第22章 * 乗り越える時 *
燃え盛る大剣と鋭利な氷の刃が衝突する。
互いに引くことなく、魔力の火花が散る。
バリスと氷刃の魔術師が競り合う中、シャルは氷壁の魔術師と死闘を繰り広げていた。
「お母様、今解放します……!」
シャルが氷の鎌を大きく振りかぶり、お母様と呼んだ氷壁の魔術師へ斬撃を放つ。
氷壁の魔術師は、余裕そうに氷の盾を前面に展開し、防ぐ。
「ここよ!!」
盾で視界が塞がれた一瞬の隙を突き、側面へ回り込むシャル。
氷弾を即座に展開し、放つ。
前面の盾を取り回すより先に氷弾が相手を穿つ。
――はずだった。
前面の盾が溶け、代わりに瞬時に側面へ小型の盾が幾重にも展開し、氷弾を全て防ぎきった。
「流石ね、お母様……!」
その横では魔術を駆使した剣戟が繰り広げられていた。
「全くだよなあ! 兄貴といい、強え奴が山ほどいるよなあッ!」
バリスが畳み掛けるように氷刃の魔術師へ斬りかかるがそれを全て氷刃の魔術師は弾いていく。
ダメだ、全く隙がねぇ……!
バリスは斬り合いの中、相手への致命打を入れられずにいた。
横目でシャルを見る。
シャルも戦術を変えながら氷壁の魔術師と戦っているが、有効打が入れられない状態のようだった。
こうなったら、一か八かだな……!!
バリスは腰に下げた刀を確認する。
「シャル、俺の後ろに来い!!」
バリスは叫ぶ。
「無茶、言うわねッ!!」
シャルは何とか氷弾で牽制しながら、バリスの後ろへ移動する。
「シャル、俺が言うタイミングで結界を張ってくれ!!」
氷刃を受けながら、苦しそうにバリスは指示する。
「分かったけれど、早くしないと!!」
シャルは氷壁の魔術師へ氷弾で牽制を続けていたが、じりじりと距離を詰められていた。
バリスは勢い良く氷刃の一撃を弾いた。
僅かに相手の動きが止まる。
「今だ!!」
バリスが叫ぶと、シャルは氷の結界をバリスの前面へ展開する。
氷刃が結界に阻まれる。
だが、氷刃の威力は大きく、結界が軋みを上げる。
「バリスッ、そんなに保たないわよ!?」
シャルは悲鳴に似た叫びを上げる。
「こんだけ保てば、充分だッ!!」
バリスは大剣を地面へ捨てる。
シャルは驚愕のまま、言葉が出ない。
バリスは大剣を捨てた動きのまま、腰の刀へ手を伸ばす。
「〈斬魔〉!!」
勢い良く鞘から『薄明』を抜き出し、そのまま氷の結界ごと前方を斬り裂いた。
結界が刀で一閃した場所から崩れていく。
折れた刀身でも、未だに魔を切り裂く力は衰えていなかった。
――そこから現れたのは。
「うぅッ……!」
バリスの一閃を胴体に受け、血を流して呻く氷壁の魔術師だった。
「なっ!?」
バリスはその光景に動揺する。
氷壁の魔術師はシャルが牽制を辞めた瞬間に自身の盾をも解除し、氷刃の魔術師の前まで
瞬時に移動していた。
身軽になるために盾を解除していたため、盾を展開する前に刀の致命傷を受けていた。
「お母様……」
シャルが静かに呟いた。
「ゥウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
氷刃の魔術師が狂ったように魔力を増大させていく。
「まずい……!!」
バリスが咄嗟に構え直すが、巨大化した氷刃が振り下ろされる方が早かった。
「バリスッ!!!」
シャルが叫ぶと、首にかけていた氷魔石が蒼い光を放つ。
バリスを守るように幾重もの巨大な氷の棘が氷刃の魔術師へ突き刺さった。
「オ……オォ……」
氷刃の魔術師は氷壁の魔術師を庇うように倒れた。
2人の氷の魔術師は静かに灰へと姿を変えていった。
「お父様、お母様……」
シャルは下を向きながら、拳を握りしめた。
「おい、シャル。大丈夫か……?」
バリスもどう声をかけていいか迷った。
「……行くわよ、バリス。トライが待ってるわ」
シャルは灰となった両親を背に、塔の頂上へ歩み出した。
その表情は凛とした迷いのないものだった。
「ああ、さっさとあいつとフィちゃん助けて帰ろうぜ!」
バリスは大剣を背負い直し、シャルと共に歩み始めた。
トライが死闘を繰り広げる塔の頂上へと。
NEXT




