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碧華の長い一日④

テマソンは地下貯水槽室に入ると、すぐに天井付近の上に伸びているはしごを見つけた。そしてそれをのぼり始めた。腰にはひもが結びつけられていて、ちょうど空気穴に通る大きさの袋を下にぶら下げながら、迷うことなく碧華のいる空間へとはしごをのぼって行った。そして十分後、碧華の元にテマソンが顔をだした。


「碧華、助けにきたわよ。ちゃんと生きてるんでしょうね」


テマソンの明るい声に少し眠っていた碧華が目を覚ました。


「テマソン、きてくれたんだ。ありがとう」


碧華は起き上がりながら、ずぶ濡れのテマソンを迎え入れた。テマソンは塔の碧華の元につくとすぐにダイビングスーツを脱ぐと、持ってきていた袋を開封し、暖かい服に着替えはじめた。そして、碧華にも濡れていないズボンとソックスをさしだした。


「私は向こうをむいているから着替えなさい。水が思ったよりすぐにはひかないみたいだから、今夜はここで眠ることになるから、夜は冷え込むわよ」


碧華は痛い足をかばいながらズボンをはき替えた。


「終わった?」

「ええありがとう」


碧華がそういうとテマソンは振り向き、もってきた袋の中から寝袋を二つ取り出し下に広げ、碧華をそこに座らせた。そして救急箱から傷めたという足にシップをし包帯を巻きつけた。そして頭を調べ、たんこぶにもシップをはり、ネットを被せた。そして二つ寝袋を並べてならんで寝袋の中に足を入れてすわった。


「わあ、全然温かさが違うわね」


温かい寝袋と乾いたズボンの快適さを実感しながら碧華はしみじみと言った。


「そうだテマソン、あなたもカイロを貼っておきなさいよ。暖かいから」


そういいながらリュックから貼るカイロを1つ取り出しテマソンにお腹に貼るように促した。テマソンもいわれるままにそのカイロを貼った。


「あら本当に暖かいわね。すごいわねこれ、こんなのアトラスには売ってないわ。日本はさすがね」

「メイドインジャパンすごいでしょう!でもなんかこうして並んでいるとまるでキャンプにきたみたいね」

「あらそうね。そうだわ、今度ビルや栄治さんたちのようにキャンピングカーでキャンプに行きましょうよ」


「いいアイデアね。ビルさんや栄治さんたちが撮影した動画を見てると楽しそうだもんね。でも・・・テマソン、本当にごめんなさい」


そう言った後碧華はテマソンに向き直り真剣な顔で頭をさげた。


「ここでは怒らないでいてあげる、きちんと部屋に戻ってからね。でも、朝までここで眠らなきゃいけないけどね」

「一人だったら怖いけど、テマソンが一緒なら安心」

「あっそうだわ。無事ついたこと電話しなきゃ。ハローライフ、無事碧華と合流できたわよ。今代わるわね」


テマソンは防水の袋に入れていたスマホを取り出すと庭園で様子をうかがってテマソンからの連絡を待っていた子どもたちに連絡をいれ、すぐに自分のスマホを碧華に手渡した。碧華がスマホに耳を近づけるとライフの声が先に聞こえてきた。


「あっ、その声はライフ?」


〈碧ちゃん、大丈夫?寒くない?〉


「うん大丈夫よ。テマソンが持ってきてくれた着替えや寝袋が温かいから快適だよ」


〈ママ、本当に大丈夫なんだね〉


「栞ね、心配かけちゃたけど大丈夫よ。今夜はそっちにいけないみたいだけど、ママは生きてるから安心して、今夜もぐっすり眠っていいからね。優は?」


〈ママ、ちゃんと帰ってきてよ〉


「うんわかった。約束する。テマソンがいてくれるから大丈夫よ、体調も足痛いだけで大丈夫だから心配しないで、ちゃんと寝るのよ。朝になれば下に行くから、あっそうだエンリーに変わってくれる」


〈碧華ママ?〉


「エンリー、心配かけちゃってごめんね。今日はご両親とはどうだった?きちんと話せた?」


〈碧華ママ・・・それは今この状況で重要質問事項ですか?〉


「あら重要よ、だってあなたがまた傷ついていないか気になってたんだもの。あなたも私にとっては大切な息子なのよ。自分がどんな状況でも親は子どもの心配をするものよ」


〈はあ・・・あなたにはかないませんね。碧華ママの心配しているようなことにあなりませんでした。とても楽しかったですよ。みんなのおかげで何とかコミュニケーションはとれていたと思います〉


「そう、よかったわ。じゃあエンリー、娘達をよろしくね」


〈はい、栞ちゃんと優ちゃんのことは僕がついていますから安心してください。じゃあおやすみなさい〉


エンリーはこんな状況下でも、自分の心配を真っ先にしてくれる碧華が無事だったことを心の底から神に感謝するのだった。



その夜、碧華は夢をみた。碧華が生まれるはるか遠い昔の記憶、碧華は自分の涙で目が覚めた。そんな碧華をテマソンは肘をつき見つめていた。


「どうしたのテマソン、私の顔に何かついてる?」


碧華は涙を拭きながら言った。


「いいえ、あなたが息をしているか確かめていただけよ」


テマソンはそういうと天井を向いて、両腕を頭の下に敷いた。


「何か怖い夢でもみたの?」

「うん、すごく怖くて悲しい夢・・・ねえテマソン、手をにぎっててもいい?」


碧華はテマソンの方に体を傾け右手を寝袋から出した。


「いいわよ。どうぞ」


そういうとテマソンは左手を伸ばした。碧華はテマソンの大きな手をにぎりしめると目を閉じた。


『アーメルナ。もうあなたを一人ぼっちにしてほっておかないわ。ここをでたらみんなに頼んで必ずレイモンドの眠る場所の隣に連れて行ってあげるからね』


翌日、足を捻挫している碧華の為に、テーピングで足をきつめに固定し、水が完全にひいた連絡を受けたテマソンが先にはしごを降り始め、碧華は右足をかばいながらゆっくり一歩一歩降りた。

碧華がテマソンに抱き上げられて、地上にでると、そこには城中の人間が集まっていて大歓声が沸き起こった。


「碧ちゃん!、こんなことになって本当にごめんなさいね。でもあなたが生きていてくれてよかったわ」


リリーは駆け寄ってきて碧華に言った。ヴィクトリアもリリーの側にいてハンカチで目頭を押さえていた。


「リリーお姉様が悪いんじゃないわ。私が不用心だっただけなんだから、それよりも、皆さまにご迷惑をかけてしまって、皆さん本当にごめんなさい。そしてありがとうございました」


碧華はそういうと、深々と頭を下げた。


「これから碧華を病院に連れていくわ。気絶してたり頭をうってるから念の為に検査をしてもらってくるわ」


そういうと、テマソンはそのまま碧華を車まで運び、病院へと連れて行った。



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