第9章 * 四位一体 *
作戦会議を終えると、俺たち3人とレーネ、リネとシャズで分かれた。
俺たちはレーネと空中から、空飛ぶ獅子が守る区画で戦うために飛翔した。
リネとシャズはバックアップのために、結界の発生源がある区画の川辺近くで待機してもらうことにした。
「すげぇ! 空を飛んでる!」
高度から眺める『ウォール』内部の町並みは、どこまでも続いているように見えた。
「……あれ、本当に果てがなくないか?」
よくよく地平線を見ると、壁はどこにも無く、ひたすら朽ちた町並みが広がっていた。
「どうやら結界の発生源が近いようで、風景が歪んでいるみたいですね」
梟形態のレーネが教えてくれた。
「そんな現象が起きていたのか……」
納得していると、自分の中で妙な違和感に襲われた。
あれ、俺はこの上空からの街並みを見たことがある気がする。
なんでだ、俺には翼もないのに。
そこで、急にあの鎧のイメージが頭を駆け巡った。
「ぐっ……」
体がふらつき、空へ放り出されそうになる。
「おい、大丈夫か?」
バリスがとっさに腕を掴み、引き上げてくれた。
「大丈夫、だ。少しバランスを崩しただけだから」
自分の中でも整理しきれていないことを話すわけにもいかないと口をつぐんだ。
「見て!!」
シャルが指差し叫ぶ。
廃墟が立ち並ぶ上空で、翼を広げた獅子が猛烈なスピードでこちらへ向かってくる。
「作戦開始だッ! シャル頼むぞ!」
「ええ!」
バリスの合図と共に、シャルが氷の棘を空中に展開する。
「追いなさい!」
突撃してくる獅子へ氷の棘を放つ。
獅子が軌道を逸らし、氷の棘を避けていく。
レーネがそれに合わせるように獅子へ迫る。
獅子も反撃とばかりに蛇の尾から毒の矢を複数放つ。
それぞれの軌道で一斉にこちらへ向かって毒の矢が飛翔してくる。
「トライッ!」
「おう!!」
守りたい。
みんなをーー
――守るんだ!!
その想いと共に、義手が解放され、掌の先に魔力の青き手が現れた。
「うおおおおおおおおおお!!」
毒の矢を魔力の掌で受けきる。
「バリス、頼んだ!!」
獅子と真横ですれ違う軌道でレーネが突き進んでいく。
バリスが大剣に炎を纏わせ、構える。
「まかせろおおおおおおおおおおおおお!」
空中でのすれ違いざまに、バリスの炎を纏う大剣が真横から獅子を焼き切った。
落ち行く獅子の遺骸は、リネの下へ降り注いだ。
「リネ!! 避けろおぉ!!」
俺は絶叫した。
あれだけの質量をまともに食らえばひとたまりもない。
しかし、リネもシャズもそこを動こうとはしない。
「大地の中で、安らかに眠りなさい」
降り行く獅子の遺骸めがけて、リネは自然の魔術を展開し、その場から一本の大樹が天めがけて急速に成長して行く。
獅子の身体が葉のない大樹に受け止められる、
獅子は大樹へと吸収され、大樹は緑の葉を生い茂させた。
急いでリネの元へ戻る。
「リネ、シャズもお怪我は?」
レーネがリネと人の姿へ戻ったシャズの元へ駆け寄る。
「ええ、私もシャズも大丈夫よ。あなたこそ怪我がなくてよかった」
人の姿へ戻ったレーネを抱きしめると、リネはこちらへ向き直った。
「レーネの守護、獅子の討伐共に感謝致します」
「いいっていいって! 俺たちも結界の源へ行けるようになったしさ!」
助けてもらったのは、こっちもだしな!
「そうだ、その件で頼みたいことがあるんだが」
バリスが大剣を背に担ぎ直して、リネへ頼み込んだ。
「レーネですね。いいでしょう、レーネあの方達を結界の発生源へお連れして」
「リネ、承知しました」
まだバリスが内容も話していないのに、リィンクランは展開が早かった。
読心術でも使えるのか、あのリーダー?
「話が早くて助かるぜ!」
「私たちが必ず、結界の発生源を破壊してくるから、そこは心配しなくて良いわよ」
「よっしゃあ! それじゃあ早速いこ…」
ぐぎゅるううううううと腹の音が鳴った。
俺とシャズの2人分の音だった。
赤面する俺とシャズ。
「ふふ。それでは今日は食事を取り、明日出発にしましょうか。いいわねシャズ?」
「……俺はリーダーを守るだけだ。あとは任せる」
シャズは顔を隠しながら返答していた。
その日はリィン国発祥の料理をみんなで食べ体を休めた。
そして、夜が明け。
結界の発生源へと旅立つ時が来た。
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