第一回ディオレス・ルイオークション②
「ねえ、このオークションってどんなものがあるのかって、お客様は知ることができるの?」
「いいえ」
碧華の質問をテマソンが通訳すると社員の一人が首を横に振った。それを聞いた碧華が言った。
「お客様は集まらないのはそれじゃない。だって、テマソンの作品ばかりだっていうなら、知る必要もないけど、社員の作品だけならやめておこうってなるじゃない。最終告知ってことでネットに告知し直したらどう?集まった作品を写した写真を載せたらどうかしら?」
「そうですね、早速やってみます」
「じゃあ、私のもってくるわ」
「ちょっと碧華、あれ上でしょ。あなたその足で大変じゃない。私がとってくるわ」
「大丈夫よ、社長をあごでこき使うなんてできないわよ」
「何を今更、私もとってきたいものがあるからついでに持ってきてあげるわ。栞ちゃんたちいるんでしょ」
「うん、栞に電話しとく。ありがとうテマソン」
碧華はそういうなり栞に電話をかけ、キャリーバッグの中にあるキーホルダーをテマソンに渡すように伝えた。碧華が電話を切って肩を回していると、一人のスタッフが近づいてきた。碧華は彼女に気が付いて、スマホのアプリで声をかけた。
「何か私に用かしら?えっとあなたは確か・・・ファミリアさんでしたっけ」
「はい私、日本に留学していたことがありますので日本語は少しなら話せます」
「あらお上手な発音ね。みんなすごいわね。優秀な人が多いのね」
「私は普通です。あっあの・・・個人的に気になってしまって、ぶしつけな質問をしてもいいでしょうか?」
ファミリアの後ろにも数人の女子社員が数人その彼女の様子を見守っている様子だった。碧華は彼女が仕事じゃない個人的な事を聞きたがっているのだろうなとピンときた。
「私で答えられることなら答えるわよ」
「あっあの、やっぱり・・・」
ファミリアはいおうか迷っていると、周りにいた女子社員たちがどうやら、英語で彼女に聞くように小声ではやし立てているようだった。
「ごめんなさい。きつい言葉になっちゃうけど、この歳のおばさんになるとこそこそされるの大っ嫌いなの。言いにくいんだったら最初から聞きにこないで」
碧華はおそらく日本では決して言えないであろうセリフを言っている自分に驚いた。なぜだろうな、アトラスでは心の声がつい言葉にでてしまうのだ。
「すっすみません。気を悪くしないでください。みんなが聞けっていうものですから」
「だから何?テマソンがいると聞きにくいことでしょ?」
「えっ・・・はっはい・・・すみません。あっあの社長とはどういうご関係なんですか?」
「えっ?ああそのことね。そうよね、確かに気になるわよね。今朝も社長の自宅に勝手に上がり込んで、今も私の娘がくつろいでいるんですもんね。そうねえー一言でいえば、姉弟かな。テマソンのお母様がまだ御健在なのは知ってるわよね。私最近お母さまの娘にならないかって言われてるのよ。まだ正式に養子縁組をするかはわからないけどね。私は日本人で日本を離れる予定は今はないから」
碧華の言葉に聞かないふりをしていた女子社員たちが一斉に興味深々で近づいてきた。そして彼女に碧華が言った言葉を英訳してもらい、どよめいた。
「なぜそうなったかを言葉にして説明するのは難しいんだけど、そうねえ・・・やっぱり姉弟っていう感じが一番しっくりくるかな。みんな生まれ代わりって信じる?」
「生まれ変わりですか?」
予想外の碧華の返答に皆驚きを隠せない様子でとうまきに仕事をしながらも耳を傾けていた他の社員達も近づいてきた。
「そうよ、私とテマソンは生まれ変わる前は双子の兄妹だったの、その記憶をお互い偶然なのか運命の導きなのか出会ったことで思い出したの。だからかな、男女の恋愛とかっていう感情よりも絆みたいな感情が強いのかな。ちなみに、テマソンのママンも前世では私の母親だったのよ。まっこんな事をいっても冗談にしか聞こえないでしょうね。ごめんなさいね。期待していた答えじゃなくて」
碧華は笑顔でいうと、ファミリアは急の笑いだした。
「なんだあ。みんなはずれですよ。まさか姉弟って答えを聞くとは思ってませんでした。社長といい関係なのかな?不倫なのかなとか盛り上がっていたんです。でも前世の記憶があるなんて人初めてあいました。やっぱり碧華さんはただ者じゃなかったんですね。じゃあ、旦那様もご存じなんですか?」
「ええ知ってるわよ。私の旦那様は仕事があったから一日に帰ったけど、私は今日も娘達とこの上に泊まること知ってるわよ。昨日まではテマソンのお母様の所に宿泊していたしね。その他質問は?」
「恋愛感情は抱かないんですか?その・・・社長はすごくハンサムですし、そんなに近い関係だったらときめかないのですか?旦那様も疑ったりしないんですか?」
「あら直球な質問ね。栄治さんがどう思っているのかわからないけど、私には実の兄弟が二人いるのね。栄治さんは私が兄弟の所に遊びにいっててもやきもちやいたりしないわよ。それと一緒よ。それにね、この歳になると、失いたくないものが増えすぎちゃって恋愛なんてめんどくさい感情は捨てることにしてるの。お互い夫婦も結婚二十年にもなるとお互い愛は薄れても、情がたくさん増えてきていて、小さいことでいちいちやきもちをやいたりしなくなってるんじゃないかな。私テマソンのこと隠したりしてないしね。まっ、お互い相手を信頼しているっていうのが第一条件なんだけどね。テマソンも家族の一員としては愛してるわよ。だから言いたいことも言うし喧嘩もする。家族ってそんなものでしょ。まあ、だまって眺めている分にはカッコイイとは思うけど。あなたご兄弟は?」
「兄がいます」
「じゃあ、そのお兄さんに欲情したりする?」
「まさか!うちの兄がカッコよかったら、自慢して一緒に出掛けたりするかもしれないですけど、欲情はしませんよ」
「それと同じなのよ私のテマソンに対する感情は」
「言われてみればそんな感じですよね。でも、弟っていうより兄って感じじゃないですか?」
「そうなのよね。生意気よね。実のお姉さんにはあんな態度とらないのに、あれは絶対自分が弟っていうより兄き分のつもりなのよ。生意気なのよね」
「碧~華~!あなた何話してるのかしら?立場的にどう見たって私の方が兄でしょ」
「あら、お帰りテマソン、なあに、女子の会話を盗み聞き?いやらしい~。でもね、この歳で歳のことを持ち出したくないけど、私の方が三歳も年上なのよ。どう考えても私の方が姉でしょ。その辺よく覚えておいてね弟さん」
「あら~私、日本語よくわからないのよね」
二人の会話を聞いていた周りは、その後二人の関係を再び聞く勇者は現れなかった。どういう関係だとしても、年を経て言いたいことをいえる相手を見つけている二人をうらやましく思うのだった。