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盗作と碧華の思い①

二月が終わろうとしている頃、突然真夜中に碧華の携帯電話の音が鳴り響いた。


「誰よまったく」


碧華は寝ぼけながら枕の横に置いている携帯電話を探し出し電話口に出た。


「もしもし」


眠そうな声で碧華が言うと、聞き慣れた声が聞こえてきた。


〈碧華大変よ!至急アトラスに来なさい!〉


「はあ?冗談をいうならもっと別の時間にしてくれる。今何時だと思っているの!」


〈何時って夕方の六時よ〉


「テマソン時差を忘れてない?こっちは夜中よ!こんな時間にかけてくる電話と言えばいたずら電話か、誰かが急病になった時ぐらいなものよ」


半分切れ気味に言い放った碧華に対して珍しく慌てた様子のテマソンの声が聞こえてきた。


〈緊急事態なのよ。あなたの起きる時間なんて待っていられるわけないでしょ。重大事件はあなたの詩集本の事なんだから〉


碧華はわけがわからないというように大きくため息をつきながらも起き上がると、台所に行き椅子に座った。


「ごめん・・・今寝起きだから頭がはたらかないんだけど、簡単に何が起きているのか説明して」


〈簡単に言うと、一月に作ったあなたの新作の十作品が盗作されてフランスで出版されているのよ。フレッ

ドが発見して連絡をくれたの〉

「・・・」


眠い頭の中でテマソンが言った言葉を考えていると、テマソンからまた声が響いた。


〈碧華聞いているの!〉


「耳に響くから大きな声をださないで。今あなたの言った言葉を考えていたのよ」


〈私も信じられなかったわよ。でもね、フランス語で書かれているけれど内容はそのままだし、絵も使われている写真もそのままなのよ〉


「フランスで発売された本の一部が私たちの新作だとわたしの作品の原画をみていないフレッドがどうしてわかったの?」


〈フレッドは二月十日発売と同時にすごい人気になっていたビローム・バローの『メモワール』ってタイトルの詩集を会社で若いスタッフが騒いでいるのをみかけたんですって、そもそもあの詩集に使う予定だったシャリーの写真のほどんどは今はフレッドが所有している土地を撮影したものなんですって、だからシャリー以外撮影を許可した記憶のない写真が掲載されていたので、シャリーに連絡をしたってわけ、当然心あたりのないシャリーが驚いてその本を送ってくれるように言ったら、フレッドが直接その本を持ってわざわざ私を訪ねてきてくれたところなのよ〉


「えっ、フレッドさんもきてるの?忙しいんでしょ」


〈そうよ、それだけすごい事件が起きたのよ。あなたもまあいいかなんて言ってる次元じゃないわよ。だいたいあの新作、この間きた担当者がコピーでいいから上層部に見せて出版許可がおりるか確認したいから持って帰らせてほしいって言っていたでしょ。あれから私もすごく忙しくて、詩のことは忘れていたのよ。シャリーは城の写真や他の写真の撮影にかかりっきりになっていたみたいでずっと連絡なかったし、今フレッドから本を見せられてビックリしたわよ。さっきコピーを預けていた担当者に連絡したのに繋がらないし、出版社に電話しても担当者がいないのでわからないの一点張りで話にならないのよ〉


「でも今は二月でしょ、あの新作十作を出版社の担当者に渡したのは確か一月七日でしょ。そんなに早く出版なんてできるの?内容って十作だけじゃないんでしょ?」


〈ええ、他にも追加で十作掲載してあるけど話にならないものばかりね。あなたの作品がメイン扱いでオールカラーで後は付け足しのおまけ扱いって感じね。ラストは二人の子供達が別々の道を歩いて大人になっていくみたいなラストになっているわ。不幸中の幸いはラストシーンは出版社には渡していなかったから。子どもの頃の記憶みたいな流れに持っていっているわね。出版自体は急げば、数日で販売までこぎつけられるみたいだから、二月十日発売もできないことはないわよ。こんなこと前代未聞よ。信用して預けているのに盗まれるって信じられないわ。それを隠ぺいしようとしているあたりも、あの出版社許せないわ。今後の出版も考えなきゃ。碧華今回はまあいいかじゃ済まさないわよ。私の絵も勝手に使われているんだから。これを許したらこれから書く私のイラストが誰かの真似になってしまいかねないのよ〉


「そうよねえ・・・まったく馬鹿よね。私の詩だけにしていたら許してあげたかもしれないのにね」


〈碧華あなたね・・・そんな甘いことをいつも言っているから付け込むやからが増えてくるんでしょ〉


「はあ・・・ごめん、今頭がぼーっとして言い合いできる体調じゃないのよね。でっこれから私はどうすればいいの?」


〈あなたには何も期待していないわよ。ただね、当事者のあなたがいないと警察に届けるにしても話にならないのよ。それにアトラス国内の問題じゃないし、フランス警察も関わってくるから、フレッドも全面的に協力してくれるらしいし、いろんな手続きや訴訟の準備はこっちでやっておくから、あなたもできるだけ早く着てほしいのよ〉


テマソンの言葉に碧華は立ち上がると、カレンダーをみながら答えた。


「うーん何日ぐらいで帰ってこれそう?」


〈最低十日はかかるかもしれないわね。それ以上かも、とにかく何日かかるかわからないわ。いつ呼び出しがあるかもわからないし〉


「じゃあ無理ね、今回は私抜きでやってよ。私の詩は世にだしていないのだから私のだって証明しようがないから、その犯人さんに無償提供するから、テマソンの絵とシャリーの写真はなんとかあなたたちの作品だって証明して訴えてよ」


〈碧華!〉


「だって、まだ出版もしていない作品の為に家族に迷惑はかけられないわ。娘達の学年末試験の発表がもうすぐなのよ。二人の試験期間が一週間ずれてるから終わるのは三月九日だけど、優の中学の卒業式が三月二十三日にあるからどっちにしてもそれまでは無理よ。娘達が春休みに入ったらそっちに行けると思うけど」

碧華はカレンダーを見ながら答えた。


〈そんなに先なの?もういいわ。詳しいことがわかったら一応報告してあげるわ。じゃあゆっくり休みなさい。おやすみ〉


「怒ってるのテマソン?」


〈大丈夫よ、かろうじて怒っていないわ。家族第一のあなたらしい返答だなって思っただけよ〉

「本当に?ごめんなさい。でもあなたもあまりイライラして無茶しないでね」


〈わかってるわよ、ちゃんと睡眠はとるわよ。じゃあね、また連絡するわ〉



テマソンはそういうと受話器をおいた。そばで聞いていたフレッドが理解できないでいる様子だった。それを見たテマソンも小さなため息をつきながら言った。


「あなたが理解できないのはわかるわよ。私たちの常識はあの子には通用しないのよ。まっそこがあの子の魅力なんだけどね」


「僕には理解できません。どうして碧華さんは怒らないのですか?」


「そういう子よ、自分自身に関しては無欲で、すぐ人を許しちゃうのよ。まあいいか仕方ないってあきらめて生きてきたみたいね」


「やはり理解不能ですね」


「私も同感よ、これに関しては徹底的にやるわよ。それでなきゃ新しい本は二度と出せないわ。あんな最高傑作が未完成のまま、こんないい加減なラストで終わらされるなんて許せないわ」


「でも、真実のラストを知らなければステキなラストだと思うわこれ。この人才能あるんじゃないかしら。これフランスですごく売れているんでしょ。この碧華さんの詩やっぱり素敵だわ。きっと碧華さん、解決してもここにのってある十作はもう世にはださないんでしょうね。残念だわ」


そうため息まじりに言ったのはテマソンの隣にいたシャリーだった。


「母さんものんきなことを言っていないで、、あなたも無断で写真を使われているんですよ。これらだって家に何日泊りこんで撮ったと思っているんですか?」


「だって仕方ないじゃない、でちゃったんだもの。私も碧華さんと同じよ。他人の作品として世にでたものを、実は私の作品だって後から証明されても、後で自分の作品として出したくはないわ。でも問題はテマソンさんの絵よね。独特のタッチがあるもの、ファンがみれば一目瞭然だと思うわ。犯人も考えたわね。アトラスの出版社に持ち込んだらすぐに盗作だってばれるのもの。かなりの知能犯ね。もしかして碧華さんの性格もわかった上で狙ったのかしら」


「だとしたら断然許せないわね。こんなにコケにされた気分になったのは生まれて初めてよ。私を本気で怒らせたらどうなるか思い知らせてやるわ。フレッド、あなたこの出版社の社長を知っている?」


「ええ知っていますよ。アポイントとれるか連絡を入れてみます。なんだかワクワクしてきますね。僕も自分の私有地の写真を勝手に掲載されているのは納得できませんからね。弁護士を立てて訴えましょう」


「そうね、私はサファイア出版社の社長に直接話を聞いてくるわ。とぼけられたら、今後一切あの出版社とは仕事をしないわ。その後で、このジーラス出版社に抗議に行くわ。その前に鑑定士の所にもよらなきゃ。後シャリー、この写真と同じアングルで撮った写真あるかしら?日付もわかるわよね」


「ええ持ってるわよ」


シャリーの言葉にテマソンは頷くとフレッドに向き直った。


「フレッド、あなた忙しいんでしょ。もういいわよ。後は私がするから、あなたはフランスに戻って。ジーラス社に連絡を取ってくれるだけでも助かるわ。ありがとう」


「水臭いですよ、僕も桜木ファミリーの一員ですから協力しますよ。僕はひとまずフランスに戻ります。あっ、ちなみにくる途中ネットに流しておきましたから、早速食いついているファンがいるようですよ。詩風と絵がAOKA・SKYの作品に似ていると。もうすごい速さで広まってきているようですよ。盗作ではないかとね」


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