第一回ディオレス・ルイオークション⑥
その後もオークションは順調に進んで行ったが、緊張がとけた碧華は舞台の横に戻ってすぐに意識が遠のいて気絶してしまった。
碧華が再び意識を取り戻して目を開けると、そこにはテマソンが座っていた。
「テマソン?えっ?私、気を失ってたの?えっ、今何時?オークションは?」
碧華はボーッとした意識が次第に鮮明になると、急に飛び起きた。
「大丈夫よ、無事終わったわ。今スタッフが回収作業をしている最中よ」
「えっ?どうして起こしてくれなかったの?私もプレゼント企画やりたかったのに!」
碧華の言葉にテマソンは苦笑いを浮かべて静かに言った。
「私が止めたのよ。アドルフに全部聞いたわ。無理させちゃったわね。まさかあんなことになるなんて思っていなかったものだから」
「無理じゃなかったわよ。すごく緊張したけど、楽しかったし。でも・・・やりたかったなあ・・・」
碧華はまだ残念そうにブツブツ言っていたがテマソンが碧華をそっと自分の方に抱き寄せて言った。
「本当にもう・・・あなた私の心臓に何回針を突き刺したら気がすむの?あなたが気絶したって聞いた時は本当に意識がとびそうになったわよ。事情を聴いてさらに怒りで意識がとびそうになったわよ。こんな無理してって私言った覚えないわよ!」
「だって・・・ああでもしないと、あの場はおさまらないと思ったんだもの・・・でもうまくいったでしょ。私、失敗しちゃった?お客様後で怒ってたの?」
碧華は突然心配になってきた。テマソンは大きなため息をつくと碧華から離れて、机の上に積み上げられていたオークション終了後に回収したアンケートの束を碧華に見せた。
「大変だったのよ。プレゼント企画にこの私が姿を表したのに、会場中から碧華は出ないのかってブーイングの嵐で、碧華は今病室で休んでいるっていったらさらに心配の声がしばらくやまなくて、大丈夫だって説明するの大変だったのよ」
「私がでるって約束したのに、約束やぶっちゃったわ」
「安心しなさい。起こしてきましょうかって私が切れ気味でいうと。そのままにしていてあげてって声が多くてね、あなたを起こさなかったのよ。このアンケートでも、あなたのことを心配する文章ばかりよ。あなたとの勝負すごく楽しかったって」
「よかった。あっそういえば栞たちは?」
「オークションが終わってすぐここにきたんだけど、あなたまだ眠っていたから、先に私の家にタクシーで帰したわ」
「そう、それなら安心ね」
碧華は安心したようにその英語で書かれたアンケート用紙をパラパラとめくりながら、心底安心したかのように胸を撫でおろしていた。けれど碧華は一つ残念に思っていることがあった。
「あああっでもあの舞台の上で最後にみんなで写真とりたかったなあ。素敵なメイクとヘアースタイルのスタッフや裏方のみんなとも・・・記念にとりたかったなあ・・・はあ・・・なんで私って最後の詰めが甘いんだろ・・・いやになっちゃうなあ・・・あああ」
そんな碧華の姿をみてテマソンは立ち上がり、扉に向かうと大きくその扉を開いた。すると、そこには大勢のスタッフが心配そうに扉の前に立っていた。
「みんなもあなたと一緒に写真をとりたいんですって、もう用が終わった人から帰りなさいっていってるのに、あなたの意識が戻るまで、全て片付けが終わるギリギリまで待つって言ってみんな帰ろとしないのよ」
テマソンがそう日本語で説明すると、スタッフたちは一斉に頭を下げた。そして覚えたての日本語で一斉に言った。
「碧華さん、無理をさせてすみませんでした。ありがとうございました」
「みんな・・・私の方こそ、最後までできなくてごめんなさい」
碧華はペコリと頭を下げて言った。
「じゃあ片づけ班が全部片づけが終わったら、ロビーで写真を撮りましょう。許可はとってあるわ」
テマソンは英語の後に日本語で同じ言葉を告げると、碧華もスタッフもテマソンのその言葉で一気に笑顔が戻った。
そして一時間後、ロビーで碧華はスタッフたちと写真に納まった。みんなまだ、舞台衣装のままで、最高の笑顔で写真におさまった。時間はすでに夕方六時を過ぎていてもう夕日が沈もうとしていた。
碧華はテマソンの車で地下駐車場で車に乗り込んだ。
そして最後に会場をもう一度見たくなった碧華は、テマソンに行って会場の正面広場の近くに車を一時停止できる場所に止めてもらい、テマソンにお姫様だっこをしてもらいながら会場に向かって少し歩いてもらった。辺りはもう夕暮れが迫っていたにも関わらず、そこには、まだ多くのお客様が残っていた。碧華の姿を見つけると、みな一斉に何かを言いながら近づいてきた。
テマソンにたずねると、テマソンは簡単にこう言った。
「みんな碧華のことを心配して大丈夫?って聞いてきてるのよ」
「皆さま、お約束を守れずにすみませんでした。今日はありがとうございました」
碧華がそういうと、テマソンが通訳し共に頭を下げた。その瞬間拍手が起こった。碧華は感激で涙が止まらなかった。テマソンはもう一度お客に一礼すると、碧華を車に運び自分も車に乗り込み車をだした。その場に残っていた客たちも次第にその場からそれぞれの家へと帰って行った。
テマソンの車に乗り込んだ碧華は疲れていたにもかかわらず、その後スーパーによって食材を買い、肉じゃがを作った。テマソンはもう作らなくていいと言い張ったのだが、碧華が聞き入れなかった。碧華自身は車いすの為、野菜や肉を切るのは娘達で、最後の味付けの確認を碧華がした。そのため夕食がかなり遅くなってしまった。テマソン達は遅い夕食を食べながら、今日のオークションを録画したビデオを見る事にした。
早送りしながらだったが、碧華は改めて、自分が舞台に立っている姿をみて照れまくっていたが、さすがにテマソンのプレゼント企画はまた碧華と違った盛りあがりを見せていて、これはこれで結果としてよかったと思う碧華だった。
最後のオークション商品の制作にたずさわったスタッフによる舞台全員の挨拶も大いに盛り上がり、大成功のうちに幕がおりていた。オークションの結果、栞も優も一つも商品をゲットできなかったようだったが、楽しかったと言っていた。碧華自身も同感だった。
日本にいては絶対経験できない貴重な経験ができたことを神に感謝せずにはいられなかった。




