第16章 * 未来を斬り拓く者たち *
――夜明け前。
ミカゲが居る赤き鉄橋に、再びバリスとシャルは来ていた。
赤き鉄橋上部の鉄骨部分に灯された松明が煌々と輝いている。
夜を赤く照らす松明の先、ミカゲは座していた。
来たかとばかりに、立ち上がるミカゲ。
一気に橋の上の空気が重くなる。
まるで、この付近だけ重力が変わってしまったような錯覚に陥る。
松明の炎が揺れる中、バリスは剣を構える。
その剣は今までの大型のものではなく、より鋭く、洗練されたものになっていた。
剣の表層を氷の刃が覆い、それを炎が鞘のように包み込んでいた。
バリスとシャルの合成魔術が剣には仕掛けられていた。
――空気が、動きを止める。
その刹那。
バリスとミカゲの姿が消えた。
そして、橋の中央で刃同士による衝撃波が渦巻いた。
松明の炎が激しく揺らぎ、橋全体が悲鳴をあげるように軋む。
バリスはミカゲを正面で捉えた。
――この剣には、俺たち3人の力が込められてんだよ!!
「負けるわけにはいかねえ!!」
バリスの叫びが橋を揺らした。
――決闘前日。
「さて、どうやって兄貴を倒すかねえ」
バリスは、赤い鉄橋を見詰めながら作戦会議をする。
「待って、アルクさんはいいの? ミカゲさんを倒すことについては……」
シャルが戸惑うように聞く。
「……いいのよ。今の彼はもう、昔の彼ではなくなってしまったから」
それは、半ば諦めのような響きが含まれていた。
「それ、なら……」
空気が再び沈んでいく。
「あー、率直に言う!」
場の空気を変えるようにバリスが大きい声で話しだす。
「今の俺たちの力じゃ、兄貴には勝てねえ!」
単刀直入に言ってのけた。
「勝てねえって、あんたねえ……」
シャルは呆れていた。
「バリス、それなら何か策はあるのか?」
俺は素直に聞いてみた。
「策は、ある!」
またもや単刀直入に答える。
「勝てねえってのは、個人の力だけじゃって意味だよ」
バリスは勝算があるのか、不敵に笑う。
「兄貴の戦い方は俺がよく知っている」
自信ありげにいう バリス。
「バリスくんはよくミカゲと修行してたものね」
アルクが懐かしむように言う。
「ああ、だから兄貴からの斬撃を皮一枚で躱せた」
剣士の傷は痕こそ残りそうだが、血はすでに止まっていた。
「兄貴の刀『薄明』は、魔術を斬る」
確かにシャルの魔法や俺の蒼腕が斬られたことを思い出す。
「兄貴の剣にはその魔術を斬る状態と刃を斬る2つの形態が存在する」
バリスは淡々と説明していく。
「魔術を斬る〈斬魔〉、物質を斬る〈斬鉄〉の2つだ。この2つは切り替える際に、一瞬だが隙が生まれる」
「その隙を突くわけか」
「そうだ、その隙に兄弟子の刀ごと俺が斬る」
兄弟子の剣技についていけるのは俺だけだからなと続けた。
「俺とシャルは魔力の生成、アルクさんはバックアップの準備を頼む」
もしもの時はだけどと、バリスは付け加えた。
「バリス、俺は……?」
俺の今の立ち位置じゃ、信用がないかもしれない。
だけど……。
だけど、俺だって!
「俺だって、みんなを守りたい!そのために、何かしたいんだ!!」
心の声が溢れる。
「おいおい、何言ってんだ」
やっぱり、さっきの話の後じゃ信じてもらえないか……。
「お前だけにしかできないことがあるだろ?」
「えっ?」
予想外の言葉だった。
「俺にしかできないこと……?」
「ああ、お前が鍛えてきたお前だけの魔術があるだろ?」
――現在、決戦当日。
鉄橋の上で、剣と剣がぶつかり合う。
バリスの剣は炎を纏い、ミカゲの剣は銀色の光を帯びていた。
すでにミカゲは、〈斬魔〉の魔術を刀へ行使していた。
バリスとミカゲの剣が弾かれ、次の一合へ移っていく。
バリスの剣は炎が〈斬魔〉の影響でかき消され、代わりに魔法使いが付与した氷の刃が姿を表した。
シャルは己の魔術が剣士の邪魔にならないよう、橋の入り口を警戒しながら見守っている。。
「うらあああああああああ!!!」
2合目の衝撃が再び橋を揺らす。
しかし、ミカゲの〈斬魔〉により、氷の刃も砕かれてしまう。
再び弾き合う剣と刀。
――兄貴、俺はいつもその刀のスピードについていけなかった。
日が暮れるまで共に修行した日々を思い出す。
三合目が訪れるそのわずかな間にバリスは言う。
「だが、今は違う!!」
氷の刃が砕けたその中からは、刀に近い形状の剣が姿を表した。
今は俺の努力の研鑽、そしてトライの鍛治の技術が宿った剣がある!!
純粋な剣技のみが宿ったその剣は、ミカゲが刀の魔術を切り替える隙を逃さなかった。
ミカゲの刀が〈斬鉄〉へ変化する前に、バリスの剣と衝突する。
純粋な剣の実力のみがぶつかり合う。
火花が散る中、バリスの剣が刀を斬り砕いた。
そして、そのままの剣の流れでミカゲを斬り伏せた。
大量の血を流しながら、ミカゲは折れた刀を手に立ち尽くした。
バリスは剣を地面へ突き立て、何とか立っていた。
「はぁはぁ……」
バリスの体は極限の身体強化により、限界が近かった。
ゆらり、と。
血を流しながら、ミカゲが動いた。
その手にある折れた刀の刃先を剣士に向けて。
「はは、兄貴まだ動けるのかよ……」
バリスは半ば諦め気味に笑った。
異変に気付いたシャルが急いで氷の棘を展開しようとするが、それよりも早く折れた刀の刃先がバリスへと振り下ろされた。
再び紅い血が空中を舞った。
ぽたりぽたりと血が大地へ流れていく。
刀を振り下ろそうとしたミカゲの胸に音もなく、静かに魔力の矢が深く突き刺さっていた。
矢が通り過ぎた数秒後、ごうと風が遅れて吹き荒れた。
「ミカゲ……」
橋の入り口近くのビル屋上、昇る朝日を背にアルクが弓を下ろしながら呟いた。
「終わった、のか? 早くバリスの元へ行かないと!」
アルクさんの護衛をしていた俺は、すぐにバリスの元へ走り出した。
「ええ、急ぎましょう」
アルクさんは悲しみと悔しさを押し殺すように、拳を握りしめた。
ーーその手は、静かに崩れ始めていた。
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