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呪いと魔女とテマソンと⑥

森の中の小道を少し歩くと、大きな二つに割けた大木が現れた。


「ねえテマソン、この大木?」


テマソンと手を繋いでいた碧華だったが、テマソンの手に力が入っていることが感じられた。テマソンに返事はなかったが足が止まったことと手の感じからそこが魔女塚だと碧華は悟った。二人はしばらく無言のままその大木を眺めていた。どれほどの時間眺めていたのか、やがて碧華がぽつりと言った。


「よし、魔女さんに独り言を話そうかな」


碧華はそういうと、テマソンの手を放そうとしたがテマソンがきつく握りしめていて一向に離れそうになかった。


「テマソン、ちょっと手を放してちょうだい。カバンを開けたいから」

「嫌よ」


聞き取れないような小さな囁き声がテマソンから聞こえた、碧華はテマソンの方を見ると顔面蒼白になって様子が変だった。


「テマソン?大丈夫?」

「・・・」


あきらかに大丈夫そうではなかった。その瞬間テマソンはその場に崩れるようにうずくまってしまった。碧華は地面に倒れそうになるテマソンを必死で支えながらゆっくり地面にあおむけで横たえさせた。そして空いている右手でテマソンの頬をたたきながら叫んだ。


「テマソンしっかりして、テマソン」


 だが、テマソンは目は開いているのだが意識がない様子だった。何か、不思議な呪文のような言葉を発していた。


「もうマジョルカさん、あなたのしわざなの?」


碧華は周りをキョロキョロしながら叫んだ。その時碧華の耳に聞いたこともない言葉が森のどこからか聞こえてきた。それは碧華の頭の中に直接語りかけてくる言葉のようだった。


〝ミカエル、待っていたよ。長かった・・・本当に ‶


「あなたは誰?テマソンはミカエルじゃないわ。コアさんとどんな契約をしたかなんて知らないけど、テマソンを巻き込まないで、ああもう、私どうして英語しゃべれないのかなあ、止めてって英語でなんていうんだっけそもそも通じる言葉なんかあるのかな。テマソン!お願いしっかりして」


碧華はパニックになりながらもテマソンの手はけっして放さなかった。ただ、左手首に珍しくつけていた銀のブレスレットが暑くなるのを感じた。それは今日に限ってテマソンも右手につけていた。

碧華が叫ぶとまた頭の中に何かささやく言葉が聞こえてきた


〝その手を放せ。彼の魂はコアの物。お前も呪いを受けたいのか?”


「呪いなんかくそくらえよ、テマソンはミカエルじゃないし、それにテマソンの魂も体もテマソンのものよ!」


碧華は無我夢中で叫んでいた。その時突風が吹き、テマソンと碧華の間に迫ってきた。碧華はとっさにテマソンの体の上に覆いかぶさるようにしがみついて目を閉じた。その瞬間、意識がないはずのテマソンの左手が碧華の背中をギュッと掴んだ


「テマソン、大丈夫よ絶対離さないから」


二人の体を突風が巻き込もうとしたその瞬間、まばゆい光が差し込んで風が突然はじけた。


〝来てくれてありがとう。あなたにもう一度会えてよかった”


頭の中に直接語りかけてくるようなその声を碧華は確かに聞いていた。碧華は起き上がると頭上で旋回して、次第に薄くなりかけているその光に向かって言った。


「あなたコアさんでしょ。ありがとう。私たちを助けてくれて、あなたにも運命の相手がいるはずよ。魂はこの世に生まれてくる時に二つに分かれるんだから、きっとみつかるわ。いいえみつけるのよ次の世では」


「碧華、日本語で言ったってコアちゃんにはわからないわよ」


正気に戻ったテマソンが碧華の横に座り込みながら言った。


「あら、魂に語りかけているんだからきっと通じてるわよ」

「本当にあなたは自分にいいようにしか解釈しないんだから」

「いいじゃない、絶対その方が楽しいし」

「そうね」


二人は顔を見合いながら笑いだした。その時目の前の大木の間から一枚の紙が舞い上がって二人の目の前にきたと思ったら、急に青い炎に包まれ燃えて消えてしまった。

 

〝契約は解除された。お前は自由だ。さて、私もそろそろ探しに行こうかのう、私のミカエルがそろそろ、この地に散歩に舞い降りてきているかもしれないからな”


テマソンと碧華は突然目の前に起きた現象と頭の中に直接届いた言葉を聞いてしばらく無言だった。どれだけ時間が過ぎただろうか、碧華がぽつりと言った。


「ねえ、テマソン」

「なあに」

「今のって、何語で話してた?私には日本語で聞こえたんだけど」

「私には英語に聞こえたわ」

「そう、不思議ね。でも契約は解除されたって言ってたわ。あなたアレルギーもう治ったんじゃないの?」

「そうかしら?でも今更関係ないわ」

「どうして?」

「だって、私独身主義を通すって決めてるから」

「寂しい老後になるわよ、一人なんて」

「あら大丈夫よ。だってみんなで一緒に住むんでしょ。そう遠くない未来で」

「そうね。そうなったらいいわよね」


そう言った碧華はしばらくその大木をじっと見つめていた。そしてぽつりと言った。


「マジョルカさんもコアさんも二人とも運命の相手に早く会えるといいのにね」



 その時易しい風が二人の周りをふき抜け地面の木の葉が空へと舞い上がった。


「さて、じゃあマジョルカさんとコアさんに供養をしてあげなきゃ。運命の人に会えますように、テマソンちょっと手を放すわよ」


碧華はそう言ってギュッとにぎっていたテマソンの手を放そうと左手の力を緩めようとしたが、なぜか手はテマソンの手から離れなかった。碧華は自分の左手を振りながらテマソンの方をみながら言った。


「ちょっとテマソン!手を離してよ。鞄の中身とれないじゃない」


そういう碧華にテマソンはさらに強い力で碧華の手を握り返して離そうとしなかった。


「嫌よ」

「何言ってるのよ。もう何も起きないわよ」

「わかってるわよ。でもまだ嫌なの」

「離しなさいよ、暑いしこれじゃあ供養できないでしょ」

「いっ嫌だって言ったら嫌なの」


頑なにテマソンは碧華の手は離さなかった。碧華は仕方なくテマソンの手がつながったまま器用に背中に背負っていたリョックの右側だけ紐を肩から離し、自分の左側の手元にリュックを手繰り寄せた。


「もう頑固なんだから」


ブツブツ文句を言いながらも碧華は器用に右手でファスナーを開け中から青いポシェットを取り出し、端を口にくわえて開けるとそれを地面に置き、中からまず最初に、小さなお菓子袋を取りだした。碧華はそれの袋を右手と歯を使って器用に開くと、目の前の大木の前にある小さな塚の前に落ちていた大きな緑の葉の上にその中身をだした。


「碧華それすごくきれいだけど何?」


それはお菓子のようだったが、白や黄色、緑やピンクさまざまな色をした凹凸のある小球形をしていた。

「これ?金平糖っていう砂糖を原料に使っているお菓子よ、レイモンドとアーメルナのお墓に供えようと思ってたくさん持ってきてたんだけど、これ星みたいでしょ。マジョルカさんやコアさんの魂がまだここにいるならこれを食べて幸せな気分になってくれたらいいなって思って、これだったらそのまま置いておいても蟻さんや小さな動物たちが食べてきれいにしてくれるかなって思って」

 

碧華はそういうと、次に細長い白い箱に入ったものを取り出すと、それの中身を押すと中が引き出しのようになっている小さな箱から線香が数本姿を現した。碧華はその中から一本だけ取り出すと地面に置き。ポシェットの中からそれをたてる台を出し、その台に線香を一本たてると、それを大木と塚の前に置き、ポシェットに入っていたアロマキャンドル用の小さい容器も取り出し、ライターでその両方に火をつけた。そして最後に入っていた念珠を取り出すとテマソンが握ったままの二人が重ねられている手の間にかけた。


「ねえ、これは何?何かのおまじない」


「違うわよ、日本ではねお墓詣りに行ったら、線香とろうそくをたてるのよ。ローソクはもってくるの忘れたからキャンドルをお城で借りたのよ。これは念珠よ。これもあなたたちがクロスをかけるのと同じく、お墓詣りには重要な必須アイテムよ。さあ手を合わせるわよ」


碧華はそういうとテマソンと横に並びしゃがむと、重ねられた左手に自分の右手を重ねると目を閉じて心の中で、二人の魔女に頭を下げた。  

テマソンも同じように自分の左手を重ねると目を閉じ祈りを捧げた。そして目を開けると二人は顔を見合わせて笑顔を見せた。碧華は目の前のろうそくを手で消すと、リュックの中にいれていたペットボトルを取り出すと、口で器用に蓋を開けると中の水をろうそくと線香にかけ火を完全に消すと、立ちあがり樹木に水をかけた。


「よし、みんなの所に戻ろうテマソン」

「そうね、そうしましょうか」


それから碧華はろうそくと線香をかたずけ、全てをリュックに放り込むと立ち上がり、二人はほほ笑みながらみんなが待つ湖へと戻って行った。

二人が戻るとなぜかリリーとシャリーが息を切らせながら、何でもないようなそぶりを見せて二人を出迎えた。碧華が後で聞くと全部見ていたようだった。  


テマソンは真っ赤になって後をつけようといった張本人のリリーに怒っていたようだったが、リリーは笑って碧華に助けを求めた。もちろん、碧華はリリーをかばったのは言うまでもなかった。


「ちょっと碧華、どっちの味方をしているのよ」

「あら、私はいつだってリリーお姉様の味方よ」

「なんですって」


いつもと変わらない言い合い、けれどテマソンは感じていた。いつもは遠く離れていても、この地球上で自分の相棒碧華は確かに生きている。 

それだけで十分だと。探しても見つけられない者もいる。自分は幸せだとそう思えるテマソンだった。


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