第10章 * 結晶を纏いし獣 *
「行きますよ、皆さん。しっかり掴まってください!」
レーネが巨大な梟へと変身し、その背中に乗り結界の発生源へ向かうことになった。
「いつでもいいぜ!」
俺は大声で返事をした。
「行きます!」
レーネが巨大な翼をはためかせ、大空へと浮上する。
「レーネ、皆様もお気をつけて! 私たちはここで帰りをお待ちしております」
リネとシャズは、結界発生源に近いこの区画で待ってもらうことにした。
俺たちが向かうべき区画、結界の発生源である工場地帯が見えてきた。
「なんて広さだ……!」
川を越えたさらに先にも広大な工場地帯が広がっていた。
「どこ探しゃいいんだ……。シャル、探知の魔術で何かわからないか?」
バリスがシャルに尋ねる。
「すでに探知魔術は発動してるわ。けど、何かノイズのような魔力が邪魔をしている。かすかにあの方角に魔力が流れてるわ」
シャルが指差す方向には、工場地帯には似合わない教会のような建物がそびえ立っていた。
「レーネ! あの教会の近くに行けるか?」
俺はレーネに教会のような建物を指さして言った。
「わかりました!」
レーネが翼を広げ、教会を目指す。
「……ん? レーネ止まって!」
シャルが叫ぶと、レーネが驚いて、止まった。
「どうしたんですか? シャルさん?」
「よーく見なさい、ここにも結界が展開されてるわ」
それは、シャルだけが探知の魔術で気づけるほどに、透明化されたものだった。
「結界は多少なりとも魔力色相を反映するものだけれど、これは透明に限りなく近い」
魔術の調整技術もかなり高い文明だったようねとシャルは分析していた。
「仕方ねえ、むざむざ結界に焼かれるよりはこの辺で降りて下から探索するか」
バリスが提案する。
「レーネ? この下に降りられるところはある?」
辺りを見回しながら俺は言った。
「ひらけた場所を見つけたので、そこで皆様を降ろします」
工場地帯に広場のような場所があり、そこに降りる。
「すげえ。空から見てたときも感じたが機械だらけだ」
広場の周りには四方を囲むように鋼鉄の迷宮じみた風景が広がっていた。
「これら全てが計算されて作られたなら、とんでもない技術ね」
シャルも魔術以外で構成されたこの景色に圧倒されていた。
「レーネは、ここで俺たちを待っててくれないか。もしもの時は、リネさんに連絡を頼む」
バリスがレーネへ伝える。
「わかりました。皆さま、ご無事で」
レーネと別れると、工場の奥、教会のような建物を目指した。
「どうやら、結界は上空のみのようね。地上からであれば進めそう」
シャルが探知魔術で調べた。
「待って、何か生物のような反応もあるわ」
GURUUUUUUUUUU
低い獣の唸り声が響く。
「お出ましだな!」
結晶を纏った四足獣が複数現れた。
「先手必勝よ!」
シャルが氷の棘を横一列に展開し、一斉掃射する。
しかし、放った氷の魔術は獣の頭部に炸裂した瞬間、霧散してしまう。
「魔術が無効化された!? あの結晶のせいなの?」
今度は獣が一斉に襲いかかる。
「らあああああああ!」
バリスが横薙ぎで獣を吹っ飛ばす。
しかし、獣たちは俊敏な動きですぐに態勢を整える。
「頑丈な奴らだ!」
バリスも次の攻撃に備え、大剣を構え直す。
「なあ、あいつら個体ごとに色が違くないか?」
俺はそれぞれの色が違うことに違和感を抱いた。
それにあの結晶どこかで見たような……。
「そうか? 三毛とか茶虎みたいなもんじゃないのか?」
バリスが適当に言う。
「確かに色の違いで魔力の波長が異なるわ」
シャルはバリスを気にせず、冷静に分析する。
「どことなくレイスタルクランが使っていた結晶ににているような……」
俺はあの三姉妹が使っていた結晶魔術を思い出しながら言う。
「それだわ! あの結晶にはそれぞれ属性があるはずよ!」
シャルがはっとしたように叫んだ。
「てことは、有効な属性をぶつけりゃいいんだな!」
バリスが大剣に火を灯す。
「そういうこと!」
シャルが氷の棘を構成する。
結晶の狼が一斉に襲いかかる。
青い結晶狼にはバリスが炎の大剣で薙ぎ払い、赤い結晶狼にはシャルが氷の棘を放つ。
弱点さえ分かれば、勝負は一瞬で片がついた。
「こんなもんよ!」
「こんなものね!」
シャルとバリスが同時に勝ち誇った。
その時だった。
背後からさらに複数の結晶狼が襲いかかってきた。
それぞれが各属性を宿しており、即座に対応するのは不可能だと察した。
「うおおおおおおおお!!」
思考よりも先に蒼腕が動く。
GUOOOOOOOOOOOOOOOO
空を駆ける獅子から吸収した毒の矢が結晶狼へ降りかかる。
獣の結晶装甲をも溶かし、毒の矢は身体を貫き溶かした。
結晶の狼たちは断末魔を上げることなく、蒸発した。
呻き声もなくなり、そこには骨と内臓がむき出しの獣の残骸だけが残った。
「はは、大した威力だな……」
「まともに喰らうことがなくて良かったわ……」
バリスとシャルは二人とも呆然と結晶が溶けていくところを眺めていた。
「お前、いつの間にその腕の魔術を使いこなせるようになった?」
「ああ、この壁の中に入ってから記憶と一緒にこいつの使い方も徐々に思い出してきたんだ」
まだ、俺自身が何者かは分からないけど付け足して俺は話した。
「……まあ、あんたが何者でも構わないわ。私の中では鍛治手伝いよ」
はいはいと俺は苦笑した。
「さっさと結界の発生源を見つけようぜ! レーネも待たしちまうしな」
そうバリスが仕切りなおすと、俺たちは教会のような建物の内部へと足を踏み入れた。
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