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呪いと魔女とテマソンと⑤

「この地方に伝わる昔の伝説はリリーに聞いたのよね」


「ええ城主の息子のミカエルと魔女マジョルカの恋物語でしょ」


「そう魔女マジョルカの体は消滅してしまったけれど、魔女の魂はあの場所に生き続けているのよ。愛しい

ミカエルが再び森にやってくるのを待ちながらね。彼女はずっとミカエルが天から降りてくるのを待っているのよ」


「恋ってしたことないからわからないけど、長い年月愛する人を待ち続けるってなんだか切ないわね」

「あらあなた栄治さんと結婚したってことは恋をしたってことでしょ」


「う~ん、ちょっと違う気がするのよね。栄治さんとはお見合い結婚だったから、大恋愛して恋人になってプロポーズされてって言うのをすっ飛ばしてるから栄治さんへの想いは本気の恋とは違う気がするのよね。大切な人には違いないんだけど。それに私昔から自分に自信が全くなかったから恋なんかしなかったのよね、どうせ好かれるはずないって自己暗示かけてたしね。実際告白されたこともないし」


「あらそうなの、寂しい人生送ってたのね?」

「あら、あなたは逆みたいね」

「そうよ、もてすぎてすごい悲劇が起きちゃったのよ、あの場所でね」


テマソンは遠い昔に思いをはせていた。


「何があったか聞いちゃダメ?」

「だめだって言われたら余計知りたくなるんでしょあなたは」

「うん、だってあなたの相棒だもん、テマソンが今でも辛いんだったら私も半分背負ってあげるよ」

「ありがとう。でもこれはどうにもできないわね」



テマソンはそう言いながら遥か昔を思い起こしていた。この場所は何も変わってはいなかった。木々は昔のままそこにあり、変わったのは歳をとった自分だけのようにこの場所の時は止まったまま動いていないようだった。


「あのグラニエ城はもともとママンのおじい様の持ち物でおじい様が住んでいたのよ。リリーと二人、毎年夏に会いに来るのが恒例になっていたの、その年も夏のバカンスに滞在してたわ。何をするわけでもなかったけどね。私が歩けば地元の女の子たちが騒いでいたわね。ちょうど十七歳の年だったかしら、この地方のお祭りで劇をすることになっていて、その劇がミカエルに恋した魔女の伝説だったの。ミカエル役の子がいないってことで私に依頼がきたのよ。最初は断ったんだけど、おじい様に頭を下げられて仕方なく引き受けたのよ。その魔女役に選ばれたのが私より一つ年下の女の子でコアっていう子だったの、長い腰まである黒髪のすごくかわいい子だったわ、でも体があまり丈夫じゃなかったみたいだったわ。その子ってね、すごく変わった子で、いつも何か小さな声でブツブツ呪文みたいな言葉を言ってたわ。私はあの当時はすごくもてていてね、どこに行っても追っかけがいたわ。その中の女の子達が大事件を引き起こしてしまったの」


「ある時ね、劇の練習を二人でしてたんだけど、それを妬んだ女子たちが、コアちゃんを劇の練習をするからって魔女塚に連れてきて無理やり魔女塚の大木に括りつけて森に置き去りにしてしまったの。運悪くその夜から雨が降り出してきて夜になっても戻らないコアちゃんを捜索していたコアちゃんの家族がぐったりしたコアちゃんを魔女塚で発見したんだけど、その時から体調を壊したコアちゃんは一年後息を引き取ったの」


「じゃあ劇はできなかったの?」


「ええ、その上あの子をだまして森に置き去りにした子たちがノイローゼになったって聞いたわ。幻覚をみるんですって。だから人びとは好きかってな噂をしたのよ。これは魔女の呪いだって」


「それでテマソン?責任感じてお姉口調になっちゃったの?」


「あら、この口調は三十歳を超えてからよ。でもあの当時、その噂を聞いた私も怖くてね。その事件があって一度見舞いにリリーと行ったけど、容体が悪化していて会えなかったの。ママンからコアちゃんが亡くなったってきいてから数年間、城にも近寄らなかったわ。でも、五年後おじい様の葬儀があって私も仕方なく城に行くことになって久しぶりに城に行ったんだけど」


「そしたらその葬儀に、コアちゃんそっくりな少女が参列していたのよ」

「えっ?五年も前に亡くなっていたんでしょ彼女」


「そうよ、後で聞いたらそんな少女は見ていないってみんな言ったけど、その少女が私が城の外を一人で歩いている時に近づいてきて私に言ったのよ。私に好意を向けてくる邪魔者たちをあなたから遠ざけてあげるってね。何か金色の粉を振りかけられた気がしたのよ。それからよ、女性が私に触れるとアレルギーがでて気分が悪くなるようになったのは」


「女性アレルギーってこと?」


「そこまで大げさじゃないけど、言い寄ってくる女性がいると、気分が悪くなるのは、そのことが起きてから余計その症状はひどくなったわね」

「でも、あなた接客でマダムたちの手をよく握って握手してるじゃない」


「あれはハンドクリームを塗っているから大丈夫なのよ。お姉口調をするようになってから不思議と症状が緩和するようになって、おかげでハンドクリームを塗ってさえいれば平気になったわ」


「そうだったの?でもあなた家ではハンドクリームつけてないわよね。私が触れても気分が悪くなったりしないじゃない。ああっ、私はもう女性ですらないっていいたいわけ」


「そんなわけないでしょ」

「だったら何よ」


「わからないわよ、あなたこそ、私のことなんとも思ってないからなんじゃないの?」

「あらそうだったの?おかしいわね。私、確かにあなたのことは一番じゃないけど、好きなんだけどな」


「もう、あなたらしいわね。そうね、私は四番目よね」

「ごめんね、一番じゃなくて」


「そんなの最初からわかってたわよ。それで十分よ、あなたは私の半身でしょ。あなたは私にとってはファミリーよ」


「本当にそう思ってる?」

「当たり前でしょ」


「ありがとうテマソン。でも・・・そんな呪いなんてあるのね。さすが霊とかがよくあらわれる国だけはあるわね。魔女さんて死なないのかしら?」


「相変わらず、あなたが疑問に思うヵ所はずれてるわね」

「そう?あっでもちゃんと病院に診察に行って検査してもらったりしたんでしょ」


「ええ、ありとあらゆる名医にみてもらったわ。でも結果は同じだったわ。原因は不明。現在の医学ではどうしようもないんですって、私はあまり幽霊とか魔女とか信じたくないんだけど、いい気分じゃないでしょ。だからあなたと出逢うまで長い間この地方に来るのは避けていたのに」


「あら、ごめんなさいね。私が頻繁に来るようになっちゃって、でもだからママンが最近まであなたは城には来なかったって言ってたのね」


「本当よ。碧華ったら、ことあるごとに城にきたがるんだもの。今朝、魔女塚に行くって言ってるってリリーから電話で聞いた時は心臓が飛び出るぐらいビックリしちゃったわよ。新作発表会一週間後なのよ、私こんなことをしている場合じゃないのよ」


「ごめんなさい。帰ったら手伝うから」


「当然よ・・・でも、あなた一人を行かせてまた何かあったら嫌だもの。碧華、あなたちゃんと自覚しておいてよね。あなたはトラブルメーカーなんだってこと、あまり私の寿命を縮めることばかり引き起こさないでよね」


「あら、私は好き好んでしてませんよ~だ」


碧華は舌を出してテマソンに向かって言った。テマソンはただ笑っていたがぽつりと一言付け加えた。


「でもね碧華、私本当はもう一度ここにきたかったのよ。一人じゃ怖いから来なかったけど」


「魔女さんに恨み言を言いに?」


「いいえ、アレルギーは私の元々の体質だったかもしれないって最近思うようになってたのよ、あの事がきっかけだったとしてもね。それにね、きっとアレルギーがなくても私は他人を本気で愛することができる日がくるなんて思ってなかったもの。あなたに出会うまではね。だから、正直恨んでなんかいないわ。ただ、あなたとであって、レイモンドとアーメルナの話がでた当たりから妙に気になっていたのよコアちゃんのことが、もし成仏できずにいるのなら、成仏させてあげたいなって思っていたわ。だから、あなたが魔女塚に行くってリリーから聞いた時、驚いたけど、心のどこかでもしかしたらって思ったの」


「そうなんだ、あなたも優しいとこあるのね」

「あら、私はいつもやさしいじゃない。すっごくあなたに尽くしてるしね」

「あら、それはお互い様でしょ」

「あなたも言うようになったじゃない。出会った時はすごく謙虚だったのに」

「あらごめんなさい。大きな猫を被ってました。ニャー」


碧華はネコの声真似をしてみせた。


「あら、化け猫の間違いじゃないの?」

「失礼ね。こんなかわいいおばさんに向かって」


碧華はそう言った後、急に真面目な顔つきになってテマソンの顔をのぞき込んだ。


「でもコアちゃんだっけ、そんなに若くして亡くなったのなら最後に何を思って亡くなったのかしら?あなたにもう一目会いたかったのかな・・・何だか可哀そうね」


「そうね、十七歳は若すぎるわよね。ただね、私も時々思い出してはいたのよ。彼女ね、天使みたいに心がすごくきれいな子だったのよ。呪いなんてするような子じゃなかったわ。だから周りが言うことなんか私は信じられなかったのよ、自分の身に起きたアレルギー反応のことも全部」


「そう…だとしたら、きっと心が壊れるぐらい悲しいことがあったのね、でも悲しいわね。人を呪いながら死ぬなんて。せっかく人間に生まれてこれたのに」


「そうね」


それから二人は何も話さず森の奥へとゆっくりした足取りで入って行った。




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