第13章 * 鉄橋の番人 *
燃え上がる研究室、そして工場の中を駆け抜け、レーネのいる場所まで戻ってきた。
「皆さんご無事ですか!? 炎の勢いがすごくて心配していました……」
レーネは人型の状態で心配そうに俺たちを待っていた。
「ああ、レーネも無事でよかった!」
レーネの無事を確認して安心する。
「早いとこ行くぞ!」
バリスがまくし立てる。
「そうね、すぐそこまで火の手が迫ってきてる!」
シャルは後ろで燃え盛る工場を見ながら叫んだ。
全員でレーネの背中に乗ると、上空へ避難した。
「そういえば、先程、ザガクランさんたちが機械の翼のようなもので飛んでいきましたよ! 」
レーネは目撃したザガクランについて話した。
ザガクランも避難できたのか!
「俺たちも脱出しよう!」
「はい! 捕まっててくださいね!」
全員で梟形態になったレーネへ乗った。
燃え盛る工場地区を後にする。
「おい! 見てみろよ!」
バリスが驚愕の声を上げる。
「街の先に、壁がある……!」
崩れ落ちた街を守るように鋼鉄の壁が周りを囲んでいた。
「結界装置が壊れて、街の拡大が止まったのね!」
まさか、あの天使の核が結界装置だったのか。
確信はないが、恐らくそうなのだろう。
「まずは、リネのところに戻って、体制を立て直そう」
バリスが言うと、みんな頷き、リネの元へ急いだ。
工場地区の対岸、元いた区画へと戻った。
「ああ、皆さま、レーネ、ご無事でしたか!」
「リネも無事だったみたいだな! 良かった!」
リィンクランと合流できた。
「炎の勢いが止みませんね……」
対岸の工場地区を見ながら、リネは呟く。
「そういえば、結界は破れたのでしょうか?」
重要なことを聞き忘れていたとリネが聞いてくる。
「ああ! 結界が解除されて、この街の全体の景色が元に戻ったぜ!」
意気揚々と答える。
「あくまで位置感覚の結界を破ったってところね。この壁全体で包んでいる結界は健在ね」
そう言ってシャルは空を指差す。
たしかにそこには、魔術特有の青い揺らぎがあった。
「さぁて、そんじゃあ次はそいつを壊しに行こうか!」
豪快に言い放つバリス。
「でも、どこに行くのよ?」
まだ、次の目的地が定まっていなかった。
いや、すでに俺は目指すべき場所を理解していた。
「あそこだ」
俺は女神の形をした塔の頂上を指差した。
「あそこにいる。このクレイドルの支配者が」
確信した物言いに頭を傾げる皆。
「お前、そういえばあの工場の主とも知り合いみたいに言われていたよな?」
バリスが思い出したように、尋ねる。
「ああ、俺も徐々に記憶が戻ってきたんだ」
自分の中で整理しながら、話す。
「俺は多分、こちら側で生まれたんだ」
衝撃を隠しきれないと言う風に全員が俺を見てくる。
「ここで生まれ、ここで戦ってきたんだ。この蒼の腕で」
己の両腕を見て、話す。
「そして、ある時ここから出る決意をしたんだ。その時にあの鎧と龍に追われて、クレイドルの外へと逃げたんだ」
全員が黙りながら、聴いている。
「そして、フィに出会ったんだ。あの旧街道で」
出会いの場面を思い出す。
「そんで、あの工房で住み込みで働き始めたわけだ」
バリスが沈黙を破り、話し始める。
「そうだ。そこからは、バリスとシャルも知ってるだろ?」
「ええ、鍛治手伝いが毎日忙しなそうにしてるのは知ってるわね」
様々な事実を知っても、シャルはいつも通りの反応だった。
――いや、あえてそうしてくれているのか。
「シャルの言う通り、俺たちが知ってるのは、いつもバタバタしてるお前だよ。それでいいんじゃねえか!」
豪快に言い放つバリス。
それに心が救われたと感じた。
「……なるほど。そういうご事情でしたか」
リネが口を開く。
額に緊張で汗が流れる。
彼女らにとって、俺は敵と認識されてもおかしくないからだ。
「どうか力を抜いてください」
予想外の一言だった。
「私が知ってるのも、私たちをそしてバリスさん、シャルさんを助けていたあなたです。あなたが今のままでいて下さるのなら、私たちはこの事実を胸に仕舞いましょう」
バリスとシャルも頷く。
「……ありがとう、本当に」
探していた自分、そしてこれからなりたい自分の2つの姿が見えた気がした。
「さて、私たちは少しこの辺りで魔力を回復していきます。探し物もありますので」
リネは静かにこれからの方針を語った。
「そうか、俺たちはどうしようか?」
バリスとシャルに語りかける。
「どうしようか、だって?」
バリスは呆れたように笑う。
「あんた、顔に書いてあるわよ?」
シャルもやれやれと言った風に額に手を当てる。
「……二人とも、行こう!!」
こちらの方針も、定まった。
――リィンクランと解散した後。
俺たち3人は警戒しながらも、このクレイドルの中心である女神の形をした塔へ向かっていた。
「改めて、尋常じゃない大きさね」
シャルが首が疲れるといったくらいに、塔を見上げる。
結界が解除され、正常な位置感覚へと戻ったクレイドル。
その過去の揺籠の中で、やはりあの女神の塔は異質だった。
「ん? おい、でかい橋が見えてきたぞ!」
バリスが指さし叫ぶ。
『ウォール』の中心を目指すために川沿いを駆けていたので、必然的に橋を見つけられた。
あの橋の先が女神の塔であり、この旅の最終地点だと思われた。
――あ、れ?
ーーその片腕、貰い受けるぞ。
「……ぐっ!?」
急にあの橋を見てから、記憶の断片が再生された。
長刀を持つ、黒き長髪の剣士。
それが義手の痛みを失われた片腕の痛みを鮮明に思い出させる。
無意識に義手を抑える。
無き片腕を想うように、鈍い痛みがじわりと忍び寄る。
「おいっ!? どうした?」
バリスが走るのを止める。
「腕が痛むの? あの蒼腕の使いすぎじゃないの?」
シャルもこちらを心配そうに見てくる。
「大丈夫だ……。だけど、確かにあの蒼腕の力を使いすぎたのかもしれない」
義手を見て考える。
力をもたらすものに副作用があってもおかしくはないだろうと。
ーーだが、今のは副作用ではなく。
確かに記憶の中に事実として刻み込まれたものだった。
「極力、蒼腕は使わないようにしておくよ」
俺は腕を押さえながら、声を振り絞る。
「ああ、それでいいと思うぜ」
バリスが頷く。
「あんたが戦えなくても、私たちで何とかなるわ」
シャルが髪を払いながら、答える。
「頼りになるよ! さて、もう行こうか!」
額に浮かぶ痛みから出た冷や汗を払い、気を取直して橋へ歩を進める。
あの女神の塔は、もう少しだ……!
――赤錆びた大橋の手前までたどり着いた。
「結局、この辺では化け物にも人にも出くわさなかったな」
バリスが周りを警戒しながら、話しかける。
「まあ、このまま進めるに越したことはないわ」
シャルが答える。
大橋の正面に辿り着く。
「おい、あれ誰かいないか……?」
大橋の先、中央に誰かが静かに座り込んでいるのが見えた。
「……あれは!」
バリスが突然、その人物に向けて走り出す。
「バリス! 待ちなさいよ!!」
シャルの言葉も届かずに、バリスは橋の上を駆ける。
「おい、バリス!!」
バリスを追いかける。
「なぁ、兄貴だろ? そうだよな!?」
バリスから兄貴と呼ばれた男は、ゆっくりと立ち上がる。
全体的に細身ながらも、全く隙がないような印象を受けた。
顔や身体全体に包帯が巻かれ、痛々しい。
腰には長刀がかけられていた。
――長刀、まさか……?
いや、姿があまりに記憶と違う。
それよりもバリスのあの呼び方は?
まさか、あれが親爺さんが刀を鍛えたっていう前回のクランメンバーか!?
思考が駆け巡る中、バリスは一歩、また一歩とその包帯の男へ近寄る。
「なんだよ! 生きてんたじゃねえか! あの野郎、適当なこと言いやがって……。いや、今はそんなことはいい、兄貴、みんな心配してーー」
バリスが全てを言い終わる前に、包帯の男の刀が揺らめいた。
「ぐう、あ……?」
バリスが地面へ倒れこむ。
「バリスううううううううう!!!」
何だよ、どうなってんだ!?
状況の激変に頭がついていかない。
凍りつく俺とシャルを他所に、橋を赤く紅くバリスの血が染めて行く。
包帯の男の目には何の感情もなく、倒れたバリスを見下ろしていた。
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