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クレイドル〜忘れられし天使の都〜  作者: アルス
第1部 クレイドル〜忘れられし鋼鉄の都〜
15/59

第14章 * 過去に縛られた魂たち *

バリスが倒れた場所が紅く染まって行く。

それは紛れもなく命が流れ、失われ続けていることを意味していた。


時間が急に減速したような感覚に陥る。


その減速した世界の中で、包帯の剣士は悠々と刀を構え、バリスへ突き立てようとしていた。


動け


動け動け動け


動けええええええええええ!!!!!!


「っさせるかよおおおおおおおおおお!!!」


固まっていた足を動かし、両腕を包帯の剣士へと向ける。


蒼腕が瞬時に構成され、その掌から天使の羽の形をした剣が包帯の剣士へ一斉に襲いかかる。


「……」


包帯の剣士は避けようともせず、刀を構えた。


羽の剣が包帯の剣士を捉え、幾つもの風穴を開けた。


ーー開けた、ように見えた。


包帯の剣士の目の前で無数の火花が散る。


「嘘でしょ……? 全て、弾いた?」


固まったままのシャルが剣士の刀捌きに驚愕する。


「バリスから、離れろおおおおおお!!!」


剣の天使から吸収した羽の剣が全方位に散り、囲むようにその剣士を襲い続ける。

包帯の剣士はそれでも、弾き続ける。


だが、わずかにバリスから後退しているように見えた。


「シャル! 援護してくれ!!」


俺はそういうと、バリスめがけて走り出した。


「あっ、トライ! どいつもこいつも!!」


背後から氷の棘が援護射撃で飛んでくる。


包帯の剣士は変わらず、羽の剣と氷の魔術の全てを弾き落としている。


あの刀さえ壊せれば……!


蒼腕を構え、包帯の男が魔術を弾いている隙に長刀へ触れようとした時だった。


「なっ!?」


蒼腕が刀によって切り刻まれた。

空を切るように伸ばされた蒼腕が空中で幾つにも切断されていく。


包帯の剣士が追撃をしようとしたところで、氷の棘が阻止する。


その間、蒼腕を解除し、バリスを連れて後退する。


「くっ、これだけ撃っても被弾しないの?!」


シャルが悔しげに言う中、あることに気付く。


「バリス、走れるか?! 速くここから撤退するぞ!!」


バリスは血を流しながらも頷いてなんとか走り始めた。


「トライっ!! 速く!! あいつ氷を弾きながらこっちに向かってるわ!!」


背後を見ると、逃がさないとばかりに氷を弾きながら包帯の剣士が追ってきていた。


前方には魔術を連発するシャルが近くに見えた。


あと、少しなのに……!!


「くそっ! このままじゃ……!」


橋の入り口まで戻るその時だった。


包帯の剣士の刀が背後に迫るのを感じた。


ーーああ、駄目だ。


せめて、バリスだけでも……!!


諦めかけた、その時だった。


「そのまま走りなさい」


凛とした女性の声が聞こえた。


その直後、背後に強力な魔力の矢が包帯の剣士へと炸裂していた。


「……」


蒼腕や氷の魔術同様、包帯の剣士は魔術の矢をぎりぎりで弾き落としていた。

その反動のせいか、動きは止まっていた。


橋の入り口まで戻り後ろを確認すると、包帯の剣士は刀を下ろしていた。


ただじっと、こちらを見ていた。


「何故だか知らないが、追っては、来ないようだな……」


安心すると、力が抜けてバリス共々地面へ崩れ落ちた。


「あんた達、突っ走っていくんじゃないわよ!!」


シャルは焦りと怒りによってか、泣き出しそうになりながら走ってきた。


シャルも魔術を連発したせいで、疲労困憊だった。


「あなた達」


さっき聞こえた凛とした声が聞こえた。


「あ、あんたが助けてくれたのか?」


黄金の髪をなびかせ、美しい顔立ちの弓の魔術師がそこにはいた。


「そう。まずはここから離れるのが先決よ。あの人は追ってこないでしょうけど」


そう、弓の魔術師は切なげに呟くと、俺たちを安全な場所へ案内してくれた。


――弓の魔術師の拠点にて。


「さっきはありがとう! 本当に助かったよ……」


俺は弓の魔術師にお礼を言った。


「いいのよ。私も助けられてよかった」


儚げな笑みを浮かべて答える弓の魔術師。


「ところで、あなたの名前はなんて言うんだ?」


名前を聞き忘れていたことを思い出し、聞いてみる。


「私の名前? アルク、アルク=セレーネよ」


頭にまたあの痛みが走る。


俺は、この人を知っている……?


「バリス君、シャル。久しぶりね」


ーーえ?


今なんて言った?


知り合いだったのか!?


頭の痛み、蘇る記憶の断片、バリスとシャルの知り合いという事実。

混乱をきたしそうな心を落ち着かせる。


「この人を知っているのか!?」


俺は冷静に聞いたつもりが、興奮気味に聞いてしまった。


「ああ、俺とシャルの姉弟子だ」


「あんたは寝てなさい!」


シャルにガツンと頭を叩かれるバリス。


バリスはぎりぎりのところで身体強化魔術で、包帯の剣士の斬撃を最小限に抑えていた。

今は胸の傷に魔力を集中させ、回復を促進させながら答えていた。


「そうよ、私たちの姉弟子。そして、前回のリンネ国のクラン参加者よ」


姿勢を整えたシャルも立て続けに新事実を突きつけてくる。


「そう、私は前回のクラン探索者。そして、橋の上の彼も……」


「えっ、あの襲いかかってきた剣士も!?」


アルクは辛そうに頷いた。


そして、口にした。


「あなた、本当に覚えていないの?」


何のことか分からなかった。


――いや、違う。


分かりたくなかったんだ。


「何の、ことだよ……?」


嫌な予感を感じながらも、口にせざるを得なかった。


アルクは悲痛な面持ちで、告げた。


「あなたが、私たちのクランを壊滅させたのよ」


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