第19章 * 螺旋の先へ *
塔の中は予想外にがらんとした様子だった。
白い壁面が頂上まで続いていており、その整然とした雰囲気は人が作り上げたものとは思えなかった。
その純白の壁に巨大な螺旋階段がこちらだと導くように存在を強調している。
だが、その一面の白世界に墨を垂らしたように異形の群れが待ち構えていた。
「そりゃ、いるよなあ!!」
現れた黒色の結晶の魔獣達に対して構える。
――結晶を纏う獣達がこちらへ一斉に飛びかかってきた時だった。
「ふぅ、やれやれ出番ですかね」
蒼き閃光が獣を結晶ごと引き裂く。
「マスター、頂上行かなくていいの?」
「マスター、迷彩魔術解いちゃうの?」
ザガクランの面々が背後から姿を現わす。
「いいんですよ。ここから先は彼らに行ってもらいましょう」
ザガクランリーダーとネフェとニフェが次々と獣を蹴散らしていく。
「ザガクラン! 助けに来てくれたのか!?」
トライが叫ぶと、ザガクランリーダーは少し笑ったそぶりを見せた。
「ええ、そんなところです。私たちのことはご心配なく、それよりも先へ」
螺旋階段への道が獣達の亡骸の上に開かれていく。
「恩に着る!! また、壁の外で!!」
俺たちは感謝を告げ、ひたすら頂上を目指して螺旋階段を駆け上がる。
塔の一階から激しい戦闘音が背中へ叩きつけるように響いてくる。
皆のためにも早く、頂上へ……!!
――焦燥に駆られている、その時だった。
螺旋階段を半分ほど登り終えたところで、空中に白い輪郭が浮かび上がる。
「おいおい、またこいつらかよ……!」
先頭を行くバリスから苦笑いが漏れる。
そこには幾重にも吊るされた天使像が待ち構えていた。
「これを相手にしなきゃいけないの!?」
シャルも憎々しげに叫ぶ。
天使像は無限に思える数の魔力弾を放って来たはず!
――俺の蒼腕だけで防ぎきれるか?!
幾重もの焦燥が身体を覆う。
微笑む天使はその口を開き始める。
魔力の輝きが塔上層の至るところから放たれ始める。
「くそっ! やるしかない!!」
俺たちは決死の覚悟で構えた。
天使像の魔力の充填が終わり、魔弾が放たれる直前――
「〈ラウンド〉!!」
丸い結晶の盾が俺たちを覆うように空中に展開される。
魔弾は空中で結晶の盾と衝突し、霧散したように見えた。
「まだだよ!」
結晶の盾から魔弾の光が再び灯り始める。
「いけえ!」
フードから結晶の獣耳を出した少女が叫ぶと、結晶の盾が天使像目掛けて魔弾を打ち返した。
自ら吐き出した灼熱の魔弾に身を焦がす天使像の群れ。
多くは燃えさかりながら塔の中を落ちていく。
「ティナ!!」
俺は叫ぶと、ティナはこちらへ振り返った。
「遅くなったけど、間に合ったみたいだね」
にこっと笑顔を見せる。
「あらあら、ティナだけじゃないわよ?」
紅く輝く9本の尾を自在に操り、空中の天使像を叩き落としていくジェラ。
「私もいるわよ!!」
結晶の剣を空中に展開させ、一斉に解き放ち天使像を破壊していくトワラ。
「レイスタルのみんな!!」
レイスタルクランのい3姉妹が揃って、俺たちを守るように陣形を組む。
「さあさ、行きなさいな」
ジェラは再び跳躍する構えを取る。
「ここは私たちに任せて」
ティナが空中に幾重もの結晶の盾を展開していく。
「あんた達は一気に頂上を目指して!」
トワラが結晶剣を創出し始める。
「すまねえ! 恩に着るぜ!」
「ありがとう! 先にいかせてもらうわ!!」
バリスとシャルが先行してまた走り始める。
「レイスタルのみんな、また壁の外で!!」
レイスタルクランの三姉妹は笑顔で静かに頷き、俺たちを見送った。
背後で再び激しい戦闘音が響く。
――あと少しだ、あと少しで頂上なんだ!!
塔の頂上へ続くであろう通路が見えた。
――だが、その通路の前には。
「そんな、まさか……」
シャルが歩みを止め、震えた表情で立ち塞がる二つの影を見た。
そこには巨大な氷の刃を構えた男と美しい氷の盾を携えた女がいた。
2人とも傷だらけで、目に生気が宿っていなかった。
――まるで、あのミカゲのように。
「シャル、誰か知っているのか!?」
俺はシャルのただならぬ様子から聞いた。
「あの人は、あの人たちは」
シャルは認めたくないと言ったような迷いの表情からどうにか次の言葉を絞り出した。
「――私の、お父様とお母様よ」
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