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クレイドル〜忘れられし天使の都〜  作者: アルス
第1部 クレイドル〜忘れられし鋼鉄の都〜
16/59

第15章 * 悔恨、そして *

――6年前。


リンネ国クランの3人は、クレイドル『ウォール』の中を進んでいた。


薄暗い路地を歩いていると、遠くに4足歩行の魔獣が3匹現れた。


「待って、私がやる」


弓矢の魔術師が目に魔力を集中させる。


GURUUUUUUUUUUUUUUUUUU


獰猛な漆黒の魔獣3匹がばらばらに襲いくる。


弓を構え、そして魔力の矢を放つ。


放たれた矢は1匹目を貫くと、軌道を変え2匹3匹と倒した。


「ふう、こんなところかしらね」


弓の魔術師が額の汗を拭う。


「油断するな」


今度は地中から地響きとともに、石畳みの地面を纏ったゴーレムが現れた。


「参る」


ゴーレムがその石の拳を振りかぶった瞬間、刀の魔術師の居合が放たれた。


数秒の後、ゴーレムが半分に崩れ落ちた。


ふぅと息を吐きながら刀の魔術師が納刀する。


「まだじゃぞ」


KURURURURUURURURURURUURURUURURURU


上空から気配を隠していた翼竜達が3人を目掛けて襲いくる。


「氷の魔素よ、堅牢なる氷壁をここに築け!」


老いた魔法使いが上空から迫る翼竜に対して、氷の結界を展開し3人を守った。


翼竜は結界に弾かれ、よろめいている。


「終いじゃ」


結界から翼竜に目掛けて氷の棘が伸び、突き刺さった。


こうして、崩れかけの街の裏路地は元の静けさを取り戻した。


「ふぅ、壁の中は慣れないわね」


弓の魔術を放った女性が弓を背負い直して、ため息をつく。


「アルク、慣れなくても仕方ない。ここは戦場だ」


アルクと女性を呼んだ刀の魔術師も刀を納め、口を開く。


「ふん、ミカゲもまだまだ心構えがなっとらんなあ」


老魔法使いはヒゲを撫でながら、口にした。


「……フォル殿はどこにいても、魔術のキレは変わりませぬな」


当たり前じゃわいと笑いながらフォルと呼ばれた老魔術師は白髭を撫でた。


この忘れ去られた鋼鉄の都に突入してから、3日が経っていた。


フォルの探知魔術で探し当てた魔力が濃密な区画にある女神の形をした塔を目指していた。


「どうやら、拙者たちが一番乗りのようだな」


ミカゲと呼ばれた刀の魔術師が赤い鉄橋の前で呟く。


「位置干渉の結界が貼られていたが、わしにすればこんなもんよな!」


位置を狂わすという魔術結界が展開されていたが、フォルの魔力探知の魔術が上回った。

恐らく今回突入した全てのクランより先に、この鋼鉄の迷宮を踏破したことになる。


「あの塔がこのクレイドルの中心よね。一体何があるのかしら……」


アルクが感慨深げに話す。


「あの塔へを想いを馳せる前に、お出迎えのようだ」


ミカゲが前方を指差しながら、構えた。


赤き鉄橋の先には、巨大な紅き龍と魔力の翼をはためかせた鎧の人物が上空から現れた。


赤き龍の背中には、大量の武器が突き刺さっていた。

恐らく、歴代クランの獲物だろう。

その獲物が密集した龍の背中は、まるでクランの墓場のようだった。


「……尋常じゃない魔力の密度じゃ」


フォルが戦慄する。


「お前たちは、この国への侵入者か?」


鎧の人物が口を開いた。

見た目とは裏原に少年のような声がした。


「……だとしたら?」


ミカゲが刀に手をかけながら返答する。


「ーー排除する」


無機質な声音が鉄橋上に響いた。


「フォル殿、アルク!!」


ミカゲが2人の名を叫ぶ。


「分かっとる!!」


フォルが氷の棘を空中に大量に展開する。


「ええ!!」


アルクも濃密な魔力の矢を5本構える。


「はあああぁぁあ!!」


フォルが氷の棘を全弾発射する。


鎧は全ての氷を片手から現れた蒼腕で吸収した。


「これならどう!?」


アルクから放たれた5つの矢がそれぞれの軌道で、鎧へ襲いかかる。


鎧はもう片方の腕からも蒼腕を作り出し、全ての矢をその掌の上に吸い込んだ。


「魔術を無力化する魔術とは、聞いたこともない……!」


フォルの知識を持ってしても、未知の魔術を鎧は使いこなしていた。


「ええ、それにあの身の捌きも常人ではないわ!」


アルクの矢を片腕一つで受け切ったことも恐るべき事実だった。


2人が驚愕している中、鎧の人物が両手を構える。


「フォル殿!! 結界を!!!」


ミカゲが叫ぶと、鎧の蒼腕から氷を纏った魔術の矢が一斉にこちらへ発射された。


「むぅ!!!」


フォルが咄嗟に氷の結界を展開した。

襲い来る氷弾と矢の魔術全てを防ぐ。


「なんと、先ほど吸収した魔術を利用できるのか!?」


ますます信じられんとフォルは驚く。


「でも、これじゃ魔術が効かないってこと!?」


目を背けたくなる事実に直面する。


すると、ミカゲが前へ進む。


「ミカゲ!? 危険よ!」


アルクが必死に引き止める。


「フォル殿、アルクを頼む」


ミカゲが静かな声で話す。


「ミカゲ!!」


死地へ赴こうとするミカゲをアルクは尚も引き止める。


ミカゲは振り返り、最期の言葉を口にした。


「アルク、生きてくれ」


――……している。


続いた言葉はミカゲと共に駆け出した風へと消えた。


鎧は両腕に蒼腕を展開しながら、悠然と立つ。


「〈斬魔〉!!」


ミカゲの刀が蒼い輝きを放つ。

そして、一気に鎧の懐へ踏み込む。


鎧は蒼腕をミカゲへと向けた。


「その片腕、貰い受けるぞ」


ミカゲは迫る蒼腕を同じく蒼い輝きを放つ刀で切り裂いた。


「っ!?」


蒼腕を纏った鎧の腕が宙へと舞う。

片腕から鮮血が、鉄橋の上を染める。


トドメとばかりに鎧へ猛進するミカゲ。


「くっ!」


鎧は咄嗟に背から翼を展開し、空中へと飛ぶ。


「ヴァルト!!」


鎧が叫ぶと後ろに控えていた紅き龍が口を開けた。


口の中から高熱の炎が今にも放たれようとしていた。


「ふっ!!」


鎧へと向かっていたエネルギーをそのまま赤龍へ向け、駆ける。


炎が放たれる直前、ミカゲは龍の片目めがけ刀を振り下ろした。


「〈斬鉄〉!!」


刀が銀色の魔力を纏い、龍の眼を鱗ごと易々と斬り裂いた。


GUOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!


炎を吐く直前に、ミカゲの斬撃が龍へと直撃したことにより、悲鳴を上げながら龍が怯む。


「もう、充分だろ」


ミカゲが背後へ振り返ろうとした瞬間、己の片腕ごと肩を蒼腕が抉り取っていた。


「ッ!!!」


大量の血を撒き散らしながら、ミカゲは跪いた。


「ヴァルト、この侵入者は素体として回収する」


後はお前に任せたと、ミカゲを連れながら上空へと消える鎧。


後には片目を切られた痛みに怒る赤龍と、2人が残された。


赤龍は怒りのままに、口を開き爆炎を放った。


炎の吐息が2人を目指して鉄橋を駆け抜ける。


「いかん!!」


フォルが氷の結界を前面に集中させ、展開する。


「フォル様! ミカゲが!!」


アルクは混乱を極めていた。


「落ち着くのじゃ! 今は自分が生き残ることに集中しろ!!」


爆炎が氷の結界と衝突する。


炎により、結界が少しずつ溶かされていく。


「潮時かのう……」


フォルは呟くと、結界の強度を最大にまで上げた。

これが最期の魔術というふうに。


「フォル様、これでは魔力が?!」


アルクはフォルへ問う。


「心配いらぬ。お主はこれを持って逃げろ」


フォルは首飾りの魔石をアルクへ投げ渡した。


「これ、は……!? そんな、私1人では!」


「行くのじゃ!! お主は1人ではない、また壁の外からお主を助ける者が現れる!!」


そういうと、フォルは壊れゆく結界を維持するため、炎を睨んだ。


「フォル様、この御恩は必ず……!!」


そういうとアルクは全力で橋の入り口を目指す。


「ふん、こんな老いぼれでも最後はカッコつけられたかのう。さて……」


襲い来る炎は際限なく、結界はひび割れ始めていた。


「赤き龍よ、もう少し老いぼれに付き合ってもらうぞ!!」


いずれ炎へ飲み込まれる運命と知りながら、その氷の結界は最後まで輝きを失わなかった。


――襲撃から3日後。


生き延びたアルクは、態勢を整え鉄橋の近くへ戻ってきた。

気配を最大限に遮断し、あの惨状の橋を覗く。


「ミカゲ、フォル様……」


体力は回復しても、精神力は限界に来ていた。


鉄橋の上、老魔術師の結界と赤き龍の炎がぶつかった場所にはーー


「あ、あぁ……!」


焦げ付いた地面には、溶けかけのフォルの杖のみがあった。


「フォル様……」


思考が止まっていく。


ふらふらと橋へ近づくアルク。


そこでふと橋の先から気配を感じた。


包帯をまとい、ボロボロの衣服であったが、それはーー


「ミカゲ!!」


連れ去られたミカゲの姿であった。


ミカゲへ駆け寄るアルク。


「生きてたのね! 良かった、本当に……」


侍は何も言わず、ゆっくりと刀へ手をかけた。


「ミカゲ……?」


ミカゲの様子がおかしいことに気付くアルク。


「ニ……ゲ……」


「え?」


ミカゲの掠れた声と言葉に驚くアルク。


――その瞬間だった。


頬に鋭い痛みを感じた。


「っ!?」


アルクはすばやく後退した。


頬に手を当てると、ぬるりと赤い血が付着した。

咄嗟に後退したことで傷は深くはなかった。


「ミカゲ、どうして……!」


血を見て斬られた実感が湧いた瞬間、悲しみが痛みを上回った。


ミカゲは何も喋らず、刀を構え直し、殺気を放ちながら距離を詰めてくる。


「くっ……!」


アルクは仕方なく、橋の入り口まで全力で戻った。


ミカゲは執拗に追うことはなく、橋の上で去りゆくアルクの背中を見ていた。


――そして、現在。


廃屋の一室にて。


「そん、な……」


トライはその事実に震えていた。


アルクが話した内容は、確かに義手を使用している現状と一致していた。


蒼腕、そして蒼翼についても。


「だが、俺たちはその紅龍と鎧をここに来たばかりの時、こいつと一緒に見たぜ」


バリスが壁内に入ったばかりの時のことを話した。


「……それなら、もう1人鎧の人間がいたということなのかしら?」


アルクが考察する中、シャルは拳を握りしめていた。


「お爺様が、死んだ……?」


シャルは信じられないと言った風に肩を震わせていた。


「お爺様?」


トライが聞き返す。


「ああ、こいつの家系が魔術の名門なのは知っているよな? その爺様も名うての魔術師だった。前回の探索者に選出されるほどのな」


バリスが、シャルの代わりに苦い表情で答える。


「シャル、これを受け取って」


アルクが青い魔石をシャルに渡す。


「これ、は……?」


青い魔石を受け取り、アルクに顔を向けるシャル。


「それは、あなたのお爺様が私へ預けた魔石よ。私はもうそう長くないわ。あなたが使って」


その方があなたのお爺様も喜ぶわと続けた。


「う、うぅ……!!」


シャルは涙を流し、青い魔石を強く握りしめた。

魔石に涙が落ち、慰めるように静かに青く輝いた。


「アルク、さん」


シャルが涙ながらにアルクへ質問する。


「父さんと母さんは、この壁の中にいましたか……?」


喪失の恐怖と戦いながら、シャルはアルクへ聞いた。


「いいえ、私たちが探索した時には見つけられなかったわ」


アルクも残念そうに話す。


シャルの家系は魔術の名門、親御さんもクランに選出されていたのか。


朗報の無い中、重苦しい空気が部屋の中を覆う。


「今は前回のクランを襲ったのがトライとは言い切れねえ。現に俺たちはトライに何度も助けられている」


「バリス……」


トライは強張った心を緩められた。


「そうね、今話していてもかつて遭遇した鎧の男のような雰囲気はないわ」


アルクが話す。


「だろう? なら、今一番考えなきゃいけねえのはーー」


全員が窓の外に見える赤い鉄橋を見つめた。


「――兄貴を殺す方法だ」


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