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クレイドル〜忘れられし天使の都〜  作者: アルス
第1部 クレイドル〜忘れられし鋼鉄の都〜
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第2章 * 紅との邂逅、生への活路 *

第2章


*紅との邂逅、生への活路 *


全員が驚愕の表情で、朽ち果てた摩天楼の下、立ち竦む。

 

雲で薄暗くなった空の下、荒廃した旧文明の都市の奥。

 

距離はかなりあるはず。

 

――なのに。

 

振動が、鼓動が伝わってくる。

 

悠然と。

 

その奥から、振動の正体が現れる。

  

死線が、合う。

 

それは、紅い暴力と憎悪の塊だった。


その体表と同じく紅い瞳がこちらを向いている。


言葉などなくとも、その瞳の色だけで、こちらへの敵意が伝わってくる。


「龍、なのか……?」


婆ちゃんが寝物語で、孤児達に話していた昔話を思い出す。


そんな幻想上の生物が存在した、のか…?


――それに、何だあれ?


龍の上空に鎧の人影のようなものが見えた気がした。


困惑する間も、幻想ではない現実の赤き巨龍が迫る。


全員が身を竦ませながら、動けずにいると、紅龍はゆっくりとその口を開いた。


思考する前に、感じ取れた。


死ぬ、と。


バリスとシャルも同じ感覚にたどり着いたようで、逃走姿勢を瞬時にとる。


「ボサッとするな!!」


バリスに力強く抱えられる。


「うぉ! 離せ! 走れる!」


「言ってる場合か! 身体強化の魔術も使えないだろ!」


「2人とも、来るわよ!!」


シャルの言葉のすぐ後に龍が息を吸い終え、天を向いた。


――その一瞬、この世界の空気全てが燃えた様に感じた。


豪と熱風が吹き荒れ、灼熱の業火が過去の繁栄を燃やし尽くしながら、こちらへ駆けてくる。


バリスは足へ身体強化、シャルは氷の足場を瞬時に作り、横に広がる街道へ身体を滑り込ませた。


間一髪で、燃え盛る死の風から逃げ切った。


「ふざけんじゃねえぞ、あんなのがうじゃうじゃしてんのか?」


「そうじゃないことを祈るしかないわね……」


炎から逃げ切った街道の上で、息も絶え絶えで会話を交わす2人。

そして、バリスの肩に抱えられたままの俺。


「もう、離してくれないか?」


「おう、そうだったな」


どさっと降ろされた。


「で、あのデカイ龍、なのか? どうする?」


「は? あんたあれとやり合うつもり? 脳みそ焦げちゃったの?」


「やり合うつもりはねえよ。ただ、あれから逃げ切る策は必要だろ?」


確かにと、言葉を詰まらすシャル。


「なあ、ちょっといいか?」


予想だにしない声が会話に混じり、顔を上げる2人。


「……なんだよ、鍛冶手伝い。秘策でもあるのか?」


「何かあるのかしら?」


2人揃って期待してないように聞いてくる。


「……鍛治手伝いじゃって、それはもういい。信じられないと思うが、俺はここの地形を知っている」


ぽかんとする2人。


「……本当なのか、それ?この際、理由は後でいい。策があるんだな?」


「あんた信じるの!?」


シャルが信じられないとばかりにバリスに言う。


「時間もない、聞くだけ聞いてみようぜ」


「ありがとう。早速だけど、この街道の先に大きな建物が2棟ある。そこまであの紅龍を俺が誘導する。そしたら2人は、2棟を破壊して、あの紅龍へ落としてくれ」


それで逃げるための時間稼ぎができると説明した。


「さて、何でこのウォールの地理が分かるかは後でじっくりと教えてもらうからな!」


「あんた、よく信じるわね…。もうこうなった以上は、私も覚悟するけど」


「はは……。信じてくれて、ありがとう!」


こんな状況でも信じてくれた2人に感謝を伝える。


「なあ、覚悟の宣誓やっておかないか?」


「は?いきなり何よ?」


「いや、気合入るかと思って」


「うん! やろう!!」


「あんたら……。はぁ、さっさとやるわよ!」


3人が一斉に息を吸い込み、覚悟を発する。


「「「我ら、未知なる壁の先へ!!!」」」


全員が一斉に街道の先へ走り出す。


バリスとシャルの姿がどんどん遠くなる。


大丈夫だ、俺ならやれる!


いや、俺たちなら!!


フィを救うんだ!!


心の中で叫ぶと、自ずと足にも今まで以上の力が入る。


――そう息巻いているところだった。


奴の鼓動の音が聞こえた。


息だけで大気が震えるように感じた。


ちらりと横目で後ろを見る。


そこには、この街道への曲がり角へ入った紅龍の姿が見えた。


やばい!


やばい!!


やばい!!!


火の吐息の予備動作こそないものの、悠然とこちらへ歩を進めてくる。


一歩一歩がこの街道をずしりと揺らしている。


早く、早くあの2棟の場所へ向かわないと!


――トライが懸命に駆けるなか、バリスは2棟の内の一つへたどり着いていた。


「ここか、一気に駆け上がるぜ!」


巨大な建物の壁を垂直に剣士は駆け上がる。


身体強化をしてもキツイな!

ま、ちんたら建物内を上がるわけにもいかねえしなあ!


がんがんと壁を走る。


ちょうど、建物の中間にたどり着いたところで、バリスは建物の中に入りこんだ。


この位置、この柱で良さそうだな!


――一方のシャルも建物にたどりついていた。


浮遊する氷の結晶を足場にして、楽々と建物の中へ入った。


この柱ね、私は大丈夫として、あいつらはどうなのかしら。


――紅い暴力の塊から、必死にトライは逃げていた。


「はぁはぁ! やばい、このままじゃ追いつかれるっ!!」


紅龍は、こちらの様子を見るように、ゆっくりとこちらへ向かってきていた。

まるで、反撃しないのかというような雰囲気さえ感じ取れる。


――何だ? 俺のことを探っているのか?


しかし、いい加減こちらが逃走しているだけだと感じたようで、その大樹のような四肢を動かす速度を早めていく。


まるでいくつもの地震がこちらへ襲いかかるような振動が伝わってくる。


何かを思い出しそうだったが、揺れる大地に圧倒されそれどころではなくなる。


やばいぞ、本当に!


まだか、あの場所は?!


呼吸で苦しい顔を上げて、先を見つめる。


「あった!!」


約束の場所は後少しのところまでの距離にあった。


駆けるトライと、追いかける紅龍。


それを上空から、バリスとシャルが見ていた。


「今だ!!」


親爺さんからもらった袋から、閃光弾を取り出し、背後へ投げる。


閃光がその場を支配する。


GUAAAAAAOOOOOOOOO!!!


紅龍の目前で閃光弾が炸裂したようで、混乱した紅龍の咆哮が辺りに響く。


「任せな!」


「鍛治手伝いにしちゃ、上出来ね」


バリスとシャルの周りに魔力が集中する。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


バリスの大剣の周りにさらに魔力による刃が具現化される。

その魔力を纏いつつ、大剣を建物の支柱へ斜めに振り下ろした。


同じようにシャルの杖に魔力が集まる。


「はああああああああああああ!!」


杖を覆うように、魔力による氷の大鎌が形成される。

それを支柱へ振り下ろす。


紅龍の上へ二つの崩壊する建物の残骸が降り注ぐ。

崩壊しながら降るガラスは、白昼の星のように輝いていた。


GUAAAAOOOOOOOOOOOOOO!!!


閃光に次ぐ、崩壊物の衝撃に紅龍が咆哮を上げる。


崩壊する建物が巻き上げる粉塵に巻き込まれないように走る。


「はぁはぁ……」


捲き上る粉塵からようやく離れることができた……。


「よお、いい汗かけたか?」


「あら。しぶといわね」


「……おかげさまでね」


散々な言いようだった。


「ほらよ」


「仕方ないわね」


2人が両肩を担ぐように隣に来てくれた。


時だった。


『ウォール』に入った時に感じた殺気が背後から蘇る。


――大気全てを焼き尽くすような殺気が。


「シャルッ!」


「分かってるッ!」


崩壊した建物から首だけを覗かせた紅龍の口から再び怒りのような紅蓮の炎が解き放たれる。


シャルの前方に氷の結晶のような結界が幾重にも展開される。


「ぐぅぅううううううううッ!!」


シャルが必死の形相で、氷の結界を維持している。


――しかし。


シャルが幾重にも展開した氷の結界が、一枚、また一枚と瞬く間に蒸発していく。


「くっ、何て威力なの……!」


最後の一枚が溶けきる前に、剣士が全員を守るように前へ出る。


「バリス、あんた何して……」


無言のバリスがその全身と剣に魔力を集め始める。


――結界の一枚が溶けきり、バリスが構えるその直前。


薄氷となった結界の真後ろへトライが出る。


「お前ッ、下がれッ!」


バリスの言葉を背中で受ける。

自分でも危険なことなんて百も承知だ。


――それでも!!


「フィも、バリスもシャルも皆を守りたいんだ!!」


――そう、言葉を発した時には、体は自然に動いていた。


結界が溶けて、紅き炎が吹き荒れる瞬間、顔に文様が、そして髪と瞳が蒼く染め上がる。


蒼い魔力が義手へ集い、義手だと思われたそれは形を変えた。


義手はまるで拘束を解いたように腕へスライドしていく。


変形したそれを襲いくる炎へと向ける。


無意識だが、自分の中でこれが正しいと確信が湧き上がる。


蒼い閃光がまるで稲妻のように迸り、現れた巨大な蒼い掌が赤き炎を搔き消し続ける。


そして、灼熱のブレスの最後の炎が搔き消された場所には、蒼い魔力を纏った義手と全身に魔力を迸らせたトライがいた。


その姿に目を奪われ続けるバリスとシャル。


「お前、一体なんなんだ、よ……?」


バリスが尋ねている途中で、俺はゆっくりと倒れた。


「おいおい!」


「ちょっと、大丈夫なの!?」


「ああ、大丈夫だ……。それより、あいつは?」


俺が指差す方向には、口から炎が溢れ出ている紅龍とーー


――その頭上に翼の生えた鎧を着た人物がフィを抱えて滞空していた。


「お前か……! フィを攫ったのはぁ!!」


俺の絶叫も虚しく、鎧はその場からこちらを見下ろしてくるだけだった。


「フィを返せ……!!」


そこで、急に体に力が入らなくなる。


2人が俺を抱きかかえてその場を後にするところで、俺の記憶は途絶えた。


背中に紅き龍の、怒りと憎しみが混じった咆哮を感じながら。


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