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盗作と碧華の思い③

四人は空港で少し休憩をとると、碧華はテマソンが用意してきたパーティ―用の衣装に空港のトイレで着替えを済ませると、そのまま七時から行われるパーティーに出席するために会場があるホテルにフレッドの運転する車に乗り込み向かった。


渋滞もあったがなんとか開場一時間前にはホテルに到着できたのだが、受付で招待状を見せ名前を言った瞬間、この招待状では入場できないと、入場を拒否されてしまった。


「まったく、招待状を提示しているっていうのに、名前を言った途端、入場拒否とはね。どうあってもビロームにあわせないつもりね」

「受付に連絡がいっていたのでしょう」


フレッドはそう言ってひとまず一階のロビーまで降りようと提案し、四人は一階のロビーまで降りてきていた。


「仕方ないですね。こうなったら直接会うのはあきらめてテレビで訴えるというのはどうでしょうか?これ以上あの本がでまわらないようにしないと、人気は増すばかりですからね。あの本が盗作だという証拠はこちら側にあるのですから。もちろん裁判の手続きは進めていますが、どうしますか?」


「そうねえ。碧華はどうなの?」

「うーん、私はもめごとはあんまり好きじゃないから、あまり大事にならないようになんとか話しをつけられればいいと思うんだけど」

「それができないから、本人と接触しようとしてるんでしょ。本が出てしまっている以上、大事にならないようにっていうのは無理よ」


碧華はテマソンの一言で大きなため息をついて話の輪から抜けた。テマソンとフレッドが少し離れた場所でまだ話しあっているようだった。


「シャリー、作戦は男たちに任せてあそこに座っていましょうよ」


碧華は翻訳機でシャリーに話しかけると、シャリー―は先にトイレに行くと指さしその場を離れた。碧華は後ろの椅子に座ってため息をついた。


その時ふと玄関ホールに視線をやると、お昼に出会ったカリーナが立っていた。彼女の後ろにはボディーガードらしき人物を二人従えていた。彼女が玄関ホールに立っていると、ホテルの支配人らしき人物が慌てて近寄って行き、頭をペコペコ下げていた。


(あの人、すごい人だったのかな・・・でもそうよねテマソンの新作バッグを買えるんだから・・・普通の人間でないことは確かよね)


などと思いながら碧華はその様子をボーっと眺めていると、ふと彼女と視線が合ってしまった。碧華は慌てて頭を下げた。すると彼女の表情が一変して笑顔で碧華に近づいてきてしまった。


「あら碧華様、奇遇ですわね。こちらのホテルに宿泊されていましたの?」


碧華は仕方なく立ち上がると、カリーナと握手した。


「いいえ、実は七時から行われるゼローム・バロー氏のパーティーに参加しようと思ってきたんですけれど、締め出されてしまって、諦めて帰ろうかって話していたんです」


「えっ?では日本語でえーと・・・そう、殴りこみをなさりにきたんですの?」


「えっ?そっそんなんじゃないですよ。素敵な本を出版された方がいらっしゃるってきいたものだからお話しをお聞きしたいと思って四人できたんですけど・・・」


「あらではお一人ではありませんのね?」

「詩集の仕事仲間と一緒なんですけど」

「まあ!ではなぞのイラストレーターSKY様もいらっしゃっているのかしら?」

「ええまあ」


「どうしましょう。感激ですわ。碧華様、碧華様の殴り込みわたくしにお任せくださいませんか?」


「えっ?ですからどうして殴りこみと思われるのですか?」


「あら、私こう見えてもAOKA・SKY様の崇拝者ですわよ。ファンなら人目みればわかりますわ。ゼローム・バローという男が出したあの本は碧華様の詩をパクっていると、それにあの絵もSKY様の絵風にそっくりでしたし。苦情を言いにきたのでしょう?」


「えっ?あっあのなんていたらいいのかしら」


碧華が返答に困っていると、彼女は碧華がまだ否定も肯定もしていないにも関わらず、すでに苦情を言いにきたと思い込んでいるらしく、碧華の手を握ると目を輝かせて言った。


「わたくし、実はこのホテルのオーナーの娘なんですの。わたくしアトラス人の主人と結婚して今はアトラスに住んでおりますけれど、生まれはフランスですの。わたくし、あの本を見た時、怒りで気を失いそうでしたわ。同じフランス人としてあれは許せませんわ。あのゼローム・バローという男が碧華様の新作を盗作したんだって一瞬でピンときましたのよ。だってファンがみれば一目瞭然ですもの。今夜きちんと言って差し上げようかと思って父におねだりして、父の代理ということで挨拶をしにここにきましたの。お友達も誘ってきたってわたくしが言えば通してくださると思うからご一緒しませんこと」


「ほっ本当ですか?あっ」

「やはり、私の読みはほぼ当たっておりますのね」


「ごめんなさい。まだご本人に確認していないので、憶測では言えませんけれど、真実を聞くためにきたんです。お気持ちはうれしいのですけれど、さっき顔を見られてしまったので、今行っても私は通してくれないと思います。出版社にはすでに問い合わせをしたんですけれど、言いがかりだとおっしゃられているみたいで・・・今八方塞がり状態なんです」


「それならいいアイデアがありますわよ。変装すればよろしいのよ。ここのホテルのブティックと美容院はまだ開いていますから、あちらで変装できますわ。わたくし、支配人に話を通しますわよ」


「でも、ご迷惑じゃないですか?」


「迷惑なら最初からこんな提案はいたしませんわ。わたくしワクワクしておりますのよ」

「ありがとうございます。あっ連れが戻ってきたみたいだから、みんなに紹介します」


碧華はそういうと、カリーナを連れて真剣な表情で話し合っているフレッドとテマソンに近づいた。


「テマソン、中に入れそうよ」

「えっ?」


碧華の言葉にテマソンが振り向くと、カリーナのことを知っているのか、テマソンが驚いた顔で言った。


「あらビモンド夫人ではありませんか?いつもありがとうございます。珍しいところでお会いしますわね」

「あら、あなたはディオレス・ルイのテマソン様?えええ!もっもしかして、テマソン様がSKY様?」

「碧華、バラしちゃったの?しょうのない子ね。ビモンド夫人、このことはご内密に願いますわ」


「もっもちろんですわ。どうしましょう。こんなに驚いたのは初めてですわ。まあ、今日はなんて素敵な一日なんでしょう。もう感激で倒れそうですわ」


SKYの正体がテマソンだと知った彼女は感激の声を上げた。何を隠そう、彼女はディオレス・ルイのお得意様なのだ。それにテマソンの大ファンでもあった。

テマソンはそんな彼女の手をとり、横のソファーに彼女を座らせた。そしてフレッドとシャリーが挨拶を彼女にしていると、彼女はさらに驚きもう卒倒寸前だった。

シャリーとは顔なじみのようだったが、彼女が写真家だと聞いて驚きの表情をみせたが同行しているのが彼女の息子のフレッドだと知るとカリーナの感激は頂点に達していた。シャリーの息子は社交会の仲間内でも若くて優秀だとかなり有名らしく人気の的のようだった。そんな感激のあまり放心状態の彼女をみてテマソンは碧華の耳元に小声でたずねた。


「碧華、あなたどこで彼女と知り合ったの?」


「今日あなたを待ってた空港でよ。彼女から声をかけられて少し話したの、今日はほら練習したAOKA・SKYのメイクしてるからすぐわかったんじゃないかな。ファンは大切にしなきゃ。彼女、このホテルのオーナーの娘さんなんですって、パーティーにも招待されているんだって」

「なんですって!」


碧華の言葉を聞いたテマソンの態度が急変した。感激しているカリーナの手を取って最高の笑顔で言った。


「ビモンド夫人、お願いがありますの。わたくしたち四人、五階のパーティー会場に入りたいんですけれど入れるように口添えしていただけないでしょうか?」


テマソンの言葉に正気に戻ったカリーナは大きく頷きながら答えた。


「もっもちろんですわ。他ならぬテマソン様と碧華様のためですもの、わたくしでよければご協力いたしますわ。それで、そうですわね。顔がばれていらっしゃるそうですから、皆さま変装をなさってはいかがでしょうか?」


「あら女性陣はともかくわたしたち二人は無理なんじゃないかしら」


テマソンはフレッドの方をみながら言った。するとカリーナがほほ笑み返した。


「大丈夫ですわ。背の高いモデルの女性はわたくし友達にたくさんいましてよ」

「えっ?もっもしかしてわたしたち女装しなきゃいけないのかしら?」


「ええ、そうなりますわ。でもご安心くださいませ、我がホテルには一流のメイクアーティストがおりますから、ブティックもございますし、鬘もご用意できると思いますわ」


その言葉を聞いたテマソンは平気みたいだったが、フレッドが青ざめ始めた。


「僕は無理ですよ」


すると、横で話しを聞いていたシャリーが口をはさんできた。


「あらフレッド、人生何事も経験ですよ。あなたならきっと美人さんになれるわよ」

「母さんは写真を撮りたいだけなんじゃないですか?」

「あらいいじゃない」


シャリーは膨れながら抗議していた。碧華は英語で話されている会話にはまったくついていけなかったが、話しがまとまりそうなことは雰囲気で察知した。


シャリーの説得もガンとして女装は嫌だと言い張ったフレッドにシャリー同様カリーナも残念がったが、仕方なくカリーナの同行しているボディーガードの一人に変装するということで同意した。逆にテマソンはノリノリで女装に同意していたらしかった。



三十分後、変装を済ませた四人が再び一階のロビーに姿を表した。結局碧華とシャリーは地毛とは違う髪の鬘を被りメイクを変えると、全くの別人に変装できていた。テマソンも女性の服に着替え、メイクすると一流モデルに変身していた。


「まあ、やっぱり私って女装しても似合うわね。そう思わない碧華」


テマソンは心から楽しんでいる様子だった。


「そうね、でもさすがプロね、まったくテマソンだってわからないよ」

「あらあなたもね」


二人はお互いの姿をみて笑い合っていた。そして、作戦を話し合った。


「でも私、日本語でいいの?」


「私が通訳するわよ、それに大まかなことは私が全て話すからあなたは最初に自分がAOKA・SKYだと言えばいいのよ、あなたに聞きたいことがあるとだけね。その後は私がしゃべるわ」


テマソンの説明に納得したようなできていないようなあいまいな感じの碧華だったがなるようになるかなと開き直ることにした。


「さてお二方、時間が迫ってきましたよ。そろそろパーティーの開会時間ですよ」


その言葉に二人の表情が一変した。


「じゃあ行きましょうか」


碧華が言うと四人は頷いた。そしてカリーナを先頭にその後ろにSPに変装し、サングラスに黒髪の鬘をかぶったフレッドと、本物のSPの人を二人従え、その後に碧華とシャリー、一番後ろにテマソンの順に出版記念パーティーの会場へと向かった。




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