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呪いと魔女とテマソンと③

事件が起きたのは次の日の朝だった。シャリーも朝早くに自宅に戻ってしまっていた。


「あらテマソンじゃない珍しいわね、私に電話をかけてくるなんて」


自分の部屋で化粧をしていたリリーの携帯が鳴ったのでとってみると相手はテマソンだった。


〈好きでかけているんじゃないわよ。ビルに聞いたらそっちに行ってるっていうから。朝から碧華とライフの携帯にかけてるんだけどあの子達全くでないのよ、まだそっちにいるんでしょ。いたらかわってくれないかしら〉


「今あの子たち厨房でお弁当を作っているわよ」

〈お弁当?何、どこかへ行くの?〉

「どこだと思う?」

〈もったいぶらないで言いなさいよ〉

「魔女塚よ」


〈なんですって!何ぜそんなことになったの?そっそんなことより早く止めなさいよ、ピクニックなら他にもたくさん行く場所があるでしょ。あの場所は危険な場所なんだから!〉


「あら無理よ、碧ちゃんどうしても魔女塚に行って魔女さんのお参りに行きたいってはりきっちゃってるんだもの。なんでも日本じゃもうすぐお盆?とかの時期で、天国から死んだ人が地上におりてくるって信じられているんですって、だから会いに行きたいっていいだしちゃって止めてもきかないよ。そしたらライフまで見て見たいって言い出して、どうせなら森の中の湖でピクニックしようって盛り上がっちゃって、二人でノリノリでお弁当作ってるのよ」


〈まさかとは思うけど、もしかしてあなた碧華に二十四年前のことしゃべっていないでしょうね〉


「あら何のことかしら、私忘れっぽいから昨夜は私ワイン飲みすぎちゃってあんまり覚えていないのよね。遅くまで四人で何か話していたような記憶はあるんだけど」


〈私がそっちに行くまで出発は待っていなさいって言っときなさいよ。すぐ行くから!〉


「あっテマソン、あなた仕事!」


リリーがそこまで言いかけて電話が切れてしまった。


「ママ、誰かと電話だったの?」


その時、大きなバスケットを手に持ったライフが部屋に入ってきた。


「あら、準備ができたの?」


「まだだよ、でもお弁当を作ってたらおばあ様が様子を見に来て、おばあ様も行きたいっていうから、急遽お弁当の追加作ってるんだ。碧ちゃんがどうせならお城のみんなで行こうって言い出して料理長と一緒に今すごい量のお弁当作ってるよ、でねっ、碧ちゃんがママも一緒に行こうって誘ってこいっていうからさっ誘いに来たんだ」


「あらいいわね。楽しそうじゃない。ピクニックなんて何十年ぶりかしら、もちろん私も行くって伝えといて。あっでも碧ちゃんに、なんかテマソンも今からこっちにくるっていうから出発は待ってあげてって伝えといて」


「あれ、叔父さん今日は忙しいって言ってたのに」

「あなたも碧ちゃんもあの子の電話を無視しているからでしょ」

「だって、叔父さんいつ帰るんだとか、何時に帰るんだってうるさいんだもん」

「あなたの帰りを気にしてるの?」


「違うよもちろん、碧ちゃんの帰りに決まってるじゃないか。昨日も本当は日帰りの予定だったでしょ。それなのに急に城に泊まっていくって電話を入れたもんだから、昨夜なんか僕の携帯になんで連れて帰らないんだって一時間も文句言われたんだよ」


「ははーん。だから昨日、私たちの部屋に逃げてきたのね。あの子あんなにしつこい性格だったかしら?あんまりしつこいと嫌われちゃうわよ」


「本当だよ。会社でもすごいんだよ、碧ちゃんの姿が見えないとどこいったってすぐいうし、さすがの僕もこの一週間でうんざりしてるもん」


「まるでストーカーじゃない。あのテマソンがね、そんなに碧ちゃんのことが気になるのね」


「でも僕碧ちゃんはすごいなって思うんだ。あのうっとうしい叔父さんをいつも全然気にせず自分のやりたいことをしてるんだよ。それでいてうまく叔父さんをおだてて自分のやりたい様にもっていきながら相手しているし、叔父さんの小言も右から左にうまく聞き流してやり過ごしてるし、感心しちゃうよ」


「さすが碧ちゃんね、今日は楽しみだわ。今日は記念日になるわね。シャリーが聞いたら残念がるわね」


「あれ、シャリーおばさんなら、さっきやっぱり家の用事断ったとか言って戻ってきて、碧ちゃんと一緒にお弁当を作ってるよ」

「えっ?そうなの?もうどうしていつも私を仲間はずれにするのかしら」


「だってママ料理できないだろ。だからもうすぐできるよって僕が声をかけにきてあげたんじゃないか。ズボンで行く方がいいよ、碧ちゃん歩くって言ってたから」

「ええ~魔女塚まで歩いたら一時間ぐらいかかるんじゃないかしら、私行くの止めようかしら」


「僕は別にどっちでもいいよ。セルジュは、みんなのお弁当を先に車で湖に運んでくれるっていってたよ」

「あら、じゃあ私はセルジュの車で先に行くことにするわ」

「おばあ様も歩くのにママが歩かないでどうするの」

「いいのよ、私は先に行って立ち寄りたい所もあるしね」


リリーは自分のひらめきに心が躍るのを覚えた。

そうして二時間後、テマソンも到着しピクニックへと出発した。



「タオさんこんにちは」


セルジュの運転する車で湖に先回りをしていたリリーが森が近づいた所にぽつりとある一軒家の前で車を止めるように言うと、テマソン達が来るのを待つからとそこで一人降りると先に行くように伝え玄関のベルを鳴らした。玄関のベルがなって少しすると中から老婆らしき女性がドアを開け中から姿を見せた。その女性はリリーの顔を見るなり驚いた顔で言った。


「あっあなた様は、リリーお嬢様。ごっご無沙汰しております。あっあの何か御用でしょうか?」


タオという老婆はリリーの顔を見るなりおびえたような顔で下を向いて心なしか震えている様子だった。


「そんなにおびえなくても食べたりしないわよ。本当にお久しぶりね。お元気そうで何よりだわ」

「あっあの、その」


タオという老婆は何を話していいものか下を向いたまま困った様子でぽつりと言った。


「おっお嬢様が私なんかとしゃべっては何かあっては大変です。私は魔女の母親なんですから」


「何も起きないわよ。コアちゃんは魔女じゃないわよ。村のみんなが好き勝手言ってるだけでしょ。あっ今日ね、息子が遊びに来ていてね、魔女塚を見たいっていうもんだから湖でみんなでピクニックしようってことになって来たのよ」


「まっ魔女塚でございますか?あっあそこは・・・」


「今日ね、あなたもご一緒にどうかと思って誘いにきたのよ。ママンも一緒にきてるのよ。それにもうすぐコアさんの命日でしょ」

「おっ覚えていてくださったんですか?」


「もちろんよ。それより、あなたに会ってほしい人がいるのよ。おば様も噂で知ってるでしょ、最近城に出入りしている日本人のこと」

「はい・・・」


「碧華っていうんだけどね、家の弟がね初めて女性に夢中になった人なのよ。あの女性アレルギーの弟がよ。でもね、彼女既婚者でね、今の旦那様と別れるつもりはないって、弟は出会った瞬間から望みゼロの恋をしてるの。でもね、彼女も彼女の旦那様も素敵な人達でね、私たちみんなファミリーに入れてくれるっていって今家族ぐるみの付き合いをしてるのよ。変わってるでしょ。今じゃまるで双子みたいに仲がいいのよ。家のママンも碧ちゃんのことを気に入って娘にしたいって公言しているぐらいだしね」


「お嬢様・・・」


「だからあなたが下を向き続けて生きることないわ。魔女の呪いなんか最初からなかったんだから、碧ちゃんといる時のテマソンには呪いなんかまったく効いていないのよ」


「あの・・・」


「あっきたきた、やっぱりテマソンったらフラフラね、まったく普段から運動してないからああなるのよ、タオさん、気が向いたら魔女塚に来てみてね。きっと何かが起こるから、じゃあ待ってるわ」


リリーはそう言うと、遠くの方でにぎやかな声と共に城のみんなが歩いてくるのを手を振った。それをみてタオは頭を下げると、扉を閉めて中に入ってしまった。


「やっぱり、ママンの言う通り無理なのかな。でもタオおば様今お一人だって言ってたし、テマソンのことがコアちゃんとは関係ないってわかればタオおば様だって変われると思うんだけどな。だって今回は碧ちゃんがいるんだもの。きっと奇跡が起こる。そんな予感がするのよね」


閉まったままの玄関の扉を見ながら呟いたリリーは軽くため息をつくと道に戻り、みんながのぼってくるのを待つことにした。



タオはその様子をそっとカーテン越しに眺めていた。しばらくすると、確かにフラフラした足取りのテマソンの手を握りながら、笑顔でテマソンを引っ張っている女性とテマソンの背中を押している別の女性の姿があった。二人の女性に囲まれ触られて歩いているテマソンは息遣いは荒々しそうだったが昔のように女性に触られてアレルギーがでて苦しそうな様子は全くしていない様子だった。



「ちょっと碧華、あなたなんでそんなに元気なのよ。あなたも運動なんて普段してないでしょ」


「あら、主婦を甘く見ないでほしいわね。日本の主婦はお金をかけて運動しなくてもけっこう毎日動いているのよ」


「そうでした・・・あああ~私も車に乗ればよかったわ。まったくライフったら、歩くっていいながら、結局、車で湖まで先に行っちゃうだから。ママンも最初は歩くなんて言っておきながら車だし、私も乗ればよかったわ」


「あら、テマソンはダメよ、詩集の絵になるいい場所がないか見なきゃ。この道を歩いたかもしれないでしょ。城からレイモンドとアーメルナが遊んだ森へ続く道はここだけだって言っていたじゃない」

「そうだけど・・・」


テマソンはハアハアと荒い息遣いをしながら文句ばかりいいながら歩いていた。


「テマソンさん、あっほら、リリーが手を振ってますわ。もうすぐなんじゃありませんか?もうあんなに森の木々が近くに見えてきたし」

「シャリーあなたも元気ね」


「あら、私はカメラマンよ。普段から運動はしてるのよ。さあ、もうひと頑張りよ。それにさっきから素敵な自然の景色が多くて写真を現像するのが楽しみよ」


そう言いながら、碧華はテマソンの手を引っ張りながら先に歩き、その次にテマソンが歩き、テマソンの背中を押しながらテマソンの後ろをシャリーが歩きながら三人はのぼり坂になっている砂利道を歩いてのぼってきていた。

タオには日本語は理解できなかったが、楽しそうに会話している様子は見てとれた。タオは半信半疑ながらも家でしばらく迷っていたが、いつも日課のように足を運んでいる魔女塚に向かうことにした。





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