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年末年始長期休暇③

さて、時間はさかのぼって二十六日の夜、桜木家の一階では深夜になっても作業に没頭する三人と、二階では徹夜で宿題を仕上げる二人の娘に付き合いながら、的確に分からない所を教えているエンリーと、先に一階の和室では、いびきをかきながら明日の仕事に備えて一人熟睡する栄治の姿があった。


「ライフ、疲れてない?眠かったら和室で先に寝ていいからね」

「ちょっと、私には?」

「ああ、そうねえ・・・テマソン・・・感謝してます。ありがとうございま・・す。すっ…ほんとに」

「まったく、いってる本人が一番眠いんじゃない」


「碧ちゃん、先寝ていいよ。僕、やっとくから、なんだか楽しいんだこういうの、パズルみたいでさ、でもすごいよね。こんな端切れからこんなキーホルダーができるなんて、僕この犬が欲しいな。カバンに着けるとグッとよくなるよな。やっぱりすごいや碧ちゃんは」


「ちょっとライフ、このデザインを考えたのは、わ・た・し・よ」


テマソンは自分がデザインした動物の形に切り抜きをした革の布を、ライフが何枚かの色違いの布を重ね、それを碧華がカバン用の太い糸でミシンで上から縫い固め、最後に留め金用穴をあけ、鎖をつけ、いろんな大きさの穴あけで、目の部分に穴をあけ、一つ一つ仕上げていった。犬、猫、梟、ペンギン他に動物をさらに五種類増やし、計九種類のデザインをすでに、百個は完成していた。それほど複雑な形はしていなかったが、もともと、奇抜な柄の布や革を使っているため、完成品は見事な出来栄えとなっていた。


「あっそうだった。失言でした。さすが叔父さんだね。この絵のセンス抜群だよ。ねっ碧ちゃん」


「えっ?ああっうん、本当にありがとう。テマソン、ライフ、大好きよ。何もお礼できなくてごめんね。これ全部私が欲しくなっちゃったよ~。一種類ずつ余分に作って置いとかなきゃ」


「僕も欲しいよ。もらっていいかな」


「じゃあこのくらいにして、今度は、自分用を作ろうかライフ」

「そうだね。そうしよう」


そういうと、二人はいそいそと残っている布をかき分けながら自分好みの柄を捜し始めた。


「ちょっと、私の分も作るの手伝ってよね」

「えっテマソンも欲しかったの?」


「あら、いけないかしら、こういっちゃあなんだけど、私ってセンスいいんだから、特にこの猫やペンギン可愛いじゃない」


「なんだかんだ言って、叔父さん結局ペンギン好きだね」

「あら悪い?」

「悪くないけど、この犬の方が断然かっこいいと思うけどな」


ライフはそういうと完成したばかりの犬のキールダ―を手にして言った。


「ええっこのフクロウの方が可愛いわよ。テマソンやっぱり天才よあなた、だって私がデザインしたのよりテマソンが描いた方が可愛いもん」


碧華はそういってフクロウのキーホルダーを手に持ちうっとりした目で眺めていた。


「でも、こんな発想は今までなかったけど、いいかもしれないわね。新春オークションで人気があったら採用してあげるわよ。碧華」


「えっ、そうなの?そうなったら、コレクションしたくなるわね。フフッ楽しみ。ねえ、オークションって社員の人達何人ぐらい出品するの?」


「そうねえ、さっきメールきてたけど、今日休日出勤してきたのは三十人ぐらいいたらしいから、かなり集まるんじゃないかしら」


「そうなんだ。じゃあ一人一品じゃあ、作りすぎかしら?」


「あら、いいじゃないバッグだったらかなりみんな金額設定高くしてくるかもしれないけど、これだったら高くないから、お客様もオークション楽しめそうじゃない。これだけあっても同じ柄の組み合わせが一つもないから、みんな表情違うし、私も全部欲しいぐらいよ。碧華、もしこれに誰もオークションに手を挙げてくれなかったら、私が買い取ってあげるわよ」


「あらご心配には及びませんわよ。売れなかったら、持ち帰りますから」


三人は変なテンションになりながらも夜中まで作業をして、出来上がった商品を一つ1つを丁寧に検針し、きれいなタオルで一つ丁寧に消毒し、ふき取り、透明な袋に入れ可愛くリボンでラッピングをしていった。全ての作業が終わったのはもう三時を過ぎていた。


テマソンとライフは和室の布団の上に倒れるように横になるとすぐに寝息をたて始めた。碧華はそっと二階に上がると、優はさすがに一時頃となりの部屋に先に寝てしまったようだったが、栞はまだ起きていた。後少しで英語が終わるといってまだ頑張っていた。


「エンリー大丈夫?疲れているでしょ」


「大丈夫、僕は栞ちゃんが学校に行っている間に眠くなれば寝ればいいだけだから、最後まで付き合うよ」


「二人とも頑張ってね。ココアでも持ってこようか?」

「うん、ついでにチョコも」

「分かった」


碧華は栞のリクエストを作りに下におりて行き、ココアとチョコを持って二人に渡すと二時間ほどの短い睡眠をとることにした。



結局、栞が英語が終わったのは、碧華がお弁当を作るために一階におりて行こうとした五時になっていた。 

栞は二十七日の補習授業が始まる十時の二時間前の八時半まで寝るといって寝室に入って行った。エンリーも下で寝るといって和室に入って行った。

碧華がお弁当を作っていると、寝たはずのエンリーが起き出してきた。


「あら眠れないの?」


「はい、実は飛行機の中で僕だけずっと寝ていたんです。ライフはずっと起きて映画をみていたみたいだけど・・・だからなんだか変な感じだから寝るのはあきらめました」


「そう、じゃあそっちでゆっくりしてたら、テレビでもみてる?三人なら大丈夫よ。きっと起きないと思うから」


「でも、テマソンさんはほとんど寝ないんじゃありませんでしたか?」


「最近はそうでもないみたいよ。布団の中にちゃんとミニペンタを入れて寝てたから、爆睡中よきっと」


「そうなんですか」


エンリーは笑いながら台所に腰をかけた。


「碧華ママ、お手伝いしますよ、ママこそ、疲れてるでしょ」

「大丈夫よ、エンリーはお客様なんだからゆっくりしてて」


そういった碧華だったが、エンリーは立ち上がると碧華の横に立っていった。


「手伝いたいんです。みんなの朝食も作るんでしょ。僕にも手伝わせてください」


碧華は小さくため息をつくと頷いた。


「じゃあ手伝ってもらおうかな。いいわねえ、男の子と台所に並んで朝食を作るのって、本当はもう一人男の子が欲しかったのよね」


「どうして三人目を作らなかったんですか?」

「どうしてかって?だって子供が三人になるとおでかけした時、一人だけ手をつないであげられない子ができてしまうでしょ」


碧華の言葉にエンリーは碧華らしい発想だなと思った。そして、そんな碧華に育てられた栞と優がうらやましく思うのだった。


「僕が碧華ママの息子になるよ」


「あらありがとう。こんなイケメンの息子をもてて私は幸せ者だなあ」


二人はそんな会話をしながら、碧華はお弁当を、エンリーはお味噌汁を作り始めた。そして、五時半には優を、六時には栄治を起こし、二人の準備をし、六時半には二人を送り出し、碧華は洗濯物を干しに行き、家事が一段落した後、七時過ぎにはエンリーと一緒に朝食を食べた。


そして、八時三十分には栞とライフとテマソンを強制的に起こし、朝食を食べさせ、十時から始まる補習に間に合うように栞を学校に行く準備をさせ、栞を乗せ学校へと送って行った。


碧華が買い物を済ませて家に戻ると、朝食の片づけは済まされていて、三人が並んでまた和室で眠ってしまっていた。碧華はほほ笑みながら、コーヒーを入れ、二度目の朝食を食べた。


碧華は三人を起こさないように気をつけながら栄治用の旅行の用意を始めた。小さいキャリーバッグに四日分の着替えを詰め込んだ。男用はいつも準備がすぐ済む。それから、碧華は女三人分の旅行の用意を始めた。 


数日前からあらかじめ詰め込んではいたが、最終確認と、遊園地で遊ぶ用の服装のチェンジをした。だが玄関にはすでにテマソンとライフ、エンリーのキャリーバッグがおかれており、栄治用を置くと大きなキャリーバッグを置いて広げるスペースがないほどだった。あらかたの準備が完了した頃にはもう十二時になっていた。 


碧華は一時半ごろ帰ってくる優の分を含め五人分の昼食用に手ばやくチャーハンを作ると三人を起こしにかかった。


「は~い、お三人さん、もうお昼ですよ。そろそろ起きて!」


碧華の声にすぐ反応したのはまたしてもエンリーだった。


「今何時ですか?」

「もう十二時よ」

「えっ?一時間ほど寝るつもりだったのに・・・」


「疲れてたのよ。エンリーあなたは私に気を使い過ぎなのよ。そんなんじゃ逆に疲れちゃうでしょ。あの二人を見なさいよ。あのずうずうしい寝起きの悪さ」


そういいながらまだ眠そうに布団の中でぐずぐずして起き出そうとしないテマソンとライフを指さした。


「ねっ、あなたはまだ未成年、あなたはまだ子供なのよ。もっとわがままでいいのよ。言いたいことを言い合って喧嘩してもいいじゃない。後で仲直りすればいいんだから、それが家族よ」


「はい・・・でも」


「そうはいっても気を使っちゃうのよねエンリーは、それがあなたの魅力なのよね」

「僕は・・・クリスマスを初めて家族が全員そろって食事をしたんです。けど・・・その後すぐここに逃げてきたんです」


碧華はエンリーの背中を軽くポンと叩いて言った。


「あらそうだったの?でも進歩したじゃない。少しずつでいいじゃない、血のつながりはそう簡単には切れないと思うわ。ゆっくりでいいのよ。あなたの家族じゃない」


「はい・・・だけど僕は・・・」


顔を上げたエンリーだったが、言葉につまってしまった。この先もきっとそれ以上にはならないと言おうとしたがエンリーはその先は言わなかった。それをさっしたのか碧華が言った。


「エンリー、お母様にきちんと日本についたって連絡はいれたの?なんだかんだいっても母親って心配なものよ。私だったら気になっておちつかないわ。何の連絡もなかったら、一言でいいから電話かメールしときなさいよ」


「はい」


「でも、クリスマスってすごいごちそうなんでしょうね。コックさんとかが作ってくれるんでしょ。うらやましいなあ。家じゃあ誰も作ってくれないもの。私の教育が間違ってたのかな・・・見たでしょ。娘なんか手伝おうかの一言もないのよ。まったく」


「僕は碧華ママの料理が大好きです。今も起こされて目が覚めると、いい匂いがしてきて、いろいろしゃべりながらにぎやかに食べて、日本に来て食べることがこんなに楽しいものなんだって知ったんです」


「ここはいつでもあなたのもう一つの家よ。少しぼろ家だけどね。あなたはいい子ね」


碧華はそういいながら、エンリーの頭をなでた。


「さあ息子よ、これから大掃除をするわよ。手伝って!頼りにしてるわよ」

「はい!」


エンリーは笑顔で返事をしながら、昼食をリビングに運ぶのを手伝った。


「ちょっと、いい加減にしなさいよ!テマソン!ライフ!いつまで寝てるの!片付かないじゃない」


碧華はまだ和室でねぼけている二人の頭をポカポカと一発づつ叩くと、強引に起こした。


「何よ、こっちは疲れてるんだから・・・」


「もう十分寝たでしょ。そんなに寝たいんだったら、どこかホテルを探してそこでずーと寝てなさいよ。さあ起きなさい、布団をたたむんだから」


そういうと二人から布団を引っぺがした。


「ちょっと寒いじゃない。もう!暖房つけなさいよ」


「何言ってるの。わが家はコタツだけよ。寒いんだったら、早く着替えなさいよ。昼食食べたら窓の拭き掃除してもらいますからね」


「あらやだ、まだ私たちをこき使うつもり?」


テマソンは大きなあくびをしながら言った。


「いやだったら、リリーさんたちと三重にいけばよかったじゃない。家にいるなら働く!働かざる者食うべからずよ。日本じゃ年末には大掃除をするのが常識なの。今日中に窓を拭いて、玄関のそうじと神棚のそうじ、フローリングのそうじもしたいし、時間がないんだから。早く食べるわよ」


その言葉を聞いた二人は無言のまま、大人しく起きだし、服に着替えてきた。碧華はテキパキと布団をたたむと、昼食を食べ始めた。



昼食を食べた後、碧華は宣言通り、三人の男たちを器用に使い、大掃除を二時まで終わらせた。その間に優を迎えに駅まで行き、三時には栞を車で学校まで迎えにいく為に出て行った。


それから一時間後、碧華は栞と共に家に戻ると、ココアを飲みながらしばらくコタツでまったりとしだした。


コタツの中で丸くなってテレビをみていたテマソンが今日一日くるくるとよく動いていた碧華に向かって言った。


「日本の主婦はよく動くわね」


「あら、どこの国でも普通の家庭のお母さんはよく動いてるわよきっと、動かなきゃ誰もしてくれないんだから」

「そうなの?」

「これだから金持ちは嫌ねえ~。家事を全部人任せにして生活をできている人間なんてこの世界中には一握りしかいないわよ。ほとんどのお母さんは一生懸命仕事と家事と子育ての両立をして頑張っているのよ。はぁ~なんだか眠くなってきちゃった。ちょっと寝るわ」


碧華はそういうと、コタツの中で横になって寝てしまった。


「ちょっと、私たちはどうしたらいいのよ」


テマソンが碧華に話かけるが、碧華からは言葉にならない返事しか返ってこなかった。


「そのまま寝かせてあげてください。碧華ママ、昨日は二時間しか寝てないみたいだから、朝五時から動きどうしだから疲れたんだと思います」


「そう・・・仕方ないわね。今夜は夕食何にするつもりだったのかしら?」


「あっそれなら昨日カレーライスを作っていたのがあるらしいから野菜や肉を付け足して煮込むって言ってましたよ。僕がカレーの追加を作りますから、テマソンさんは二階の栞ちゃんと優ちゃんの宿題見てあげてくれませんか?後は英語だけだって言ってたから」


「オッケー。とっとと片づけてくるわね」


そういうとテマソンは軽い足取りで二階に上がって言った。


「僕は何をしたらいいんだ?」


横で見ていたライフがエンリーに聞いた。

「じゃあ一緒に作るか?」

「よし、じゃあ力作を作ろうぜ!」


ライフは腕まくりをすると立ち上がった。



碧華が目を覚ますと、外はすっかり暗くなっていた。


「いけない、寝すぎちゃった。夕食作らなきゃ」

慌てておき出して台所に行くと、そこでは後片付けをしているライフとエンリーの姿があった。


「もう少し寝ててもいいですよ。カレーライスがあったので追加を僕らで作っておきましたから」


そう言ってエンリーは大きな鍋でコトコト煮ているカレーの蓋を開けて碧華に見せた。


「ええっ、ありがとう。二人とも。うわーめちゃめちゃおいしそうにできているじゃない。もう私は幸せ者だあ・・・誰かが作った料理を食べられるなんて」


そういうと、碧華は台所の椅子に腰かけて、エンリーにだしてもらったお茶を飲みながら言った。


「碧ちゃん、僕もずいぶん頑張ったんだからね」


ライフが仕切りに頑張ったアピールを碧華にしてきたので、碧華は笑いながらライフにも丁寧にお礼を言った。





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