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初めての親友①

翌日の日曜日、碧華はフランスにいた。もちろんテマソンもついてきていた。というのも、さかのぼること昨日の夜、夕食後、その日の会場内の録画映像を観ていた時にエンリーの兄からエンリーに電話がかかってきたのだ。


「何か急用ですか兄さん?」


〈エンリー、さっき母さんから聞いたんだけど、今お前の彼女がアトラスに来ているんだろ?〉


「はい、九日には帰国しますけど」


〈明日、何も予定が入っていなかったら彼女を連れてフランスに来ないか?〉


「えっ、ですが今、彼女一人ではないんです」


〈ああ聞いてるよ、みんな一緒にどうかなって思って誘ってるんだ。桜木家の噂は母さんから聞いているよ。父さんが年末の釣が楽しかったって笑って話すのを初めてみたって聞いたんだ。碧華さんだっけ、お前の彼女のお母さん、アトラスですごい人気詩人作家なんだってな。ぜひ彼女にもお会いしてみたいし、足を怪我しておられると聞いたんだが、一度聞いてみてくれないか?連絡はとれるか?〉


「今ここにいるから聞いてみますよ。折り返しでいいですか?」


〈ああ、もしOKなら交通費は俺が出すから心配しないでくれと伝えてくれ〉


エンリーが電話を切って兄が栞と碧華に会いたがっていると話すと、碧華は即座にOKをだした。最後まで反対していたのはテマソンだった。


「あなたね、足がまだ完治していないのに、フランスなんて行っても移動するの大変でしょ」

「でもエンリーのお兄さんに会えるなんてチャンスそうそうないよきっと、ねえエンリー」

「そうですね。今は、兄は会社の中では父以上に忙しいみたいですから。昨年では僕も一度しかあっていません」

「ほら、そんなお忙しいお兄さんが私たちに会ってくれるのよ。私会って挨拶したい。テマソン、チャンスっていうのはそうそうめぐってこないのものなのよ」

「でもねえ」


テマソンの心配は自分の目の届かない場所でまた何か起きないかということだった。これ以上問題を起こしたり倒れられてはそれこそ大変なのだから。


「テマソンさん、明日はオフィス自体休業しているなら、ご一緒に来ていただけませんか?兄も、もう一度ゆっくりあなたとお話ししたかったと言っていましたし。あなたが一緒にきていただけると、僕も安心ですし」


「でも、私は家族でもないし、図々しいでしょ」


「何言ってるのよテマソン、あなたは私のファミリーでしょ。あなたが一緒だと私も安心だし。エンリー、お兄さんに聞いてみてくれる?テマソンも一緒でいいか?テマソン、明日何か予定あったの?仕事とか忙しい?」


碧華はテマソンの顔を伺いながら質問すると、困った顔をしながらテマソンは黙り込んでしまった。実際、仕事はどうにでもなった。もともと明日は碧華たちを観光に連れていく予定にしていたからだ。迷っている様子のテマソンにライフが叫んだ。


「叔父さん!行こうよフランス!僕も久しぶりに行きたいと思っていたんだ」

「何よ、あなたも行くつもりなの?」


「ええ~なんだよ叔父さん、もしかして僕だけ置いてけぼりにするつもりだったの。そんなのずるいよ。それだったら、叔父さんも絶対行かせないからな」


ライフがすねながらいうと、エンリーが言った。


「ライフ、お前は関係ないだろ」

「じゃあ私もお邪魔かもしれないからライフさんがいけないなら私もライフさんと留守番してる」


ライフの隣に座っていた優がいうと、困った顔をしたエンリーにライフが優に寄りかかり涙声をだして言った。


「優ちゃ~ん、やっぱり君は優しいな・・・こんな薄情な奴らほっといて僕らだけでどこか遊びに行こうよ。僕お勧めスポットたくさん知ってるよ」


「だめに決まってるだろう」

「そうよ何言ってるのライフ」


エンリーとテマソンがほぼ同時にライフに顔を向けて睨んだ。


「なんだよ、いいじゃないか別に、ねえ優ちゃん」


優が返答に困っていると碧華が言った。


「そうねえ。ライフはいい子だけど、優と二人にさせるのは私も反対だわ」

「ちょっと碧ちゃんまでそれどういう意味、僕地味にショックなんだけど」


碧華はライフの言葉を完全無視状態でため息をつきながらエンリーにたずねた。


「仕方ないわね。エンリーこの六人でお兄さんのいるフランスに行ってもご迷惑じゃないか聞いてくれる?」


「ちょっと、まだ私も行くとは言ってないわよ」


テマソンが反論すると、すかさず碧華が言った。


「あなたも一緒にいくのよテマソン、私はフランスに行きたいの。あなたが一緒じゃないと私も不安だし、頼りにしているんだから一緒に行って。仕事が溜まっているんだったら、帰ってから徹夜でもなんでも私にできることだったら手伝うから」


テマソンは碧華のこのお願いには抵抗できないことを自覚していた。やれやれと言った様子でテマソンも行くことを同意した。


「ただし、交通費はこちら側でだすからと伝えて頂戴ね」

「わかりました」


エンリーはそういうと、兄に早速電話でそのことを伝えた。すると、兄フレッドは車椅子でも大丈夫な観光スポットと会食場所はすでにリサーチ済みだから安心してきてくださいと伝えてくれと言ってきた。

車も車いすが運べる専用のタクシーを用意してあると言ってきた。


「さすがレシャント社の次期社長ね」


テマソンはエンリーからの言伝を感心した様子で言った。



その夜は全員十二時にはそれぞれの自室に入り眠りについた。そして早朝六時にはすでに空港に行き、そして十時にはフランスで碧華たちを待っていたフレッドと合流していた。

だが碧華はフランス行きの交通費の値段を聞いて気が遠くなるぐらい驚いた。往復で言ったいくらかかるんだろうと、不安になりながらテマソンにアルバイト料だけで足りる?と仕切りにテマソンに聞いていた。碧華は自分たちの分は自分で後で支払うつもりらしかった。テマソンも、軽くあしらいながらしっかり働いてよねというだけで、あえてもちろん自分が出してあげるつもりでいることは言わなかった。

そうすることで、碧華も真剣に仕事をしてくれるはずだと確信していたからだ。というより、一緒にいられる限られた時間を無駄にしたくないのが本音だった。



「テマソンさん、少しお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


一番最初の観光地はフランスにある有名な宮殿の一つだった。さすがに観光客がたくさん押し寄せていたが、なぜか待たずにすんなりと観光できた。碧華はあえてそれにはふれないで純粋に楽しんだ。豪華絢爛の宮殿内から広大な庭園をしばらく散歩することにした。碧華たちはゆったりときれいに整備されている庭園を散策していたが、フレッドが宮殿を出た所でテマソンに話しかけてきた。


「ええ、かまわないですよ」


テマソンは碧華たちが見える場所から離れないようにだけ碧華にいい、碧華たちとは少し離れた場所でフレッドと話をすることにした。テマソン自体も彼の真意を聞きたいと思っていたのだ。


「今日はフランスにご招待いただいてありがとうございます。あの子たちがあんなに嬉しそうにするなんて、来たかいがありましたわ。お礼が遅くなってごめんなさいね。お忙しいんでしょうに、貴重な一日を割いていただいて申し訳ないわね。ご無理なさっているんじゃないの?」


「いえいえ、僕も弟を変えてくださった桜木家の方々にお会いするのを楽しみにしていたんですよ。なかなか、会える方々ではありませんからね。時間ならいくらでも都合がつきますから。それに最近母も何だか変わりましてね。昨日久しぶりに母が突然僕の所にたずねてきましてね、何を言うのかと思ったら、エンリーに連絡してどうにかして碧華さんをフランスに呼んでほしいっていうんですよ」


「あら?招待してくださったのはシャリーさんでしたの?」


「申し訳ありません。実は母は一日にエンリーに栞さんと優さんを招待すれば、碧華さんも当然くると思い込んでいたようなんです。ですが碧華さんが来られなかったのでショックを受けたようで、僕に泣きついてきたんですよ。碧華さんがアトラスにいる間にどうしてももう一度お会いしたいともうしましてね。それでこんな方法をとってしまったわけです。ですが、僕自身も本音は碧華さんにお会いしたかったのは事実ですけれどね。そしてテマソンさんあなたとも一度ゆっくりお話しをしたかったんですよ。実は、僕もあなたと同じ大学出身でしてね。あなたのことはよく知っていますよ。学校始まって以来の秀才ともてはやされたあなたの存在は僕の大学時代から教授たちに聞いて有名でしたから。ですから六年前、突然ディオレス・ルイを創設した時は驚きました」


「あらあなたもそうだったの?やはりエンリーのお兄様ね。兄弟そろって秀才ですのね」

「あなたには及びませんよ」


「そんなことはないわよ。その若さで今やレシャント社のナンバーツーでしょ。たいしたものよ。親のコネだけで、その地位にのぼりつめることができるほどあの業界は甘くないわ」

「あなたにそういっていただけると少し自信がつきます」

「あら、またあの子たちあんなところまでいってるわ」


テマソンはそういうなり、視界から遠ざかろうとしている碧華に携帯で戻るように指示した。それをみたフレッドが突然笑い出した。


「これは失礼。僕はあなたには弱点がないと思っていましたが、どうやら、一つできたようですね」

「あら私は人間よ。欠点なら山ほどあるわよ」


「いえ、あなたは僕と同類だと思っていました。自分が願えばなんで手に入ってしまう。だから人には興味がわかない。この世の中強いものにこびをうる人間ばかりだ、利用してうまく動かすほうが楽ですからね。あなたのその口調も頭の悪い馬鹿な女性たちに煩わされないためなのでしょう」


テマソンは小さく笑いそして一言いった。


「あなたがそんなことを思っているなんて知ったら、世間の女性陣は悲鳴をあげるでしょうね。あなたが望めばほとんどの女性が振り向くでしょう」


「それはあなたも同じではありませんか?あなたはなぜ、そうしないのですか?一度お聞きしてみたかったんですよ」


「そうね、以前の私は興味がなかったからかしら、すべての人間に、でも最近気づいたのよ、世の中には思い通りにならないこともある。手にはいらないものもあるものだってね。でも、だから楽しいのよ、人生は」


「手にはいらないものとは彼女ですか?」


テマソンはその問には答えなかった。その代わりに逆に聞き返した。


「フレッドさん、あなたは疲れない?敵だらけの中、愛想笑いを続けていて、どこかで折り合いをつけないとそのうち全てが嫌になるわよ。よくいうでしょ。天才と馬鹿は紙一重だって、犯罪者のような馬鹿者にならないようにあなたもみつけなさいな。本当の自分をさらけ出せる相棒をね」


「そうですね。僕はずっと僕の方が正常で僕のように生きればすべて大丈夫だと思っていたんですが反対だったようですね。僕はずっと、エンリーが気がかりでならなかった。僕以上に天性の才能があるというのに、出来損ないを演じ続けている彼の行動が理解できなかった。挙句のはてに、日本の大学に行くといいだす始末だ。あいつが望めばどの大学でも余裕で合格できるはずなのにあいつはそうしないと言い切った。去年の誘拐さわぎの時は驚きましたよ。あいつに厳しく諭してやろうと思ったんですけどね。逆に思いしらされました。僕が持っていないものをあいつはもう手に入れているのだと」


「あら何かしら?」


「真実の愛という奴ですよ。僕には恐らく手に入れることができないしろものですからね。あれは厄介ですよ。あんなものにはまってしまうと僕の未来設計が崩壊してしまう。あなたはそういう意味で同類だと思ったのですが、僕の思い違いだったようですね」


「愛・・そうね、私も二年前までは本気で思っていたわ。誰も信用しない。信用できるのは自分だけ、それでよかった。自分が不幸なんて疑いもしなかったわ。だけどね、あの子たちにあって考えが変わったのよ。守りたいものがあるってすごい幸せなんだってね。エンリーはそれを見つけたのよ。人間の価値は世界一の大学に入ることや一流の会社のCEOになるだけが全てじゃないわ。人生を終える時に、どれだけ自分が幸せを感じられたかじゃないかって最近思えるようになったのよ。あなたはまだ若いんだから、あなたも恋をしなさい。人生が変わるわよ。ただし、変な女にはつかまらない事ね。エンリーは見る目があったわね。栞ちゃんは本当にいい子よ。今時のアトラスのギャルにはまずいないタイプね」


「そのようですね。僕も降参ですよ。あの父までも変えてしまう桜木家、どんなものなのかと思ってましたが、あの笑顔は確かに癒されますね」


「そうね。あの子たちは純粋なのよね。人を疑うことをしらない。守ってあげたくなるのよね。あの子たちといると、自分の醜さが浄化される気がするのよ。あの子たちには人の裏側は見せたくないわ。そのためなら私は悪魔にもなるわよ」


「あなたが敵になったらさすがに手ごわそうですね」


「以前にもリリーが申し上げたかと思うけれど、桜木家に何かしようとお考えでしたら、考えなおされることをお勧めしますわ。あなたは敵にしたくないんですもの」


「ふっ!あなただけではないかも知れませんね。あの方がたを泣かすようなことをしてしまったら、僕は弟からも生涯恨まれそうですね。あいつが本気になったらおそらく僕の地位などすぐに奪われるでしょうからね。そうですね。僕もファミリーに入れて頂こうかな。お仲間に入るほうが賢明のようだ」


「あら、その方が楽しいわよ。碧華はファミリーが増えるのは大歓迎みたいだから」


テマソンはそういうと、こっちに向かってくる碧華に向かって手を振った。それをみていたフレッドは心の中で思った。 


『もし、僕が本気で彼女達をアトラスで存在を亡き者にしてしまったとしたら、恐らく僕も生きてはいけないでしょうね。この社会からもこの世の中からも。しかし本当にいたとは、魔界の悪魔を大人しく従えてしまう。女神マティリア様のような人間が』


フレッドは楽しそうに恋人と話している弟がまぶしく感じるのだった。それと共に安堵するのだった。


『あいつはもう大丈夫だな。自分の生き場所を見つけたようだ。あの人達なら安心だ。さて、僕も見つけないといけないようだな。テマソンさんのようにお姉口調はできそうにないし、なんとかしないとな・・・しかし、よくくるくる笑う人だ。テマソンさん、あなたがうらやましい。あの人に相棒と認められているなんて、僕にもあなたの相棒のような人がいれば、変われるのだろうか・・・』 


フレッドは自分でも気づかないうちに、彼もまた桜木ファミリーに入ったのだった。彼が碧華と出逢ったことで、彼の運命もまた変わろうとしていた。



「ねえフレッド、どういえばいいかしら?」


シャリーは車移動の際に車の中で息子のフレッドに仕切りに言ってくるのだった。


「母さん、まだ話していないのですか?宮殿見学の後、庭園で話す機会があったでしょう。そのためにテマソンさんと碧華さんを引き離してあげたっていうのに」

「だって、ずっと見られていたんですもの。あんなにみられていたら離れていても、どこかに盗聴器でもあるんじゃないかしらって思ってしまうわ。それにテマソンさんは話し方は柔らかいけれど、あなたやジャンニと同じタイプよ。怒こらせてしまったらわたくしなどひとたまりもないわきっと」


「そうでしょうね。僕もさっき話していて勝てる気がしませんでした」


シャリーは残念そうにじっと自分のカバンの中身を見つめるのだった。そんな母をみてフレッドはため息をついてスマホを取り出した。


「では、栞さんと優さんに本当のことを打ち明けて味方になってもらってはどうですか?今ちょうど、タクシーは栞さんと優さんとエンリーの三人が同じタクシーに乗りあわせているはずでしたから」


「そうねえ、でも私日本語まだそんなにしゃべれないし」


「そのために息子がいるんでしょ母さん」


フレッドはそういうとスマホを取り出し、後ろを走っているタクシーの助手席に座っているエンリーに電話をかけた。


「エンリー、母さんがお前と栞さんと優さんに協力してほしいことがあるみたいだよ」


そういうなりフレッドは隣にいたシャリーにスマホを手わたした。


「えっ私がいうの?」


「当たり前じゃないですか、僕がいってどうするんですか?そのためにフランスまできたんでしょ」

「そっそうなんだけど・でも・・・」

「ほら、早くしないとお店についてしまいますよ」

「わっわかったわ。あっあのねエンリー、実は・・・」


シャリーはエンリーに今回フランスに碧華を招待した本当の理由を説明し、助けを求めた。

シャリーの話を聞いたエンリーは栞と優にも事情を説明し、任せてと協力することを約束した。

そして昼食を食べる店に着くまでの三十分の間にさらに後ろに乗っているライフにもメールでやり取りをし、作戦会議を始めた。





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