カウントダウンパーティー①
六人が到着したのはアトラス時間で三十一日の十五時だった。
定刻通りに到着した六人は空港に到着していたレヴァント家の車に乗り込み、ヴィクトリアの住む城へと向かった。今夜は新年のカウントダウンを祝う為にどこの街でも夜遅くまで新年のお祝いをするらしくにぎわっていた。
城に到着した六人を出迎えたヴィクトリアの笑顔に迎えられて、六人はしばらく各部屋でくつろいでいた。
やがて十九時が近づくと、パーティーに備えて各部屋でパーティー用の衣装に着替えを澄ませ、碧華と栞と優の三人はテマソンの部屋に来ていた。もちろん化粧をテマソンに施してもらうために。
「あなたたちねえ、いい加減自分でできるようになりなさいよ。化粧道具一式プレゼントしてあげたでしょ」
テマソンは碧華の顔にファンデーションをはたきながらいった。
「だって、目元がうまくできないんだもん。ねえ、栞、優、テマソンにしてもらったほうがきれいにしあがるわよね」
「うん、テマソン先生プロみたいだよ。私も自分じゃないみたい。いつもありがとう」
「あらあら・・・栞ちゃんたちはいいのよ。これから上手になっていけばいいんだから、あなたたちは若いからそれほど時間かからないしね。問題はこのおばさんなのよね。今夜は色んな人が来てるんだから普段のかっこうじゃママンが恥をかくのよ。あなたたちは特別な来客なんだから注目されてるだろうし」
「なんでよ、何か告知でもしているの?」
「していなくても、日本人がこの城でのカウントダウンパーティーに出席していれば目立つわよ」
「えええ~!そんなすごいパーティーだったの?私たち欠席でもよかったのに。話しかけられたらどうするのよ。私人前にでるの苦手なの知ってるでしょ」
「栄治さんもよくOKしたわよね、知っていたらこなかったのに、あっ、もしかして私をだましたわね。テマソン!」
「何よ、人聞きの悪いこと言わないで、あなた知っていると思ったのよ」
その時ドアがノックされ、エンリーとライフが正装して現れた。栞をみるなり、エンリーは真っ先に栞に近づくと栞にだけ聞こえる声でいった。
「きれいだね。その衣装も素敵だよ」
「ありがとう。エンリーも相変わらずカッコいいよ」
「あっいいなあ・・・ねえ優ちゃん、僕らも付き合おうよ」
「ライフさん、いつもそれ言ってくれるけど、なんか重みない・・・今年は何人にその言葉言ったの?」
「えええ~!傷つくなあ。もちろん優ちゃんにだけだよ」
「うそつけ!お前は言い寄ってくる子にいつもいってるじゃないか」
栞と話していたエンリーが口を挟んだ。
「優ちゃん、こいつ女たらしだから気をつけてね」
「うんわかってる」
「優ちゃんまで・・・傷つくなあ・・・ねえ碧ちゃん慰めてよ・・・僕はそんなに軽い男じゃないよね」
「うーん。そうねえ、ライフはきっと女性なら誰にでも優しくしちゃうのよね。でも今のあなたと優が付き合ったら、優が周りの女の子たちに陰湿な意地悪されそうで心配だわ。女の嫉妬って怖いから。来年は周りを清算してから優に言い寄ってね。期待してるわよ」
化粧を終えて鏡をのぞきこんでいる碧華がいうと、テマソンも腰に手をあてていった。
「そうねえ、私もそう思うわよ。エンリーは見ていて栞ちゃんが一番だってわかりやすいほど態度が違うから安心なんだけど、あなたは境目がまだあやふやなのよね」
「なんだよみんなして」
ライフが不貞腐れているところにドレスアップしたリリーが空いたままになっているテマソンの部屋のドアをノックした。
「私の可愛い息子が泣いている声が聞こえたんだけど、みんなあんまりいじめないであげてね。この子うたれ弱いから。確かに女たらしなんだけど・・・優ちゃん、この子ねえ、本気で優ちゃんが好きみたいなのよね。長い目でみて相手してあげてくれると嬉しいんだけど」
リリーがいうと、優は少し照れた様子で答えた。
「私もライフさん好きですよ」
「ホントに?やったー」
「でも、今のライフさんはちょっとチャラ男みたいでひいちゃう時があるんです」
「アハハッ!よくみてるわね。その通りね。あなた来年は男磨きしなさいよ。じゃないと、優ちゃん他の男に取られるわよ。ヒロさんに聞いたんだけど、優ちゃんのいる学校って進学校らしいから将来医者や弁護士志望のお金持ちのいい男たくさんいるんですって。中高一貫校なら高校生の年上の学年の男子もいるでしょうし」
リリーは笑いながら息子に視線を向けると、ライフは心なしか顔が引きつっているようだった。ひとしきり息子をからかうと、リリーは思い出したようにいった。
「そうそう、今ビルたちが到着したようよ。すごく魚臭かったから、先にシャワーを浴びるようにいったの。みんな準備できているようね。お客様ももうたくさん到着しているみたいだから下に降りてきて、ヒロさんも準備できているみたいよ」
そういうとリリーは忙しそうに去って行った。六人はその後しばらくして、一階のホールに通じる扉の前につくと、執事と栄治と広が立っていた。栄治もぱっとみて高級スーツだとわかる高そうなスーツを着ていた。広もドレスアップしていた。
「おばあちゃん、きれい」
栞と優が広に近づき仕切りにほめていた。
「栞も優も別人みたいにきれいよ」
「は~い。お話し中ごめんなさい。今からホールにはいるんだけど、注目されるだろうから、入る順番いうわよ」
テマソンはそういうと、順番を指示し始めた。まずテマソンと広、その後ろに栄治と碧華、エンリーと栞、ライフと優という順番に立たせた。
「でっ、はいったら、中央のエントランスの階段の中央のテーブルに立って、私が先に誘導するからそこについてきて。私たちが付くとその後に、エントランスの階段をママンとビルとリリーが降りてくるから、降りてきたら、ママンが挨拶するから、あなたたちが呼ばれたら私が前に誘導するから一列に並んで、一人一人紹介するから頭を下げるだけでいいわ。その後、もとの場所にまた誘導するから、その後乾杯の合図があるからみんなにあわせてカクテルを持って乾杯よ。栞ちゃんと優ちゃんにはジュースを配るようにいってあるけど、違うみたいだったら飲むふりだけにしなさいね。まだ未成年なんだから。みんなわかってもらえたかしら?」
テマソンがいうと、7人は頷いた。そして、タイミングを見計らって、執事がホールの扉を押し開いた。その時一斉に中にいた人物の視線が扉に集中した。
そこにはドレスに身を包んだ。貴婦人たちとスーツをビシッと着込んだ紳士たちが既にたくさん集まっていた。
その後、カウントダウンパーティーは順調に進んで、今は皆好き好きに話こんでいた。桜木家の面々もそれぞれ、栄治はビルが仕事仲間に紹介するために呼びにきてどこかへ行ってしまった。
広もヴィクトリアがそうそうに呼びにきていた。すっかりヴィクトリアと意気投合した広は、もう昔からの親友のように親しそうに話していた。新たにヴィクトリアの知り合いに紹介して回っているようだった。相手は英語を話しているようだったが、ヴィクトリアの通訳を交えた会話は見事にかみ合っているようだった。この三日間もずっと一緒だったようだった。
栞と優も楽しそうに、エンリーとライフたちと話をしながら軽く食べ物をつまんで会話しているようだった。この数か月で娘達のヒアリングは著しいく上達したようで、相手の会話が所どころ聞き分けられるようになっているらしく、話しかけてくる相手に片言で返事をしている様子だった。
碧華はその様子を楽しそうに眺めながら、目の前のケーキをつまんでいた。というのも何故か、碧華には誰も話しかけてこなかったからだ。パートナーを務めるはずのテマソンも何故か碧華の側に来ていなかった。
『まあ、それはそれで楽でいいや。でも、テマソンもすぐどこかに行っちゃったしなあ・・・英語ばかりで周りが何をしゃべっているのか全然分からないし、ある程度食べたらリリーさんを探して部屋に戻ろっと』
碧華がそう心の中で思いながら目の前のケーキを口に運んでいると二十代後半らしい女性二人が碧華に近づいて何か話かけてきた。碧華は頭を下げて片言の英語で言った
「I can’t speak English.」
そういって頭を下げた。すると、クスクス笑いながら何か悪口らしいことを話しながらさらに碧華に近づいてきた。碧華はくるりと向きを変えてその場を離れようとした時、碧華の肩を掴んで、一人の女性が耳元でささやいた。
「わたくし、あなたのお国の言葉を話せますの。日本人の桜木さんでしたっけ?わたくしたちと少しお話しませんこと、わたくし実は興味がありますの。いったいどうやってレヴァント家にとりいったのか?ねえ教えてくださらない。おばさん。素敵なドレスをきてらっしゃるようですけど、場違いなんじゃありませんこと」
その日本語を聞いて碧華は急に血の毛が引く感じがした。彼女達は碧華がもっとの嫌いな人種のようだと直感したからだ。
「・・・」
碧華はそのまま無視して立ち去ろうとしたがどうしてもじゃましたいようだった。別の女性がもうやめたらというようなジャスチャーをしている様子だったが、それも聞かずクスクスと笑いながらまた碧華の耳元に囁きかえした。
「英語もろくにしゃべれない方が由緒あるレヴァント家の一族に迎えられているなんておかしいじゃありませんか?お願いしますわ。どうやってとりいったのか教えてくださいませ。お金ならお支払いいたしますわよ。日本円で百万円ぐらいでよろしいかしら?」
「!」
その言葉を聞いた碧華が小さくため息をついてすぐに笑顔になって、ほほ笑み返した。
「あなた、何か勘違いしていらっしゃるようですわね」
碧華はそれ以上は言わなかった。こんな失礼な女性たちとひと時も話したくなかったからだ。すぐに、掴まれている肩を振り払いその場から離れようとした瞬間。
「キャッ!」
突然碧華の肩を掴んでいた女性の頭に冷たい水がふりかかった。
碧華はあわてて、手に持っていた小さなバックの中からハンカチを取り出すと目の前の女性の頭をそのハンカチで拭こうと手を差し出したが、その女性はテマソンを睨むのではなく碧華をキッと睨みつけると碧華の手を撥ね退け、何か英語で罵倒を碧華に浴びせかけてきた。碧華は困惑して拭こうとしていた手を引っ込めて固まっていると、水をかけた本人のテマソンがその女性の手を掴むと碧華から離れて歩きだした。
「あらごめんなさいね。手がすべっちゃったみたいだわ。いけない。早く着替えたほうがよくてよ。さあ行きましょ」
テマソンはずぶ濡れになったその女性を連れて、ホールから出て行ってしまった。その騒ぎに碧華から離れていたエンリーとライフも碧華に近づいてきた。
「碧華ママ大丈夫?」
エンリーが心配そうに碧華にたずねた。
「私は大丈夫よ、でもあの人風邪ひかなきゃいいんだけど・・・。私、また失敗しちゃったのかしらね。私、もう部屋に戻っているわ。栄治さんにあったら先に部屋に戻ったって言っといてちょうだい」
碧華はそういうと、スタスタと別の扉に向かい一人部屋に戻って行ってしまった。




