初めての親友⑤
「二人とも!どういう事、抜けがけはずるいわよ。私だけ仲間外れなんて!」
その日の夕方、テマソンと碧華が仕事を終えて戻ってくると、そこには帰ったはずのシャリーとリリーが待っていた。リリーはすでにワインを何本か飲んでいたのか目が座っていた。
「ずっと待っていたのよ。遅いわよ~」
そういうなり、車椅子の碧華に突然抱きついた。
「リリーお姉様、どっどうしたんですか?そっそれにシャリーも帰ったんじゃ・・・」
碧華は酔っぱらっているリリーを受けとめながらシャリーに視線を向けた。シャリーは申し訳なさそうに両手を顔の前でつけ頭を下げていた。
「なあにリリー、どうしてあなたがここにいるのよ」
「あ~あんたでしょう。私をのけ者にしようっていったのは」
今度はテマソンに絡み始めた。
「ああもう、この酔っ払い。ちょっとそこで座ってなさいよ」
「ああ~テマ!あんた生意気よう~」
テマソンんはリリーを碧華から引き離すと、ソファーに座らせ、冷蔵庫の冷たい水をグラスに入れリリーに飲ませた。
「ごめんなさい、今日夕食をリリーと食べた時に、今朝の乾杯のことをリリーに話しをしたら、自分だけのけ者にされたってすねてしまって、しばらくワインを飲んでいたんだけど、急にあいつが仕組んだんだっていいだして、懲らしめに行くといって、こちらにくるってきかなくて」
シャリーは英語でテマソンに説明している間に、水を飲んでぐったりとしているリリーの背中を車いすからソファーに移動してきた碧華が背中をさすっていた。
「碧ちゃ~ん、私も親友になりた~い。私だけ仲間外れなんてずる~い」
「だって、リリーお姉様とはもう姉妹だもの。それにシャリーとも昔からのお友達でしょ。リリーお姉様はすでに私にとっては大切なファミリーじゃないですか」
「本当?本当にそう思ってる?本当は私のこと嫌いじゃないの?」
リリーは碧華に抱きついて言った。碧華はリリーを抱きしめて言った。
「私にとってはリリーお姉様は本当のお姉様みたいに思ってるんですよ。リリーお姉様は違うの?」
リリーは首を大きく振って言った。
「私も碧ちゃん大~好き」
リリーはそういうと、碧華の膝の上にゴロンと横になって寝息をかきはじめた。
「まったく人騒がせな。りりーそんな所で寝てると風邪をひくわよ。しかたないわね。そういえば子供たちは今夜はビルが得意先の社交パーティーに連れて行くって言ってたわね」
「ええ、エンリーも午後から二時間ほど学校があるって言っていたけど、夕方ライフと一緒に戻ってきて一緒にパーティ―に行ってくるって写真付きのメールはいっていたわ。さっき終わったけど、遅くなったから今夜はもうレヴァント家に泊まることにしたっていってきたわ。ライフも明日は休みが取れたんですって、嬉しそうな動画を送ってきてたわ。明日はアトラス最終日前日だから、四人でどこかに遊びに行ってくるっていってたわ。夜はこっちに泊まるっていってたけど」
「それなら、リリーがあの子たちを出迎えなきゃいけないのに、本当に何やってるのかしらねこの子は。よいしょっと。じゃあ客間に寝かせてくるわ」
テマソンがリリーを碧華の膝から引っぺがし、抱き起しながら、そのままリリーを寝室に運ぶために歩きだした。
「あっ待って、シャリーちょっと一緒にきて」
碧華はまた片足で器用に移動しながら、シャリーを手招きすると、和室の中へ一緒に入って行った。それから五分後、和室から顔を出した碧華がリリーを抱いたテマソンを手招きした。テマソンが和室に入ると、和室の中に布団が四脚敷かれていた。
「今夜は子どもたちもいないし、シーツはきれいに交換しておいたから、ここでみんなで寝ましょうよ。あっリリーお姉様はここね。テマソンも一緒に寝るのよ」
碧華は四枚ひかれた布団の中で奥から二番目の場所を指さした。
「わっ私はいいわよ。自分の部屋で眠るから」
テマソンはリリーをそこに寝かせると立ち上がり言った。すると碧華はシャリーと顔を見合わせ言った。
「だって、リリーお姉様が目を覚ました時みんなが一緒に寝てたら喜ぶと思うもの、私たちはファミリーなんだから。それにもうさすがにこの歳だと、テマソンに襲われるなんて心配しないわよ」
「あっ当たり前でしょ」
テマソンは真っ赤になって言い返した。
「じゃあ問題ないじゃない。一緒に寝よう。またしばらく離ればなれなんだし、私、友達と同じ布団の中で女子トークなんて初めて」
「あなたはいいとしてもシャリーは嫌でしょ」
碧華との日本語の会話を簡単に説明してからシャリーに言うと、シャリーは嬉しそうに一緒でもいいと言い出した。
私も四人で寝て、朝を覚まして驚いた顔のリリーの顔を見たいと言い出したのだ。それを聞いた碧華が四つん這いになりながらシャリーの所にきて一緒だと手を取り合って喜んだ。
「どうなっても知らないわよ。じゃあさすがに私も昨日は寝てないから眠くなってきたから、寝る準備をするわ」
「碧華あなたも寝てないんでしょ。先にシャワー浴びてきなさいよ。シャリーはシャワー浴びたの?」
「ええ、家で浴びてからリリーと夕食行きましたから」
「そう、でもそのままじゃ眠りにくいでしょ」
テマソンは、壁際の引き出しを開け、シルクのパジャマを取り出した。
「安心して、これは新品だから、碧華たちが泊りにくる時用に予備にいつも新品買い置きしてるものだから使って、リリーは仕方ないからそのまま寝かすわ。今着替えさせてまた暴れられてもめんどうだから」
そういうとテマソンはシャリーの着替えを渡すと和室を出て行った。それから一時間後電気を薄暗くし、四人並んで布団の中に入った。しばらく話をしていた三人だったがいつのまにか三人は熟睡していた。
翌朝、目が覚めたリリーは驚いていたが、「子どもの時のパジャマパーティーみたいだわ」と感激のキスの嵐を三人に注いだのはいうまでもなかった。
そうして、いろいろあった二度目のアトラス旅行はあっという間に過ぎてしまった。お土産もたくさん買い、碧華たちは日本へ帰って行ったが、その後、日本に戻った碧華は素直に一日の事件の事を栄治に告白した。栄治は無事でよかったとしか言わなかったが、実は碧華達が飛行機に乗っている間に、テマソンやリリー、それにヴィクトリアからも事件の詳細と謝罪の連絡を受けていたのだ。栄治はそれを聞いた時は驚いたが、同時に碧華が増やしたファミリーの暖かさも痛感したのだ。何があっても碧華が手に入れたファミリーの絆は壊してはいけないと改めて決意する栄治だった。
碧華達が帰国してまたいつもの生活に戻ったが、一月の栄治の誕生日には、ファミリーからたくさんの誕生日プレゼントが届いた。栄治はそのたくさんの誕生日プレゼントの山を眺めながら、碧華が増やし続けているファミリーの存在が自分にとっても大切な存在になってきていることを改めて感じていた。
栄治は家族がずっと常に一緒にいなくても、お互い好きなことをして楽しみながら互いに笑顔で過ごしているこの毎日が気に入りだしている自分に気づいた。
お互い自分が好きで、自分のやりたいことを楽しみながら過ごす、そんな家族の形もまたいいものだと・・・
一方アトラスでは、新作の追加作業も順調に進んでいるようで、シャリーはリリーの口添えでヴィクトリアから特別の許可を得て、二十日間もの間城に泊まりこみ、朝もやのかかる城や夕日に映える城などあらゆる角度や時間を変えて撮影し、ようやく一枚の写真を撮ることに成功した。
その写真は朝もやの中、一筋の光が城に向かって差しこむ瞬間をとらえた一枚だった。そしてその写真の城の城門には二つの小さな影が描かれていた。
この新作「アーメルナ」は詩集としては異例のヒットとなり、アトラスに留まらずヨーロッパ中から注文の依頼が殺到した。
この詩集の人気により、シャリーの写真技術も認められ、多くの写真撮影の依頼が殺到したが、シャリーはためらうことなく断った。それは、シャリーにいち早く仕事の依頼をした人物がいたからだ。
彼はシャリーを会社専属のカメラマンとして会社の広報部に引き抜いたのだった。今では彼女は、ディオレス・ルイの広報部の社員として、楽しく仕事をする姿があった。
最初はビンセント家夫人が仕事などと反対していたジャンニ氏だったが、彼女の熱意に負けたのと、フレッドの口添えがきいたらしかった。
しかし、彼女が仕事に行くようになってからというもの、今までオドオドしていた妻が生き生きと毎日楽しそうにしている妻を見てジャンニ氏もその後何も言わなくなっていた。
しかし、実はこの名作「アーメルナ」誕生までにはもう一波乱起きるのだがそれはまた次の機会にいたしましょう。