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碧華の長い一日⑧

「ねえテマソン、これでアーメルナもレイモンドと天国でずっと一緒にいられるよね」


碧華は空を見上げながらテマソンに言った。テマソンにもみえているかのように空を見あげながら答えた。


「そうね」


その時栞が碧華の側まできて言った。


「ママ、ママはまだ天国に行っちゃいやだからね。もうあんな思いをするのは嫌だからね。パパにはうまくごまかしておいてあげるけど、もうこれっきりにしてよね」


「そうだよママ、私も本気で心配したんだからね」


優も側にきて怒った顔を見せた。


「心配かけてごめんね。栄治さんには日本に帰ったらママから話すことにするわ」

「あら栄治さんには秘密にしておかないの?」


碧華の言葉を聞いたテマソンが驚いた顔をしながら聞き返した。


「別に隠す必要もないでしょ。私が選んだ旦那様よ栄治さんは、いつも私を信用してくれてるもの。どんな時も私自身が大丈夫だと思うことは好きにさせてくれるのよ。今回もたいしたことなかったんだから、怒ったりしないわよきっと・・・まっ、ここアトラスにはあなたがいるからっていうのも大きいと思うけどね。栄治さん、私にはテマソンも必要なんだって認めてくれているのよ。だから大丈夫よ。何も心配することないわよ。それに私の寿命はまだまだ続いてるからこんなことで死んだりしないしね」


「まったくどこからくるのかしらその自信は・・・でも、私からも栄治さんには一言謝っておくわ。これからは私ももう少し体を鍛えておくわ。あなたに私の寿命を削り取られてもびくともしないようにね」


テマソンは碧華に向かってウインクしてみせた。碧華もつられてほほ笑んだ。


「よろしくね。テマソン。あぁ~! ほっとしたらなんだかお腹がすいてきちゃった。さあテマソン、食堂に運んで!」


「そうね。みんなで食事にしましょ。私は食事が終わったら、明後日の会場準備の監視に行かなきゃ。会社をほったらかしにしちゃってるから、大変だわ」


「そうだったわね、お昼ご飯を食べたら差し入れをたくさん買い込んで行きましょうよ」

「碧華、あなたは今日は大人しくしてなさい。足動けないんだし、あなた今朝まで死にそうだったのよ」

「ええ~。車いす用意してよ。私ならもう大丈夫だから、私も行きたい~」


「何をいっても今日は絶対ダメよ。大人しく寝てなさい。そうだわ。栞ちゃんと優ちゃん、今夜はママの側で寝てあげてくれる?夜中ベッドから転げてもいけないから。簡易ベッド用意させるから」


「いいわよそんなの、私、そんなに寝相悪くないし! 」


そういった碧華をテマソンはキッとにらみつけた。


「テマソン先生、今日はずっと、ママを監視してるから安心してくださいね」

「そうそう、ママがフラフラしないようにちゃんと監視してるから」


「ちょっと二人とも、私は夢遊病者じゃないわよまったく! でもテマソン、明日は朝から絶対行くからね」


碧華は口をとがらせながら了承した。


「わかってるわよ」


「仕方ない大人しくしてるか。あっそうだ。エンリーもライフも学校どうしたの?今日からだったんじゃないの?」


「えっ、それ今聞くの?そんなの休んだに決まってるじゃないか。昨日の夜中スコールが降っちゃって、結局地下にまた水がたまっちゃって、抜き出すのに時間がさらにかかって、碧ちゃんが助け出されたの朝の八時だったでしょ。その時間ならもう本当だったら寄宿舎に戻ってないと授業には間に合わないよ。碧ちゃんの無事を確かめないで学校なんかいけるわけないでしょ。この貸は高くつくよ碧ちゃん」


ライフは笑って答えた。


「まあ、いたいけなおばさんに貸しつけるの?リリーお姉様助けて、ライフくんがひどいことをいうわ」

「まあ、そうね。じゃあ私も心配した分貸し三つでどうかしら?」


「ああーみんなひどい!」


碧華が叫ぶとその場にいたみんなが一斉に笑い出した。


「じゃあ碧華さん、私はあなたの新作の猫ちゃんのキーホルダーで手をうってあげるわ」

「ああっママンぬけがけはずるいわ。碧ちゃん私はワンちゃんのキーホルダーがいいわ」


ヴィクトリアが笑顔でいうと、横にいたリリーもニヤリとして付け加えた。


「ええっ? お二人ともどうして新作のことや動物の種類ご存じなんですか?オークションまで秘密のはずなのに」


碧華が不思議そうにたずねると、ライフが手を挙げていた。


「ライフ!」


「何?僕は碧ちゃんの新作の宣伝をしてあげただけだよ。僕のセンスの良さも自慢できるしね。追加制作の手伝いなら喜んで手伝うよ」


「あらありがとう、でもこれ以上借りはつくりたくないから遠慮しておくわ。あなたは明日から勉強頑張りなさいな。エンリーはしばらく授業ないっていってたっけ?」


「はい、明日の午前中は学校にいかなければいけないんですけど、それ以外は九日まで休みですから、栞ちゃんと優ちゃんは僕がエスコートしてアトラス観光しますから安心して休養してくださいね」


「えええ~、私、痛むの足だけだから、私も観光したいなあ。テマソン、病院の先生も寝てなくてもいいっていっていたわよね」

「そうね・・・でも観光はもちろんダメよ」

「なんでよ!私はこの通り元気じゃない」


「なんでですって?もちろん!仕事があるからに決まっているじゃない。あなたさっき仕事に行きたいっていったばかりでしょ。それにあなた忘れたのあなた私に借金あるのよ。遊んだ分はきちんと働いて返してくれなきゃ。それに、新作の打ち合わせの予約が五十件もあるのよ。皆さまには碧華が来るって伝えてあるのよ。それに、詩集の新作の打ち合わせしてほしいって出版社から依頼きてたって言ったわよね。九日まで遊んでる暇なんてないわよ」


「ええ~、テマソン、私は病人なんだから、そんなに仕事したら疲れちゃうでしょ。仕事はあなた一人でやってよ。私は心の治療に観光してるから。ねっ。そうしよっ!」


「それだけ口が回るなら大丈夫よ。今日はゆっくり休みなさい。あなたを待っている人がたくさんいるのよ。あなた老後の資金稼ぐんでしょ。きちんと働いてくれたら、借金はチャラにして、アルバイト料だしてあげるわよ」


「えっ?本当?じゃあ頑張らせていただきます」

「まったくげんきんな子ね」

「ママ頑張ってね!」

「任せなさい」


碧華はテマソンの腕の中で二人の娘達にウインクしてみせた。テマソンはいつものように変わらず会話ができている今を神に感謝せずにはいられないのだった。

この幸せを維持するためなら何でもしようと心に誓うテマソンだった。そして碧華も同じように思っていることをテマソンは感じとっていた。


「あっでもあなたたちも明後日のディオレス・ルイのオークションにはくるんでしょ?」

「どうしよう。みてもどれも高そうだし・・・」


栞がいうとテマソンが言った


「あら栞ちゃん、今回は第一回だから上限が千マルドルの超破格値オークションも企画してるって企画スタッフが言っていたわよ。それだったら、栞ちゃんの気に入るものが探せるかもしれないわよ。全部一点ものだし」


「本当?千マルドルかあ」


栞が悩んでいると碧華が言った。


「じゃあ今回二人には心配かけたから、千マルドルって日本円で一万円ぐらいでしょ上限千マルドルまでのオークションゲットしたらママが払ってあげるわ」


「本当ママ!」

「ええ、オークションって参加しなくてもみてるだけでも楽しそうじゃない」

「やったー!エンリー、オークション行こう」


「君が行きたいなら僕はどこでもいいよ。実は僕もオークションは初めてなんだ」


エンリーと栞は楽しそうに話しだした。その横でいつもは必ず行くと言ってはしゃぐライフが黙っているのが気になった優がたずねた。


「ライフさん、どうかしたの?体調でも悪いの?」

「優ちゃんは優しいな、大丈夫だよ、僕も行きたいんだけどね。明後日は土曜なのに、午前中追試の講義が入ってるんだよ。くそー僕も行きたい。ねえママ休んでいいよね」


「あら~可哀そうな私の坊や。でもねえ・・・今日だけ家の事情で休みますってもう言っちゃったから、もちろん学校に戻りなさい。ずる休みは許しませんよ」

「そんな・・・」

「残念だったな」


エンリーは肩を落として落ち込んでいるライフを慰めた。そんなライフの様子にテマソンが付け加えた。


「でも多分オークション開始は十時ぐらいからだけど、お昼休憩も入るし、学校から会場まで車で十五分ぐらいだから、渋滞してなければ講義が終わってからでも間に合うオークションもあるかもしれないわよ」


「本当叔父さん? ママ、寮には外出許可証九日まで午後からの分書いといてよ、僕出席しなきゃいけないの午前中ばかりだから。僕叔父さん家から通うから。それから、家の車借りるよ、土曜日は学校の校門前で待っているように言っといてよ」


「はい、はい、了解しました。仕方ないわね、土曜日は自分で運転してお出かけするわ」


リリーはあきらめ顔で返事をしたが、ライフは嬉しそうに笑い返したのをみて、苦笑いをするリリーだった。


「よかったねライフさん」


「ありがとう。僕も絶対いくからね。この二人と一緒なんて優ちゃん楽しくないだろ」


ライフが小声でいうと優は苦笑いを浮かべた。碧華はテマソンの背中越しに二人の娘達の楽しそうな表情をみながら笑みを浮かべ、碧華は心の中で神に祈りを捧げた。


『神様、感謝します。私の愛すべき家族の笑顔が今日も見られる命を残してくださって』


翌年、碧華は一冊の本を出版した。短い一生を閉じた遥か昔の少女の詩集だった。彼女の思い、願いが星になり、家族の元に戻ることができた話であった。この本は多くの人の涙を誘った。それと同時に、家族の大切さ、命の尊さを親子で話あう機会を与えるきっかけになったのだった。碧華はその本の最後にアーメルナの言葉として、こう締めくくっていた。

 

 星の神様

私がもしまた人として生まれ変われるのなら

今度は別の国で生まれ変わることができますか?

私がみれなかった素晴らしい世界を見ることができるように


そんなことをお願いしたら神様はお叱りになるかしら

でも、そうしたらレイモンドは私を見つけてくれなくなるかしら?

レイモンド、また来世でも必ず会いましょうね

そして今度はずっと一緒に笑っていられたらいいわね



少女の願いは星の神様に届きました。生まれ変わったアーメルナは彼女ができなかった多くの楽しい経験ができています。そして遠い未来で離れ離れのまま生涯を閉じた妹を兄のレイモンドは捜し当てるのです。彼が望んだように、妹を守れるように、自分の力で運命を切り開けるタフさを身につけて。



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