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クレイドル〜忘れられし天使の都〜  作者: アルス
第1部 クレイドル〜忘れられし鋼鉄の都〜
13/59

第12章 * 剣の天使 *

研究室の最奥、美しいステンドガラスを背に紅く輝く剣を携えた天使が天井から降臨した。


「どうです!? まだ試作型とはいえ、剣の天使を再現したのです! しかも、装甲は鉄の天使の成分を含んだハイブリッド型なのですよ!!」


な、何を言っているんだ……!?

それに、天使って!?


「て、天使? あの上空にいるやつと一緒なのか!?」


神話に現れるもの、太古の文明を焼き尽くしたものと言われている天使を作った!?


「ああ、あの忌々しい空に浮かぶものとは違います。あれはこの地へ衝突することしかできません。私の作り出した天使は自律的に動き、敵を殲滅し尽くすのです!」


熱く語るリサーチャーの背後に天使が降り立つ。


「この剣の天使に対抗できるのはあなただけです、トライ。さぁ! 最後の能力を目覚めさせるための最終レッ……!」


直後、リサーチャーの体に紅い十字が浮かび上がる。


「なっ!?」


リサーチャーが語り終わる前に、剣の天使がリサーチャーを十字に切り裂いた。

4つに崩れ落ちるリサーチャーから、鮮血に塗れ微笑む天使の姿が現れた。


全員が困惑する中、巨大な翼をはためかせ、結界を突き破り天使がこちらへ突撃してくる。


「みんな、散れッ!」


本能的な危機意識が俺を叫ばせていた。


避けた場所を赤い剣が突き刺さる。


剣が突き立てられた場所は、紅く焼け爛れていた。


「あれじゃあ、並の魔術じゃ防げそうにないな……!」


バリスが冷や汗をかきながら言う。


全員、同じ意識のようで天使から距離を取っている。


天使が赤い剣を引き抜くと、俺を穏やかな笑顔で見てきた。


「……やばい!!」


とっさに離れようとするが、天使の移動速度が圧倒的に早かった。


――そうだ、蒼腕を使えば!!


思考を腕へ集中する。


「ううおおおおおおああああああ!!!」


両腕から再び蒼腕が現れ、赤い剣を掴んだ。


「つ、掴めた!」


両腕で赤い剣を掴んだが、天使に振り払われる。


振り回した反動で、赤い剣が研究所の機材を切り裂いていく。


至る所で火花を散らしながら、機材が燃えていく。


「早く対処しないと、ここが持ちそうにありませんね」


あまり危機感が無さそうにザガクランのリーダーが話す。


「こうなりゃ、一斉に攻撃を叩き込むぞ!!」


バリスが大剣に魔力を宿らせながら、天使へ切り込む。


「ネフェ、ニフェ、私たちも行きますよ」


「分かったよ、マスター」


「分かったわ、マスター」


ザガクランも総攻撃をしかける。


「トライ、あんた大丈夫なの!? あいつ倒すのが先だから面倒見てらんないわよ!?」


シャルがこちらを気使いながらも氷の棘を放つ。


全員の攻撃を浴びる天使。


しかし、天使の微笑みは崩れずに、赤き剣を振り回す。


「くそ、どれだけ頑丈なんだよ!?」


バリスが大剣で天使を斬るが、その装甲のような体表には傷一つつかなかった。


「どうやら、普通に攻撃してていても無駄なようですね。どこかにエネルギー源が存在すると思われます。そちらを攻めましょう」


ガザクランが冷静に解析する。


「ネフェ、ニフェ、それらしきものはありましたか?」


「マスター、背中に何かある」


「マスター、背中に赤い玉がある」


ネフェとニフェが天使の背中に何かあるのを見つけた。


「では、それを破壊しましょう」


ザガクランリーダーがネフェとニフェに命じる。


「マスター、さっきから攻撃はしているよ」


「マスター、あの赤い玉の周りに結界が展開されてるわ」


二人は攻撃を試みても、結界に阻まれたことを伝える。


「どうやら、先程饒舌に語っていた方の近くに展開されていたものと同様かそれ以上の強度でしょうね」


「くそ、それじゃあ攻撃がまるで通らねえじゃねえか……!」


バリスが歯噛みする。


「トライ、さっきあんたにしか天使は倒せないとか言われてたわよね!?」


シャルが思い出したように叫ぶ。


「さっきの蒼い腕で、結界ごと弱点を引き裂けるんじゃないの!?」


そうか、あの蒼腕なら……!


両腕を見て、覚悟を決めた。


「やってみる! みんな頼む! あいつの気を一瞬でいいから引いてくれ!!」


俺は研究室の天井近くに配置された足場を目指して、階段を駆ける。


「へへ、無茶言いやがる! あんたらも付き合ってもらうぜ!?」


バリスがザガクランに問いかける。


「微力ながら、お付き合いしましょう」


マスターと呼ばれている男は一礼と共に快諾した。


全員がなるべく天使が一方向を見るように気を引いている。


2階の通路へ続く階段を昇りながら、天使の背中に赤い光があるのを確認した。


「あれか!」


全力のさらにその先、全てを出し切るように走る。


そして、天使の背中がちょうど真下にある足場まできた。


頼む、もう一度さっきの力を俺に!


――みんなを守らせてくれ!!


トライが念じると、再び両腕に青い魔力が集結する。


「よし……!!」


ステンドグラスを背に、トライは天使の背中へ向けて飛び降りる。


――その時だった。


天使の背中の羽一つ一つが剣へと変形し、トライへと襲いかかった。


「なっ!?」


驚愕する間に、全身が切り刻まれていく。


「こんなんものでえええええええええ!!!」


片腕で剣を吸収しつつ、なおも天使へ突撃する。


あと、少し……!


蒼腕をすり抜けてきた剣に切り裂かれ、血で視界が滲む中、あと少しのところに赤いコアを捉える。


――しかし。


「……くそおおお!!」


天使が羽の剣で攻撃している間に素早く前方へ距離を取っていた。


遠ざかる天使の背、そして近づくのは硬い床だった。


ここで、終わるのか?


フィは?


バリスやシャルはどうなる?


俺自身についても、まだ何も分かっちゃいない。


こんなところで……!


「こんなところで、終われるかよおおおおおおおおおお!!!!!!」


――その時だった。


トライの背中へ魔力が集中する。


そして、蒼い翼が形を成した。


「うおおおおおおおおお!!」


一気に赤いコアへ上昇し近づくと、蒼腕でそれを掴む。


「砕けろおおおおおおおお!!!」


赤いコアに展開された結界ごと、蒼腕で握り砕いた。


天使は振るっていた剣をだらんと下げ、動きを止める。


そのまま、天使は力が抜けたように地上へと落ちた。


「やった、のか……?」


同じように地上へ降りたトライ。


蒼翼はいつのまにか消えていた。


「トライ、お前……」


バリスが驚くようにこちらを見てきた。


「ああ、これは……」


俺にもわからない。


そう言っても、もう俺をただの人間じゃないと思うだろうな……。


躊躇していると、バリスが叫んだ。


「お前、空を飛べたのかよ!? すっげえなおい!!」


目を輝かせて、バリスは興奮していた。


「……あとで、その腕も翼も知らべさせなさいよね」


新魔術が作れるかもしれないわとぶつぶつシャルは独り言をつぶやいていた。


「素晴らしい能力ですね。非常に興味はありますが……」


ザガクランのリーダーは言いかけて、やめる。


「先にここを出た方がいいかと。すでに崩れてきてますよ」


そう指を上に向けると、炎が研究室の天井にまで広がり、屋根が落ちてくるのも時間の問題に見えた。


「私たちはこれで」


ザガクランの3人が丁寧に会釈をすると、機械仕掛けの翼を展開させ、颯爽と出口へ飛び出していった。


「逃げ足速いわね……」


驚愕とも呆れとも取れる声でシャルがつぶやいた。


「呆けてられねえぞ!」


バリスが叫び、先行して研究施設を脱出する。


その背中には紅く燃え上がりながらも、微笑みを絶やさない天使のステンドグラスが輝いていた。


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