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盗作と碧華の思い②

テマソンが碧華の新作の盗作作品の犯人を追い詰めるべく奔走していた約一月後、碧華は娘達のテストも無事終わり、優の卒業式に出席した翌日、一路フランスに向かっていた。


フランスのパリにつくのは月曜日の午後三時の予定なのだが、その日は前々からアトラスとフランスに行く予定で碧華も準備をしていたのだが、その日フランスのパリで、ビローム・バロー氏の出版記念パーティーが夜にパリ市内のホテルであるという情報をフレッドから数日前に入手したテマソンが碧華に直接フランスにくるように指示してきたのだ。


碧華を乗せた飛行機は順調に時間通りにフランスに到着した。碧華は慣れないフライトで戸惑いながらもなんとか入国手続きも無事終わり、荷物を受け取り出口に向かった。 

だがどんなに見渡しても先に来ているはずのテマソンの姿はどこにもなかった。


「何よ、必ず先にフランスに来て待っててあげるからっていうからフランス行きのにしたのに、言葉も通じないし、私はどうしたらいいっていうのよ」


碧華は通路の向うの椅子がある場所に腰をおろすと、キャリーバックのもちてに巻き付けていたチェーンを伸ばし、先を自分の右手に巻き付けた。

そして前にかけていたリュックをおろし、スマホを取り出した。するとテマソンからメールが来ていて、フランス行きのユーロスターが遅れているらしく、遅れると書いてきていた。


〈テマソンの嘘つき!〉と書いて送ろうかと思ったが思いとどまった。今回のフランス行きも忙しいテマソンにとってはかなり大変なことだったに違いないことは碧華にも充分わかっていたからだ。


〈今無事着いた〉


碧華はそれだけ送信して送った。すると、すぐテマソンから電話がなった。


〈碧華ごめんなさい。まだアトラスなのよ。二時間ぐらいかかるかもしれないわ〉


「そう、仕方ないわね。私なら大丈夫よ。小説でも読んで待ってるから」


〈あら、あなたずいぶん優しいのね。どうしたの?疲れてるんじゃないの?体大丈夫?しんどくなったら、翻訳機で空港のスタッフにいうのよ〉


「わかっているわよ。大丈夫よ、今の所体調はいいから」


〈そう、ならいいんだけど、さっきフレッドから連絡をもらって、空港に向かえに向かってくれているみたいだから、じきにつくと思うわ。空港に着いたらあなたに電話するように言っておいたから〉


「えっ?フレッドさん自ら迎えに来てくれるの?」


〈そうよ。今夜七時からパリ市内のホテルで『メモワール』の出版記念のパーティーがあるって言ったでしょ。ビローム本人と直接接触できるチャンスだから彼にも同行してもらうことにしたのよ〉


「せっかくのパーティーなんでしょ。私たちが行ったら台無しになっちゃうんじゃないの、終わってからとかでもいいんじゃない?可哀そうでしょ」


〈あなたねえ、犯人に同情してどうするのよ。ジーラス出版社があの作家の居場所は教えられないの一点張りなんだから仕方ないでしょ。盗作だって言っても言いがかりだって取り合ってくれなかったんだから〉


「あなたが直接文句を言っても駄目だったの?」


〈そうよ、あの出版社の社長が大のアトラス人嫌いなんですって。まっ詳しい話はついてから説明するわ〉


テマソンの電話が切れてすぐにフレッドから電話がきた。それによると、車が渋滞しているようでまだ到着まで一時間ぐらいかかりそうだというのだ。碧華は大丈夫というと電話を切り待つことにした。


「咽喉が渇いたけど、両替はどこだろう?」


碧華はキャリーバッグを持ちながら両替場所を探したが、結局見つけることができず元の場所に戻ってきた。


「仕方ない、諦めて座ってよ。動き回ったら疲れちゃったし。はあ・・・」


碧華はあきらめてスマホを触ろうと電源を入れたが、もし万が一何か連絡が入るかもしれないと思い直し、ぼーっと行き交う人達の流れをただ眺めていた。


どれだけ時間が過ぎただろうか、突然目の前に一人の女性が碧華の視界に入ってきた。

彼女はフランス語で何かを話しかけてきた。碧華は首をかしげていると、今度は英語らしい言葉で仕切りに何かをしゃべりかけてきた。碧華は周りに視線を向けたが彼女は明らかに碧華に向かって話かけてきているようだった。

碧華は仕方なく、編訳機を取り出し目の前の彼女に向かって話しかけた。


「私に何か御用ですか?」


碧華がしゃべると、その女性は驚いたような表情をみせると驚いたことに日本語で話しかけてきた。


「突然ごめんなさい。あの…人違いだったらすみません。あなたはこの本の著書のAOKA・SKYさんではありませんか?」


流ちょうな日本語でそう聞いてきた彼女が見せたのは碧華の本だった。


「あら私の本、確かに私は碧華ですけれど」


碧華がそう返事すると、その女性は興奮した様子で英語とフランス語交じりのような言葉を早口でしゃべっていた。ひとしきり興奮し終わると、碧華の前で一礼してからまた日本語で話しかけた。


「わたくし、あなたの大ファンなんです。あなたの詩を読んで、日本語を必死で覚えました。あっあのサインしていただけませんか?」


「あらファンの方でしたの。私サインは普段はしないんですけど、私の本を持ってくださっているのですね。ありがとうございます。あのあなたのお名前は?」


碧華は差し出された本を開いた一ページ目に一緒に手渡されたペンでサインを書いた後にたずねた。


「あっカリーナでお願いいたしますわ」

「名前のスペルわからないからカタカナでいいかしら?」

「素敵ですわ。ありがとうございます」


碧華は本にカリーナさんへと書き足しその本を彼女に返した。カリーナはその本に書かれたサインをみて感激したような瞳をしながら言った。


「わたくし、去年のサイン会には参加できずお友達に本だけは購入してもらったんですけれど、行けなかったことが悔やまれて仕方なかったんですの。碧華様はアトラスにはめったにいらっしゃらないってお聞きしたものですから」


「もっと日本が近ければ頻繁に行き来したいんだけれど、でも、サイン会に来られていないのでしたらどうして私がAOKA・SKYだとお分かりになったの?」


「実はわたくしディオレス・ルイの新作発表会のパーティーには参加しておりましたの。それで後日、本を頼んでいたお友達に聞きましたら、ディオレス・ルイの新作発表にいた碧華様と同一人物だったと教えていただいたんですの。もうあの時の感動は忘れませんわ」


「あらそうでしたの。私あの時は初めてのフライトで疲れていてあまり記憶にないんです。すみません」


「あら、大勢の方がいらしてましたものね。仕方ありませんわ。あの…碧華様は今日はご旅行でいらしたのですか?」


「仕事のようで仕事じゃないような。私もよくわからずにきましたの」

「?」


「あっごめんなさい、変な日本語ですよね」


「いえ、プライベートなことを聞いてしまってすみません。あっあの、もしお時間がおありのようでしたら、どこか喫茶店でお話ししていただけませんか?あのどなたかお待ちなのですか?」


「迎えの人が来てくれるはずなんだけど、車が渋滞しているみたいで、身動きとれない状態なんです。それに、私この空港に一人できたのが初めてで、両替の場所が分からなくて、お金が使えないんです。せっかく誘てくださったのにご一緒できませんわ」


「あらそうでしたの。わたくしごちそういたしますわ。咽喉が渇いているのではありませんか?」

「ええ、でも大丈夫ですわ。もう少ししたら迎えがきてくれると思いますから」


「そうですか・・・残念ですわ。ちなみに両替場所はこの階にはありませんのよ。かなり遠くになりますわ。あの、あそこの売店で私に飲み物ぐらいならプレゼントさせていただけませんか?サインを頂いたお礼として」


「えっ、そんな初めて会った方におごっていただくなんてできないわ」


「いえ、ぜひおごらせていただきたいんです。サインをいただきましたし。わたくしの気が済みませんの」

「そうですか・・・日本円でよければそれをあなたにお支払いするというのでよければ」

「ええ、碧華様がそれでご納得いただけるのでしたら」

「ありがとうございます。実は私、すごく咽喉が渇いていたんです」


碧華はそういうと立ち上がり、彼女とともに売店に行き、林檎ジュースを買ってもらい、金額はわからなかったので五百円玉をだしこれでいいかたずねた。


「私も日本円に直すとどれぐらいになるのかわかりませんから。碧華様の気のすむ金額で結構ですわ」

「じゃあありがとうございます。いただきます」


碧華は五百円玉を渡すと頭を下げた。カリーナも頭を下げた。


「今日はお会いできて本当にラッキーでしたわ。素敵な旅を。また素敵な詩集を書いてくださいね」

「ありがとうございます」


碧華は去っていくカリーナに手を振りながら見送った。そしてまた元の場所へ戻り椅子に座ってジュースを飲みだした。


それから三十分後、フレッドから空港に着いたと連絡が入った。言われた待ち合わせ場所に行くと、シャリーも一緒にきていた。二人は抱きあって再会を喜びあった。

それから一時間後ようやくテマソンが到着した頃には夕方五時を過ぎていた。




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