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クレイドル〜忘れられし天使の都〜  作者: アルス
第1部 クレイドル〜忘れられし鋼鉄の都〜
22/59

第21章 * 再会と因縁と *

螺旋階段の先、女神の塔の最上階。


薄暗い中、前へと進む。


一人で心細くないといえば、嘘になる。


だが、今は進むしかない。


2人が開いてくれた道を真っすぐに。


覚悟を決め薄暗い通路を駆ける。


すると、ほのかな明かりに包まれた筒状のものが鎮座していることに気付いた。

それはいくつも規則正しく並べられ、何か巨大な線のようなもので繋がれていた。


「なんだ、これ……?」


巨大な筒状のものへ近づく。


「うわっ!?」


中身を見て、仰け反ってしまう。


中には脳髄が液体の中を浮かんでいた。


「……何が目的なんだ?」


勇気を出して、もう一度覗き込む。


脳髄は至る箇所に細い線のようなもので繋がれていた。

それは青い魔力反応の光を出していた。


「まさか、こいつは魔力を吸い上げているのか……?」


太い線が中央にある装置へと繋がれていた。


「こんな方法で魔力を吸い上げていたなんて……!!」


怒りが込み上げてくる。


これは、これだけは破壊するべきだ!!


「……すまない、今楽にするから」


装置へ蒼腕を叩きつける。


装置は派手な音を響かせ、煙を吹いた。


筒状の中から、青い魔力反応は消え失せた。


魔力反応は生者からしか発生しない。

あの中の脳髄だけになった人もなんらかの方法で強制的に生かされていたんだ……!


眼に怒りの色を浮かばせながら、この階層の先へと進む。


先には階段があり、頂上からの光が漏れていた。


屋上へと上がると、そこには曇天の空が重くのしかかるように広がっていた。


「フィ、どこだ!?」


恐らく、あの鎧も一緒にいるはずだ。


警戒しながら、辺りを見回すと屋上の端に、街を見下ろすように豪奢な椅子が飾られていた。


そこに、誰かが座っているのが見えた。


「フィ!?」


椅子に駆け寄る。


椅子に座る布を被った人物に手をかけると、ごろりと何かが落ちた。


理解が追いつかず、ゆっくりとその床に落ちたものを見る。


布が取れたそれは、人の頭蓋骨だった。


「なっ、あっ!?」


首を無くした胴体はなおも静かに椅子に座り続ける。


落ち着くように息を整え、もう一度椅子に残された胴体を見る。


豪奢な椅子にふさわしい豪華絢爛な服装だった。


だが、その服装は男性用のものであった。


「フィじゃ、ない……!」


安心と同時に疑問が芽生える。


じゃあ一体この遺体は誰なんだ?


フィはどこだ!?


「お前が探しているのは、この娘か?」


頭上から声が聞こえた。


顔を上げると、そこには鎧の人物とーー


「フィ!!」


――フィが抱きかかえられていた。


「フィを離せ!!」


怒りの感情が溢れ出る。


「落ち着け。今降ろしてやる」


そう言うと鎧は静かにビルの頂上へ降り立ち、フィを床へ降ろした。


「フィ!!」


フィに駆け寄る。


抱きかかえたフィは瞼を閉じながらも、静かに息をしていた。


「……良かった、本当に!」


俺がフィを抱きかかえ、涙を流すところを鎧は静かに見ていた。


「……お前は、一体誰なんだ?」


落ち着き、鎧へ向き直り問いただす。


「お前が一番知ってるだろう。それともまだ記憶が戻らないか?」


ふんと冷笑とも嘲笑ともとれる声で笑う。


「まあいい。デルタ、とでも名乗ろうか」


デルタと名乗った鎧の男は、さも俺が既にデルタについて知っているような口ぶりで喋る。


今までのことから、答えはすでに解りかけているが、心の奥底で拒んでいた。


「……記憶が不完全なようだな。ならば、少し話そうか」


鎧は街を眺める豪奢な椅子に近づき、話し始めた。


「俺はお前と同じ、兵器だ」


デルタは崩壊した街並みを見ながら、語り出した。


「へい、き…?」


――何を言ってるんだ……?


「そうだ。お前はこの国、壁の外の言葉で言う『ウォール』を守るために造られた兵器だ」


俺が、『ウォール』を守るための兵器だって?


「お前は、あの紅龍と今まで何人もの侵入者を葬ってきた」


俺が……?

アルクの言葉の通りだったのか……?


「だが、ある日お前はこの壁の中から逃亡した。何がお前を変えたのか。一瞬の出来事か、積もり積もった末なのかは知らないが」


――逃亡。


だから俺はあんなに傷を負って、外の世界にいたのか。


「お前を廃棄するように言われ、追撃したのが俺だ」


デルタは冷たく語り続ける。


「デルタが、俺を?」


「そうだ、あの赤龍と共にな。だが、やはり全盛期のお前は底しれない強さだった。もう少しのところだったが、お前は外の世界へ逃げ果せた」


俺は、あの赤龍とデルタを相手に死ぬ間際で逃げ切れたのか……。


「あれから俺は待った。再び、ここへお前が戻るのをな」


待っていた?


俺を?


何故?


「お前は、デルタは、俺がここまで戻ってくるのも計算済みだったのか?」


純粋な疑問が浮かび上がる。


「ああ、少し手回しが必要だったがな」


「手回し……?」


何のことだ?


――そう、訊こうとした時だった。


「もう、話はいいだろう」


そう言うと、デルタは崩壊した街並みからはこちらへ視線を移した。


「なあ、上を見てみろよ」


デルタは頭上を指差した。


「……なっ!?」


曇天の空から銀色の微笑みを浮かべた天使像が、その手に持つ真紅の大剣ごとこの塔へゆっくりと、だが確実に突き進んでいた。


「あの天使の形をした兵器はもう直ここへ落ちる。防ぐ手立てはない」


受け止め難い事実を立て続けに話すデルタ。


「あれは、止められないってのか!?」


状況が飲み込めない。


「ああ、そうだ。ここから逃げ切る以外に生き残る方法はない」


だがと一息置き、デルタは話す。


「逃げ切るにも結界が展開している」


塔を囲む結界が薄らと魔力反応を放ちながら揺らめいている。


「じゃあ、誰も逃げられないってことか!?」


皆を!


フィを守れないってのか!?


「いや、一つ解決方法がある。この結界の発生装置は」


デルタが一瞬間を置く。


その一瞬に思考が駆け巡る。


発生、装置……?

工場で戦った結界を兼ねていた天使の紛い物を思い出す。


「俺だ」


デルタが鎧越しにゆっくりと笑った気がした。


――後は、わかるな?


そういうと、デルタは腕の外側に赤い魔力の腕を形成した。


まるで、俺の蒼腕と対をなすように。


そして、一瞬でその腕の間合いへ踏み込んできた。


「くっ!!」


咄嗟にこちらも蒼腕を形成し、紅腕を掴む。


そばに寝ていたフィの様子を見ながら、デルタを警戒する。


「この娘は傷つけるな!!」


デルタを睨みながら吠えた。


「それは、お前次第だろう」


蒼と紅の魔力反応が激しく衝突し、魔力の火花が辺り一面を照らす。


――真紅の炎と群青色の氷が衝突するように。


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