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呪いと魔女とテマソンと⑦

「お坊ちゃま、申し訳ありません。あの子があなたにあんな呪いをかけたばかりに・・・」


テマソンと碧華の後ろに何故かヴィクトリアが、リリーが湖にくる途中に立ち寄った家の女性と二人で森の中から歩いてみんなの所にきた。

それはリリーとシャリーの後で様子を見にきていたヴィクトリアがそばでテマソンと碧華の様子を見ていたタオに声をかけ、先に戻ったリリーとシャリーを見送り、テマソンと碧華が立ち去った後、そっとヴィクトリアは魔女塚の前で祈りを捧げ、タオを誘い湖に戻ってきたのだ。碧華と湖に戻っていたテマソンにタオが話しかけてきたのだ。


「タオおば様、お久しぶりですわね。お元気そうでなによりですわ。おば様、呪いなんて関係ありませんよ。魔女伝説の残るあの場所で強い霊力を感じるのは事実ですけど、私のアレルギーはコアちゃんとは関係ないわ。あの場所の霊力に私の潜在的な何かが蘇ってアレルギーが表面化しただけだと思うし、おば様がずっとそのことを気に病んでいらしたなんて知らなかったのよ、私のほうこそもっと早くコアちゃんに会いにくればよかったわ。遅くなって本当にごめんなさい」


そういうとテマソンはタオに向かって頭を下げた。


「そうよタオおば様、私前々から言おうと思っていたのよ。この辺の人たちはテマソンが独身なのも、こんな口調なのも全てコアちゃんの呪いだって言っているけど、呪いなんて最初からなかったのよ、この子が自己暗示をかけていただけなのよ。その証拠にテマソンが自分から心を開いたこの子達には触られたってなんともないんだから」


リリーは碧華や自分の隣に座っているシャリーを指さしながら言うと、ヴィクトリアが付け加えた。


「そうそう、コアちゃんの最後の言葉がどんな言葉だったにしても、今でも独身なのはこの子の意思なんだから、あなたが気に病む必要はないわ。タオちゃん、また昔のように私たちもまた、ここでピクニックをしましょうよ。碧ちゃんはね私がほれ込んで娘になってもらったの」


「碧ちゃん、こちら私の幼馴染のタオちゃんよ」

「はじめまして、碧華桜木と申します」


碧華はタオに近づき、あえて日本語で挨拶をした。ヴィクトリアが通訳をしながらいうと、タオも自分の名前をいい頭を下げた。

そのあとタオはヴィクトリアの方を向き言った。


「トリアちゃんごめんなさい、私あなたにずっと謝りたかったの。村の人のうわさはいつも聞いていたからずっと申し訳なく思ってたの。私コアが亡くなってからあなたが何度も私に会いにきてくれたのは知っていたわ。でも怖くて会えなかったの」


「あら久しぶりだわ。その呼び名で呼ばれたの、やっぱりいいわね。もう昔のことよ。私も頑固なとこあったからずっと近くにいたのにあなたを城にも招待しなかったわ。私の方こそごめんなさい。もう子供のことで暗くなるのは止めましょうよ。私もね、あの子の結婚のことはあきらめたのよ。あの子の生きたい様に生きればいいかなって思えるようになったのよ。それにね、私、ひ孫を抱くまで長生きすることに決めたのよ。幸い私には孫が一人いるでしょ。実はね、碧ちゃんの娘さんと家の孫がいい関係らしいのよ」


「ママン、まだ家の息子の片思いみたいですよ」


ヴィクトリアの話を聞いていたリリーがライフに聞こえないように小声で言った。


「あらそうなの。家の男たちは押しが弱いのね。タオちゃんの息子さんはご結婚なさってるんでしょ」


「ええ、もうすぐ十歳になる孫がいるの。息子夫婦がドイツにこいって誘ってくれているんだけど・・・コアを一人にさせるみたいでずっと断っているの・・・」


その時、碧華が急にタオの前のきて、タオの手を握ると真剣な顔になって言った。碧華はテマソンに会話を通訳してもらっていたのだ。


「テマソン、通訳お願いね」

「はいはい」


碧華はテマソンに念を押すと日本語で話し始めた。


「あの、すみません。テマソンからあなたのことをお聞きしました。今日は初めて会う私がこういうことをいうのは生意気なのかもしれませんけれど、私は思うんです。何年たっても大切な娘さんを忘れることなんかできないとは思いますけれど、でも、亡くなった人が天国にいるなら空はどこに行っても見れますでしょ。娘さんにとって一番の供養は、大好きなお母様の笑顔なんじゃないでしょうか。いつも見ている景色じゃない環境でたまに生活するのって楽しいものですよ。よし、コアさんに教えてあげよう」


碧華はそう言ったと思ったら急に手を天にむけた。


「コアさん、世界には素敵な場所がたくさんあるのよ。この星は大きくて世界は広いわよ。ここばかりで地縛霊してるなんてもったいないわ。さああなたはこの瞬間から自由よ!好きな所に行っていいのよ。お母さまは大丈夫よ。ねっ」


碧華が両手を広げてそう叫ぶと、タオに向かって最高の笑顔を向けた。


「ありがとうございます。あなたのいう通りかもしれませんね。私があの子を引き留めていたのかもしれないわ。私も残りの人生を楽しまなきゃ。天国に行った時あの子に叱られそうですね。ああっ、今日はなんていい日なんでしょ。こんないい気分になったのはなん十年ぶりかしら。リリーさん今日は誘ってくださってありがとうございます」


「来ていただいて私もうれしいのよ。それにそもそも魔女塚に行って、湖でピクニックしようなんて言い出したの碧ちゃんだし、私はついてきただけなのよ」


「そうでしたか、碧華さんありがとうございます」


そう言ったタオは涙を拭きながら碧華に頭を下げていた。


「いいえ、実は私もピクニックなんて何年ぶりかなんです。こんな素敵な場所があったなんて知りませんでした。明日からまた頑張って仕事できそうですわ」


碧華はそう言った後、しばらくおいてまた話出した。


「日本ではね、家族がいつまでも悲しんでいると、亡くなった人が成仏できないって言われているんですよ。遺品も悲しい思いも処分することで、この世の未練を断ち切ってあげて、成仏させてあげることも大切だっていわれているんです。でも日本ではいろいろ節目節目に供養をする機会があるんですよ。お彼岸とかお盆とかの期間になると、普段はバラバラに生活している親戚や家族が実家に帰ってきて、食事したりお墓参りしたりするために集まる風習があるんです。まあ、宗教が違いますから、こちらの国の供養の仕方というものもきっとおありでしょうけれど。私は生きている人が楽しく笑って生きていることの方が亡くなった人は喜んでくれると勝手に思ってるんです。忘れるんじゃないんですもの」


碧華の言葉を通訳したテマソンも頷いていた。


「いいことを言うわね。さすが私の娘ね」


ヴィクトリアはそう言うと、まだ涙を流しているタオに自分のハンカチを差し出すとタオに言った。


「タオちゃん、私も碧ちゃんの意見に賛成よ。コアちゃんはあなたが大好きだったもの。あなたが笑顔を取り戻さなきゃ、成仏できないわよ。生まれ変わってもう一度素敵な人生を送ってほしいじゃない」


「そうね・・・そうね。私が変わらなきゃね」


タオは二十四年の歳月で初めて心の重荷が洗い流された気持ちになっていた。その時急に湖を取り巻く木々達が揺れ出し、木の葉が天に向かって巻き上がった。一瞬の出来事にその場にいたみんなは言葉を失ってしまった。


「あら、コアちゃんかしら、それともマジョルカさんかしら?」


「どうやら、マジョルカさんみたいですよ。旅にでられるみたいだわ。さっきのことごめんなさいっていいにいらしたみたいだわね」


テマソンの問に答えたのはヴィクトリアだった。その言葉に驚いたリリーがたずねた。


「えっ?そうなのママン、ママンは魔女の言葉が聞こえるの?」

「ええ、私にはそう感じましたよ」

「ママンがそういうならそうかもしれないわね」


碧華はヴィクトリアの言葉をテマソンから通訳してもらい聞いて納得したように頷くとテマソンの顔をのぞき込んだ。


「なっなにみてるのよ」


テマソンが照れたように言った。すると碧華が背伸びしてテマソンの頭をなで言った。


「よかったねテマソン、女性アレルギーが治ったんなら結婚できるんじゃないの。男は死ぬまで子供を作れるんだから、いい人探したら?」


「あら碧華、本当にいいの?私が他の女と結婚しても」


テマソンは碧華の顔を見返しながら言った。碧華は笑顔で返事を返した。


「いいわよ別に、私たち姉弟でしょ、あなたにいい人がいても関係は変わらないでしょ。あっでもそうなるとテマソンの家に居候はさすがにまずいわね。相手の方はいい気はしないでしょうし・・・うう~ん、どうしようかしら」


「あら大丈夫よ碧ちゃん、テマソンさんにいい人ができたら、私の家に泊まればいいわ。私たち親戚になるんだから、部屋ならたくさんあるから、碧ちゃんなら大歓迎よ。なんだったら今日からだって家にいらっしゃいよ。家から一緒に会社にいけばいいじゃない。私、今月は毎日会社に行くことにしたし」


突然、リリーの隣に座っていたシャリーが立ち上がり碧華に近づくと、碧華の右側の腕を自分の腕に絡ませて、シャリーが日本語で碧華にいった。


「あらいいの?実は栄治さんがね、ジャンニさん、本当はすごくいい人だよって言ってたの。だから今度ゆっくりお話ししてみたかったのよね。それも楽しそうね」


碧華はシャリーの顔を見ながら目を輝かせた。


『私には相棒もいる。親友もいる。なんて幸せなんだろう』


碧華は心の中でそう呟いた。


「そうよ、こんな男ほっといて、家にも泊まってくれていいのよ。昨夜は楽しかったもの。女同士楽しみましょうよ。私たちはもう子育ては卒業したし、子どもも大きくなったしね。これからは自分たちの自由の時間を満喫しなきゃ」


リリーがテマソンを押しのけ碧華の左側に割り込み碧華の腕を自分の腕に絡ませた。


「碧ちゃん、僕もいること忘れないでよ。僕はいつだって碧ちゃんの味方なんだからね」


ライフは口にサンドイッチを入れながらいうと、ヴィクトリアも笑顔で言った。


「あらわたくしだって、あなたのアトラスでの母親なんですからね。テマソンなんかに頼らなくても私を頼ってね。私はまだまだ天国には行くつもりはないから安心してね」


「あら私モテモテだわ。こんなにモテモテになるなんて人生初のモテ期到来かしら」


『私にはこんなに暖かいファミリーがいたんだわ。私は幸せ者だ』


碧華は幸せで涙があふれそうだった。


「ちょっとみんな碧華に何好き勝手なことを言っているのよ。私は結婚するなんて一言も言ってないでしょ。碧華は今まで通り私の家に泊まればいいのよ。会社から一番近いんだから」


テマソンはそう言うと碧華を後ろから両手をだすと、二人から奪いとった。


「ちょっとテマソン危ないじゃない。それに私は私のものよ。私みんな大好き。またみんなの所にそれぞれ泊まりに行きたいわ。その時はよろしくお願いしま~す」


そう言うと、碧華はテマソン、リリー、シャリーの順に頬に顔を当ててギュッと抱きしめた。そして座っているヴィクトリアにはしゃがみ込んでハグをした。


「僕は?」

「あらそうだったわ。今月は一番頼りにしてるわよライフ」


碧華はそういうと少し離れた所で相変わらず食べ続けているライフの頭をなでると、空のコップにコーラを注いだ。


「みんな大好きよ。さあーみんな、おいしいお弁当食べましょう。いっこうにライフの食欲が減りそうにないからなくなっちゃいそうよ」


そういいながらライフの横に座ると、碧華もフルーツサンドを一つ口に放り込んだ。

テマソンはシャリーやリリーの横に座ると執事がレジャーシートの上に用意したたくさんの食事をみんなでにぎやかに雑談しながら食べ始めた。

ヴィクトリアはその様子を微笑みながら昔の親友のタオに向かって英語で言った。


「タオちゃん、碧ちゃんってね詩人なのよ。その碧ちゃんの詩の中に書いていた言葉なんだけど、親友っていうのは、喧嘩してもごめんなさいですぐに仲直りできる関係をいうのですって。私はずっと後悔していたのよ、あなたに会わなくなってしまったこと。ごめんなさい。あなたはコアちゃんを亡くして辛かった時なのにあなたの辛さも考えないで私、自分の息子のことばかり心配してて、あなたから遠ざかってしまったわ、本当にごめんなさい」


「私も、娘のことで心を閉ざしてしまっていたの。私の方こそごめんなさい。でも今日ようやくわかったわ。娘がどんなに恋焦がれても叶わなかったわけが、運命のお相手がテマソンお坊ちゃまにはいたのね。私ドイツに行ってみるわ。まだまだ私の人生は終わっていないものね、残りの人生楽しまなきゃ。小金なら十分ためたから、これからはどんどん旅行でもするわ」


「あら、その時は私も誘ってね、私も人生まだまだ楽しむつもりだから」


二人はそう言ってなん十年ぶりに互いの手を取り合って話に花を咲かせた。


その後ろ姿を微笑みながら見守っている少女の姿があった。その少女はやがて光になって天へと昇っていった。



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