第一回ディオレス・ルイオークション①
一月三日にもなると、アトラス国ではすでに学校もはじまっており、人びとはいつもの生活がはじまっていた。
碧華は早朝からヴィクトリアとリリーにお礼と別れを告げて城を後にした。リリーも明日には自分の屋敷に戻る予定だと告げていた。
碧華はヴィクトリアと握手を交わし、必ずまた会いにくることを約束した。
「碧華さん、本当に正式に私はあなたものもう一人の母親になっちゃだめかしら?」
「ヴィクトリア様・・・私なんかでいいのですか?」
そういうと、ヴィクトリアは碧華を抱きしめると碧華の耳だけに聞こえる声で言った。
「あなたが私の娘になってくださると、テマソンも世間の人たちに変なこといわれないですむでしょ。私、栄治さんも大好きなんですもの。あなたと別れてほしくないしね。年寄りはわがままなの、許してくださるかしら。もちろん、あなたのことが大好きだからですよ」
「私も大好きですわ。ママン、私前からそう呼んでみたかったんです。これからそう呼ばせてもらってもいいですか?」
「もちろんですよ」
碧華は笑顔で抱きしめ返した。
その後ヴィクトリアは栞と優にもハグをし笑顔で言った。
「あなたたちの新しいおばあちゃんですよ。よろしくね」
その言葉に栞と優は笑顔で言った。
「おばあ様、また来ます」
ヴィクトリアは笑顔で大きくうなずいた。
碧華は娘達ちとハグしている様子をみて自然と微笑んでいる自分に気が付いた。また一つ故郷が増えたのだから。私の大切な母が一人増えた喜びを感じずには入られなかった。
エンリーとライフはすでに昨日の夜のうちに寄宿舎に戻っていた。そのために三人でキャリーバッグをお城の車に積み込んでテマソンの会社まで送ってもらった。
「碧華様、本当にお部屋までお送りしなくて大丈夫ですか?」
運転手は心配そうに碧華をテマソンの自宅に直通の裏の玄関のエレベーターの前まで車いすを運び入れると碧華をそこにのせ言った。
「娘達もいるし大丈夫です。ありがとう」
そういうと、碧華は娘達と共に、テマソンの部屋にいく為にエレベーターに乗り込んだ。碧華は上につくと、新しくテマソンから碧華専用にともらったばかりの鍵を使って中に入っていった。
「さすがに最新の家は段差がないし、広いから車いすでも余裕ね。あっここでいいわ。中はテマソンはいつもルームシューズに履き替えてるでしょ。車椅子のままだと汚いから、ママはここでいいわ。あなたたちは部屋の中でゆっくりしてなさい。和室でもリビングでもテマソンの寝室以外は好きに使っていいって了解もらってるから。飲み物は冷蔵庫に入ってると思うわ。テマソンはいつも常備してるはずだから。お菓子はさっき買ったから大丈夫ね。あなたたち、休み明けにテストあるのに対策まったくしてないでしょ。この際だから今日はみっちりやりなさいよ」
「ええ~ママ酷い!そのために私たちをここに連れてきたの?もう一日お城にいてもよかったのに」
「当たり前でしょ。さあ勉強しなさいよ!何か聞きたいことがあったら携帯に電話して、私がでなかったらテマソンの方でもいいから」
碧華はそういうとブツブツ言っている娘達を家の中に追い立て、自分はリュックだけをひざにのせ、ぎこちなく車いすを操作し、バックで玄関からでると、エレベータ―の下行きのボタンを押した。
「碧華は下の階行きのボタンを押し、降りて行った。三階の扉が開くと、企画室の扉の前で碧華はリュックの中からテマソンにもらっていた社員証を取り出すと、扉のセンサーにかざした。すると鍵が解除され、扉が簡単にひらいた。
中に入ると、電気はついているのだが人の気配がまったくしなかった。碧華は直接自分がいつも使っている机に向かった。碧華は一人でそこまで行くと、ゆっくり机に手をのせ立ち上がると、椅子を引いてなんとか座ることができた。そして碧華はもくもくと机に置かれた種類の山に目を通し始めた。全て日本語で翻訳済みのもので、いつもは、これは日本に送信してくれるものだった。どれだけ過ぎただろう。ふいにスタッフの1人が部屋に入ってきて碧華の机の横を通り過ぎようとして碧華が座っていることに気付き大きな声を上げてしまった。
「WOW!aoka?Why aye you here?」
碧華がその英語を理解して答えようとした時、ぞろぞろと人が入ってきて碧華の周りに集まりあっという間に人だかりができていた。
社員たちは口々に英語で碧華に話かけたが、碧華は頭をかきながら苦笑いを浮かべて、リュックからスマホを取り出すと、英語通訳アプリを起動させると、一人ずつ話すように手招きした。そして会話を始めた。
「碧華さん、お体は大丈夫なのですか?お怪我をなさったってお聞きしましたけど」
「ありがとう。右足を捻挫しているだけだから、座って作業する分には全然平気よ。車椅子もほらあるし」
「そうですか。碧華さんがきてくださって正直助かります。オークションの目玉企画商品が未だに決まらなくて煮詰まってしまって困っていたんです。お願いします力を貸してださい」
「あら大変ね。もう明日なのに、私でお役に立てることがあればいいのだけれど、アッ目玉企画になるかどうかわからないけど、私とテマソンとで共同で作ったキーホルダーの事はテマソンから聞いてくれているかしら?まだ上に置いてるんだけど、オークションに出品するにはどこにもっていけばいいの?」
碧華の言葉を聞いたディナーは思わず持っていた書類を下に落としてしまった。
「あっすみません」
ディナーは慌ててその書類を拾いながら、碧華のスマホの前で碧華に逆に聞き返した。
「あっあの、はっ初耳なんですが、社長との合作ということでしょうか?」
「そうよ、えっテマソン全く話してないの?」
碧華の質問にディナーは後から入ってきたサービにも同じ質問を聞き返したが首を横にふり、彼もまた、逆にどんなものなのか興味深々で近づいてきた。気が付くと、碧華の周りには人だかりができていた。
「現物を見せた方がはやいわよね、今持っていたかな・・・」
碧華はリュックの中を探していると、企画室の扉が勢いよく開いたかと思うと大きな荷物を両手いっぱいに抱えたテマソンが入ってきた。
「あなた達、何さぼっているの?自分の仕事を早くしなさいよ。間に合わなくなるわよ」
テマソンはそういうと、奥の社長室の扉を開けると大きな机の上にその商品を乗せ碧華の所にきた。
「碧華、あなたにはやってもらいたいことがたくさんあるのよ」
「でも、みんなのお手伝いもできるならしたいし・・・」
「この子たちを甘やかさないの。この子たちのオークションなんだから。さあ、あなたはあっちで仕事よ」
テマソンはそういうと椅子に座ったままの碧華を椅子ごと動かし社長室へと碧華を移動させた。その後を社員達はぞろぞろついてきて社長室は一杯になってしまった。テマソンは社員たちに囲まれて何か話しているようだった。
「社長ずるいですよ。僕らにも碧華さん貸してください」
社員たちのブーイングはしばらく続いた。それを見ていた碧華が横にいた社員に翻訳機を使いながら訪ねた。
「ねえ、テマソンは今回のオークションに参加していないの?」
「はい、会場の手配や細かな打ち合わせは聞いてもらっていますが、出品する品物に関しては私たち社員に任してくださっているんですが、意見がまとまらなくて」
「私はてっきり新作発表会みたいに全部テマソンが指揮っているのかと思っていたけど違ったのね?どうして?オークションは会社全体の行事でしょ」
「そうなんですけど、今回のオークションは我々社員によるオークションなんです、細かい所まで社長の手をわずらわせるわけには行きませんから、出品する商品の事まではまだ社長には報告してしていないんです」
「ふーん」
碧華はそれだけ聞くと、大きく息を吸い込んで叫んだ。
「テマソン!」
そういって社員ともめていたテマソンに向かって碧華が大きな声で言った。
「ねえ、私が作ったキーホルダーのことどうして話してくれていないのよ。あんなに頑張って作ったのに出させないつもりだったの?」
日本語で言った言葉にその意味を理解したのはテマソンだけだった。周りは何を言ったのか首をかしげている様子だった。
「そんなわけないでしょ。現物を持っているのはあなたなんだから、あなたがきた時でいいと思ったのよ。あなたと私が作ったものってなったら、注目浴びちゃうでしょ。だから当日のシークレットオークションにしたら盛り上がるんじゃないかしらって思って言ってなかっただけよ」
「なあんだ、そうなんだ。シークレットオークションかあ、なんだか楽しそうね。でも、テマソンはどうしてオークションの準備に参加してないの?私ならするなっていわれてもこんな面白そうな行事やりたくて仕方ないけどな。学校の文化祭みたいで面白そうなのに」
「文化際って何よ?」
「学校のお祭りよ、ああもうそんなことどうでもいいのよ、とにかくあなたオークションやりたくないの?楽しそうなのに、社員だけじゃなくて、あなたも出品に参加すればいいのに」
「何言っているのよ。そんなことをしたら、私のだけものすごい金額に跳ね上がっちゃって、他の商品が盛り上がらないじゃない。それに私は社長なのよ、社員のすることに細かくいちいち口だしてたらきりがないでしょ」
「ふ~ん、すごい自信なのね。みんな馬鹿にされているわよ」
碧華は周りに社員たちにスマホを使って英語に翻訳機を使いながら社員たちにいったが、社員たちはテマソンの睨みに何も答えられずにいるようだった。
「じゃあ、あなたはここで一人で別の仕事をしてればいいじゃない。私はあっちの方が楽しそうだから、今日はあっちを見学してるから、あなたの仕事はオークションが終わってからするわ。じゃあね」
碧華はそういうと、立ち上がり、右足をかばいながらケンケンで社長室をでると、車いすの所まで行き、車いすに座り直した。
「ちょっと待ちなさいよ。わっ私は何も・・・」
テマソンはあわてて何か言いかけてやめた。
「別にいいわよ。好きにすれば」
そういうと、そっぽを向いてしまった。
「ああ・・・男ってめんどくさいわね」
碧華は小声でいうと小さくため息をついてから、スマホで翻訳アプリを起動させながら大きな声で言った。
「みんな、テマソンが、オークションの準備に誘ってくれないからっていじけてるみたいだから誘ってあげてくれるとうれしんだけどなあ~。テマソンがのりきじゃないなら、私もオークション出品できないし、みんな、力かしてほしいなあ」
碧華の日本語が英語に変換されると、社員たちはお互いの顔を見合い、一斉にテマソンのところに詰め寄った。
「社長お願いします」
テマソンはその言葉で、顔が赤くなるのがみてわかった。
「なっ何よ、あっあなたたち、直前になって今更・・・」
そういうテマソンに碧華は机の上にあった紙を丸めてメガホンのようにするとテマソンに向かって言った。
「テ~マ~ソ~ン!、そこは素直に分かったっていうものよ。意地はって後で後悔してても慰めてあげないわよ」
「碧華!余計なこといわないのよ。もう・・・わかったわよ。みんながそういうなら手伝ってあげてもいいわよ」
テマソンはそういいながらもどことなしにうれしそうにしていたのを碧華はみのがさなかった。
「みんな、社長が手伝ってくれる気になったらしいわよ。さあ、社長の気がかわらないうちに最後の追い込み頑張って!本番まで時間がないわよ」
碧華の掛け声に「お~!」っという掛け声が企画室に響いた。その後、碧華とテマソンはそれぞれの部署に分かれて作業していた作業場を1つ1つみて周り、修正箇所の指摘をしてまわった。最後に残ったのは当日の進行計画を立てている部署だった。
「ねえ、私とテマソンのキーホルダーをシークレットオークションにするなら、全部の商品を誰が作ったのか秘密にして、オークションをかけたらだめなの?事前にこの人が作りましたなんて写真とか入れてても、買うお客様はわかっていないんじゃないの?」
「そうねえ、でも、オークションっていえば、絵画とかでも誰の作品かわからないものには価値がつかないんじゃないかしら?」
「社長の言う通りです。ですが、社長もご存じのように今回社長が監修していないと告知しておりましたら、明日が本番ですのにオークションの申し込み者数が予定数の十分の一しか集まっておりません。このままでは会場のレンタル代金も支払えるかどうか・・・」
「それは深刻ね、オークション出品作品さっきみせてもらったけど、どれもすごく素敵な作品ばかりだったわよ。縫製はいつものスタッフたちがしているんだから、物はキチンと仕上がっているし、店舗で売っても支障ない程度までもってきてたわよ」
テマソンがいうとスタッフが嬉しそうにしているのをみて、碧華は思った。
『そっか、今までテマソンの才能だけでこの会社は大きくなっていたのね。でもそれだけだと、商品やデザイン性が偏ってしまう。新しい才能を引き出そうとしているのね』
 




