか、お前の紅腕の片方が……!」


「その、まさかだよ」


デルタは冷笑を含んだような声で、目を閉じて答えた。


「くそっ! そんな、どうすりゃいいんだ!?」


恐らくあれが落ちたら、ここどころか隣接する国々も壊滅する。


狼狽る俺を見て、デルタは口を開いた。


「あの天使は、破壊できる。……俺たちならな」


――そうか!


「蒼腕と紅腕か!」


「そうだ、それでなら天使を破壊できる」


一瞬、顔を伏せて答えるデルタ。


「それなら、すぐに2人であの天使を破壊しよう!」


塔の頂上に着陸する。

フィとバリス、シャルが集まってきた。


「トライ、大丈夫なの?!」


フィが心配そうに聞いてくる。


「あぁ、心配ないよ! それよりも、早くここから脱出するんだ!! あの天使が落ちてくる!!」


3人へ頭上の天使のことを伝える。


「あの速さでこのまま落ちてきたら……!!」


シャルは絶望的な表情で見上げる。


「お前はどうするんだ? 何か覚悟を決めたように見えるぜ?」


バリスがこちらの思惑を見透かす。


「トライ、一緒に脱出しないの?」


フィはせっかくの再会を喜ぶこともできずに、こちらを見てくる。


「ああ、あれを壊せるのは俺とデルタ、あの鎧の男だけみたいなんだ。すぐに済まして、フィに会いに行くよ!」


フィは複雑な感情を笑顔へ変え、トライを見つめる。


「……分かったわ。絶対に会いにきてよ!」


「ああ!待っててくれ!」


フィへ再会を約束すると、バリスとシャルの方を見る。


「バリス、シャル、ここまでありがとう。フィを連れて先に脱出してくれないか?」


2人へお願いをする。


「……トライ、あんた一人で大丈夫なの?」


「ああ! 任せてくれ!」


シャルの心配を打ち消すように伝える。


「まあ、俺たちがいても、アレはどうにもできそうにないからな! その代わり、フィちゃんのことは任せな!」


「ああ! 頼む!」


バリスと約束を交わす。


「トライ!」


フィとバリス、シャルが転送魔道具で入り口へと戻ろうとした直前。


フィが俺の名を呼んだ。


「どうした? フィ」


俺はいつも通りの調子で聞いた。


「トライ、私待ってるから! 帰ってきたら今度は一緒に色んな所へ行こう!!」


「ああ、待っててくれ! 一緒に冒険に行こう!」


フィとバリス、シャルが転送魔道具の光に包まれ、一条の光となり『ウォール』の入り口へと飛翔した。


俺はその光景を静かに見送り、デルタへと向き直る。


「さあ、あいつを止めるぞ! デルタ!!」


天使を眺めていたデルタを呼ぶ。


「……仕方ない。俺もここで死にたくはないからな。だが、その前に」


デルタは翼がついた部分の鎧を取り外した。


「くれてやる」


「え?」


呆気にとられた俺は間抜けな声を出してしまった。


「どうしたんだ、いきなり?」


当然の疑問を聞いた。


「お前の魔力の翼が片方欠けただろ。それで補え」


確かにさっきの戦いで欠けたが…。


「お前は、いいのか?」


「俺に翼は必要ない」


ぶっきらぼうにそう答えた。


「さて」


やれやれといった風に紅い腕を起動するデルタ。


「俺は片腕だ。大した力は出ないからな」


隻腕の紅腕を見せるデルタ。


「ああ、わかってる。だから、俺が全力を出す!!!」


翼の鎧を装着した俺は蒼腕の起動を始める。


今までよりも強く輝きながら、蒼腕が形作られて行く。


上空には真紅の大剣をこの塔目掛けて、突き刺そうと天使が落ちてくる。


「なんて迫力だよ……!」


冷や汗を流しながら呟く。


「だが、破壊するのだろう?」


お前の大事な者を守るためにとデルタは聞いた。


「そうだ、誰が相手でも俺の大事な人たちを守る!!」


蒼と紅の輝きが塔の頂上で交差する。


「行くぞデルタ!!」


「準備はできている!」


塔の頂上を貫こうとする真紅の大剣を蒼と紅の巨大な腕が受け止める。


「「うおおおおおおおおおおおおお!!!」」


トライとデルタが叫ぶと腕から魔力が溢れ出す。


天使の大剣と魔力の腕が衝突し、塔の頂上では暴風が吹き荒れる。


魔導転送装置が吹き飛ばされる。


「ははっ、中々の重量だな!!」


実際どれだけの質量なのか計り知れない天使を受け止める。


「……言っている場合か」


真紅の大剣を蒼と紅の光が押し返そうとより一層輝く。


「くっ!! 2人がかりでも無理なのか!?」


落ちる大剣の質量、魔力量はやはり桁外れだった。


「……トライ、いい作戦がある」


デルタが顔を伏せながら提案する。


「デルタ、策があるのか!?」


わずかな希望を託し、聞く。


「ああ、作戦はシンプルだ。こうするんだよ」


デルタはいきなり思いっきり俺の腹へ蹴りをかました。


「なっ!?」


天使を支えていた手が離れる。


その影響か、塔の頂上はさらに強風が吹き荒れる。


「なにしてんだ、デルタ!!」


元の場所に戻ろうとしても、風に押し返され、思うように動けない。


「お前が本当に守りたいものは何だ?」


デルタが問いかけてくる。


「いきなり何を」


「答えろ」


凄まじい風が襲いくる中、不思議とデルタの声は鮮明に届いた。


「俺が守りたいのは、フィだ。そしてここまで来てくれたバリスとシャル、クランの戦友達、俺を温かく迎えてくれた国の人達だ」


素直に答えると、デルタは顔を見せないままでも、確かに笑った気がした。


「……分かってるじゃないか」


デルタはぼそりと言うと、天使へ向き直る。


デルタの隻腕が今まで以上の輝きを放つ。


「デルタ、1人でどうする気だ!?」


渦巻く風と魔力の壁の外側から叫ぶ。


「トライ、気づいているだろうが、2人ならば天使を完全に消し去れるだろう」


「ああ! 俺たちなら出来る!!」


デルタの言葉はある種の信頼と感じ取れた。


「できる。だが、その時俺たち2人もまた消え去り、この崩壊の余波を防げる者はいなくなる」


「……」


薄々は感じていた。

無事では済まないだろうと。


「だからってお前を1人には!」


「守るべきものを間違えるな!!」


デルタの言葉が突き刺さる。


「さっき言ってただろ? お前の守るべき者達は誰なのか」


言葉はもう、出てこなかった。


唇を噛みしめ、『ウォール』の出口へ向く。


「……いろいろ言いたいことはあるけど」


今言えるのはこれくらいだった。


「……ありがとうな!」


俺は塔から飛び降り、魔力の翼を展開する。

眼下には各クランの戦いの痕跡があった。

全員うまく逃げれたようだ。


背後では赤い大剣と腕が衝突し、眩い光を放っていた。


「……っ!」


デルタにあれ以上かける言葉はなかった。


争った者同士ではあったが、あいつは確かに俺と同じ部分があったんだ。

奴も本当は、この世界の外側へ行きたかったんだ……!


背中に迫る巨大な魔力圧を再認識し、感傷を無理矢理捨て、守るべき者達の元へ急ぐ。


女神の塔を中心に日の出のような赤い光が『ウォール』の中を照らす。

街はやっと眠れると言った風に、崩壊を始めていた。


間に合ってくれ……!


恐らく、他のクランよりも遅く避難したフィ達は『ウォール』の壁の中だろう。


このままでは、魔力を伴った爆風が彼女らを襲うことになる。


一段と強く魔力の翼を展開し、空を駆ける。


『ウォール』の出口が遠目に見えてくる。


訳もわからずに突入してしまった時のことが思い出される。


あの時は、フィのことで周りが見えてなかったな。


緊迫した中、そんなことを思う。


よく、あの時あの赤龍から生き残れたと今でも思う。

しみじみと状況にそぐわない感傷に浸ってしまう。


――そう、あの紅龍を思い出した時だった。


ごうと、背後から異質な風を感じた。


それは、巨大な翼が作り上げる風の音だった。


……嘘だろ!?


一気に汗が噴出する。


振り返るとそこには、幾度と浴びたあの紅い殺意がこちらへと再び照準を定めていた。


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