表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/171

第一回ディオレス・ルオークションイ⑤

ざわついている会場に休憩時間が終了のアナウンスが流れ、人びとが席に着き始めた。

そして全ての人が席についたのを見計らい、会場の舞台の中央にスポットライトが照らされた。ざわつく人々の声の中、舞台の右側から現れたのは車いすにのった日本人だった。


車いすを押しているのはアドルフで車いすの横を頭にヘッドマイクをつけて歩いているのはファミリアだった。人々はより一層ざわめきたった。碧華は舞台中央に車いすで行くと、お客様たちに向かい合い、深々と一礼した。


「は~い皆さま、ご機嫌いかがでしょうか?誰だこのおばさんは?なんて思っていらっしゃる方も多いことと存じますので自己紹介をさせていただきます」


碧華が日本語で言うと、すぐ横のファミリアが英語で会場中に聞こえるようにマイクで英語で訳し始めた。


「わたくしは、ディオレス・ルイで、配色デザインを担当させて頂いております。碧華桜木と申します。こちらの二名の通訳を通して皆様と少しの間お話しをさせていただきたいと思います」


「さて、わたくしのようなものがなぜ突然この舞台に上がったかと申しますと、こちらの商品があまりにも人気が集まりすぎてしまって、上限を遥かに超えても決着がつかない恐れがあり、くじ引きも反対されているとスタッフが困惑して私に訴えてきたからなのです」


そう言って舞台中央のテーブルの上のテマソンが作ったトートバッグに視線を向けながら言った。


「それで、この通り足を捻挫しておりまして、何の役にも立たないわたくしがこうして皆さまにある提案をさせて頂きたくまいりました」


碧華の説明で会場中がざわつきはじめた。碧華は幸い、英語が理解できないので、英語のヤジは気にならなかった。何を言ってるのか理解できないのは、時にはいいものだと小さく微笑みながら話続けた。


「実はこの商品、わたくしも狙っていた商品なんですの」


「わたくしは、こんな高価な服を着て上流階級者の振りしておりますが、日本ではただの普通の主婦ですの、そんな主婦の私は、皆さまのように自由になる大金は普段から持ち合わせおりませんが、千マルドルならなんとかだせます」


 碧華はそこまで話すと一呼吸おいてからまた話し出した。


「これを作ったデザイナーもあえて、上限千マルドルの分類に出品したということは、大金でこの商品をゲットしていただきたいと望んではいないと思います。欲しいと思ってくださる全ての人に平等に手に入れられるチャンスをあげたいと思ってのことだと思います」


「けれど皆さまは司会者が一名を引き当てる抽選ではご不満のようですので、そこで私から皆さまに提案がございます」


「長い人生の中には時にはお金ではなく、運も必要になる時がございます。そこでやはりこの商品もご自身の運だけで、商品をゲットしていただきたいと思います」


「方法は今回は、ここにいる私を含めてのディオレス・ルイのスタッフ三人と、すでにこの床一面に置いてあります〇×のマークが書かれたボードで勝負いたしましょう。最後まで勝ち進んだ一名にこの商品を千マルドルで販売いたします。いかがでしょうか?ご賛同いただけますでしょうか?」


「反対のご意見、または別のいい提案がございますお客様がいらっしゃいますようでしたら、挙手願います」


碧華がそういうとしばらくざわついた後一人の女性が手をあげた。


「はい、そこのレッドの服を着られた方」


碧華が指を指していうと、スタッフの一人がマイクを持ってその女性の所にかけつけマイクを渡した。その女性はマイクを持つと、英語で話し始めた。


「なぜ、あなたなのですか?この場合、今回はシークレットオークションなのは存じておりますが、ここにいるほとんどの皆さまはその商品がテマソン様が今回のオークションのためだけに自ら作られた一点ものだということは気付いております。ならば、その舞台に出られて私たちと勝負してくださるのはテマソン様であるべきではないかと思うのですが」


その女性の言葉に会場中から拍手が沸いた。その言葉を聞いたアナウンス部屋にいるスタッフも舞台横にいるスタッフも動揺が走った。


碧華も日本語に訳してもらうと一瞬動揺したが、左手につけていたブレスレットに右手を添えると、目をつむり十数えると、思わぬ行動にでた。


「はあ!な~んだ。皆さまにはすでにバレちゃっていたのですね。鋭い!」


碧華は突然、マイクを手に持つと、日本語でしゃべった。


「ちょっと碧華さん、なっ何を言うんですか?そんなことをしたら」


「いいのよ、テマソンには私から後で土下座でもなんでもするわ。ここは私に任せて、今言ったことをみんなに英語で話して」


隣にいたアドルフが日本語で止めに入ったが、ファミリアは碧華の言った日本語を英語で口調そのままに訳した。

すると、どっと笑いがおきた。碧華はファミリアが碧華の口調通りに通訳してくれているのがなんとなくわかり思わず笑顔になるのだった。

碧華は笑顔で会場を見渡しまた話始めた。


「じゃあ皆さま、わたくしが今しゃべることはテマソン社長には内緒にしてくださいませね。実はわたくし、彼には内緒でここに立っていますの。後で雷が落ちるかもしれませんが、わたくしは彼が今格闘していることを中断してほしくないんですの」


碧華はあえて間をおいてからもう一度目を閉じ、そして再び話始めた。


「うちの社長は今、控室で最後に舞台に上がる予定になっている。女性デザイナーや縫製の製作者の女性たちのヘアセットとメイクをしておりますの。我が社では優秀な女性スタッフがたくさん働いており、今回のオークションの作品も多くの女性たちの手で生み出されております。実は、今日来て下さる予定でしたヘアーメイクアップアーティストの方が車トラブルで来られないと急に連絡がきたんですの」


「女性の方ならご理解いただけるかと思いますが、一般人がこんな舞台に上がるということは一生のうちにそうあるものではありませんわ。どうせならきちんとメイクアップとヘアセットをして出たいと思うのが女ごころです」


「ですが、皆さまの方がご存じかと思いますが、この近くにはそういったことをしてくださるお店がございません。そこで、何でも器用にできる社長にお願いしたんですの。この私のメイクとヘアースタイルも社長が仕上げてくださったものなんですのよ。わたくしのようなおばさんもまあまあ素敵にみえますでしょ」


碧華はそういうと、車いすをくるりと回し後ろを向いた。髪を器用に結い上げてスーツにあったホワイトブルーのリボンが飾られている後ろ髪を見せた。その瞬間「Oh!butifurue!」という声が会場中から聞こえてきた。碧華はそして前を向き問いかけるように話続けた。


「皆さま、見たいと思いませんか?」


碧華はファミリアが訳し終えるタイミングを見計らって、言葉を区切りながら話を続けた。


「バックデザイナーであるテマソン・レヴァントの手掛けたメイクとヘアースタイル。わたくしは見たいですわ」


「もし皆さまがみたくない、テマソンをはやく舞台にだせとおっしゃるのでしたら、呼んでまいります」


「ですが今テマソンを呼んで彼の作業を中断してしまいますと、会場の時間の都合上彼が手掛けた傑作をみることができなくなります」


「それに皆さまとの交流を楽しみにしております。このオークションのラストの今日のシークレットプレゼント企画も行えなくなるかもしれません。皆さまはその商品が誰の作品かご存じですか?」


「もう当然お分かりですわよね。この際ネタバレしちゃいますね。彼がデザインしたイラストの切り抜きに私が式色デザイン布で縫い合わせて作った合作のプレミアムキーホルダーですわ」


「もし、この場に彼を呼ばなければ、その舞台には私と同様に彼も登場できると思います。それまで間に合わせるために、今はわたくしと勝負していただけませんか?」


碧華の言葉に会場中から拍手喝采が巻き起こった。


「どうでしょうか?わたくしの提案に異議のあるかたがいらっしゃいましたら、挙手願います」

碧華が言って会場中見渡したが、もう意義を唱えるものは一人もいなかった。その代わりに、Gameの英語が合唱となり会場中にどよめいた。


「それでは皆さま、お心のご準備はよろしいでしょうか?ズルはいけませんわよ。それから、あとでゲットされましたお客様を脅して取り上げるのも禁止、お金で交換も禁止、ましてネットで高く売ろうなんて考えていらっしゃる罰当たりなお客様はいらっしゃらないと思いますが、念のため申し上げておきます。もし、そんなことが社長の耳に入ったりしましたら、どうなるか、考えただけでも震えがでてきますわ」


「よろしいですね。あっ、でも、この商品を愛する人にプレゼントするためにゲットしたいという方がいらっしゃいましたらその方は別ですわよ。じゃあ、この商品を欲しいとお思いのお客様はご起立願います。わたくしのようにお立ちになれないお客様は側に立っておりますスタッフに申し付けてくださいませ、代わりを務めさせたいただきます」


碧華はそういうと、しばらく時間をおいて、全ての参加者が立ち上がるのを確認してからルールを説明した。


「ルールは簡単ですわ。お客様に先ほど配らせていただきました。〇と×が描かれたカードをお持ちください。わたくしが今から〇と×のボードを一枚選びます。選んだ後に、お客様自身も〇か×のどちらかを選んでこちらに見えるように胸の前にかざしてくださいませ。そしたら、わたくしが選んだボードをお見せします。わたくしと違うカードの方はお座りください」


碧華が最初にボードをめくり、順番にラドルフ、そしてファミリアの順にボードをめくり、何度か繰り返すうちに購入希望者の大半が席を座り、そのたびに落胆の声を上げるご婦人の声が会場中に響いていたが、誰も怒りだす者はいなかった。

むしろこの勝負を制する強運の持ち主が誰なのか、次第にそちらの興味の方がまさっていき、会場中が異様な興奮状態になっていた。


「さあ、いよいよ人数もかなり減ってきたようですね。さあ皆さま、この辺で、また私から提案がございます。ここからは、今残っておられますお客様ご自身の運で勝負と行きましょう。皆さまもどの方がゲットされるのかその瞬間をご覧になりたいですわよね」


「さあ、今立たれております十三人の人、今お近くにスタッフが参りますので、貴重品をお持ちになって、舞台までおこしください」


碧華がそう声をかけると、会場中から拍手喝采が起きた。そして残った十三人は舞台の上に上がってきた。


「ここにおられる皆さまはすでにすごい強運をお持ちです。ですが勝者はお一人でございます。ここで負けた皆さまも、どうかがっかりなさらず、次のチャンスにチャレンジしくださいね。ではここからは皆様の前で正々堂々とじゃんけんで勝負と行きましょう」


舞台の上にはボードはすでに片づけられていて、かわりに十三脚の椅子が舞台の中央の真ん中に横一列にセットされていた。


「ここにこられました十三人の方はかなり長い間立たれていてお疲れでしょうから、まずはお好きな場所にお座りください。皆さまが承認です。十三人の方は皆様に見えるように腕を前にだして号令と同時にじゃんけんをしていただきます。勝者が一名決まりますまでエンドレスでじゃんけんしていただきますのでお疲れになられましたら、遠慮なくおっしゃってください。では開始しまーす」


碧華の号令で、会場のアナウンスから英語によるじゃんけんの合図がかけられ。勝者一名が決まるまで、五分間続いた。そしてその瞬間がやってきた


「スト―プ!そのままにしていてください」


碧華の言葉で十三人の動きが止まった。そして、アドルフがその勝者のそばに行きマイクをさしだして言った。


「おめでとうございます。あなたが勝者です。皆さま、拍手で彼の強運を称えましょう」


アドルフがそういうと会場中から拍手が巻き起こった。


「あの、一言ご感想お願いいたします」

「あの・・・うっうれしいです。ティアやったぞ!誕生日おめでとう。僕からのプレゼントだ。受け取ってくれるかい?」


その男性は会場にいた彼女に向かってこぶしを上げながら叫んだ。会場中が一斉に男性がさっきまで座っていた所の隣で感激して大きく頷いて泣いている彼女に視線を向けた。


「おめでとうございます。お誕生日はいつなんですか?」


アドルフがたずねるとその男性は興奮した様子で答えた。


「今日なんです。来月結婚するんですが、僕は何も彼女にプレゼントしてあげられていなくて、昨日、ネットでこのオークションを知ったんです。ディオレス・ルイの商品なんて僕の給料ではとても買ってあげられないですけど千マルドルなら僕でも買ってあげられると思ってだめもとできたんです。まさか本当にゲットできるなんて。今でも信じられません」


「愛の勝利ですね。おめでとうございます。では碧華さん、最後にお言葉お願いします」


碧華は勝った彼の言葉をファミリアに通訳してもらった後、ファミリアに何かを囁くと、ファミリアは碧華の元を少しの間離れた。そして戻ってくると車いすを彼に近づけた。舞台横からガードマンが今までのオークションで支払われた現金がつまった透明なケースがのったカートを押して碧華の元に近づいてきた。碧華はそれを手に持ち、彼の前にさし出した。すると彼はポケットから千マルドル紙幣を取り出すと、その中に確かに入れた。碧華はそれを隣にきていたガードマンに手渡すと、ファミリアが中央後ろに置かれていたテマソン作のトートバッグをきれいに包装すると、碧華に手渡した。碧華はそれを彼に差し出した。


「Congratulations.」


碧華はぎこちない英語で言いながら手渡した。彼がそれを受け取ると碧華がマイクで言った。


「ここで皆さまにお願いがあります。今日お誕生日を迎えたティアさんのためにお誕生日の歌を歌っていただけませんか?お二人の今後の幸せと、ティアさんのお誕生日を祝って」


碧華が日本語で言うと、ファミリアが音声マイクから英訳した。すると拍手が起こった。その時、会場アナウンス室からハッピーバースデイのメロデイが流れてきた。


すると、会場中の人々が自然とその歌を歌い始めた。その大合唱は会場中に素敵なハーモニーを奏でた。彼女は感激のあまり涙がとめどなく流れていた。そして歌い終わると、大拍手が起こった。誰も彼の勝利を妬む人などいなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ