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心とプレゼント④

翌日、テマソンと碧華は早朝から予約のお客様を迎え、一日中、ノンストップで接客をしていた。噂とはすごいもので、普段接客しない社長のテマソンとあの碧華が一日限定でオーダーメイドリュックのアドバイスをしてくれるという情報がディオレス・ルイの上得意客層に伝わり、昨日のうちに予約が閉店時間まで休憩時間も取れないほど埋まってしまっていた。その頃栞と優は 最終日のイギリス観光を満喫するため、早朝から車で出かけてしまっていた。


そしてようやく、最後のお客様が帰ったのは閉店時間を一時間もオオバーした九時だった。


「長時間お疲れ様碧華、さっ、もう裏の駐車場でライフたちが乗り込んで待っている頃よ。荷物はもう積み込んでるはずよ」


「えっでもこの服は?」


「それはあげるわ。また、次来た時に接客に出てもらわなきゃいけないかもしれないから。次アトラスに来る時に持ってきてくれたらいいわ。とにかくギリギリなんだから急ぐわよ」


そういうと、片づけは他のスタッフに指示し、テマソンは碧華の手を掴むと、店を出て駐車場へと走った。

空港に着いたのはフライト時間の一時間前だった。


空港に着くと、手慣れた様子でテマソンがテキパキと荷物の預け入れや搭乗手続きやらを済ませた。

そして出発ロビーでテマソンはポケットから何かを取り出した。


「碧華、あなたのおかげで今回の発表会も大成功だし、リュックの注文もすごいわ。あなたには仕事ばかりさせちゃってごめんなさいね。でもありがとう。これはお礼よ。あなた、腕時計は嫌いだって言っていたでしょ。だからネックレスに作り変えてもらったのよ。日本時間とアトラス時間両方がみれるものよ」


そう言って碧華の首にかけたのは、少し長くお腹辺りまでくる太く長い純金の鎖の先に、外観は純金にダイヤモンドの瞳をしたフクロウの時計型ネックレスだった。そこにはフックもついていて、碧華が日本でいつも首にかけている家の鍵もとりつけられるようになっていた。お腹の部分が開閉式になっており、その中に二つの時計が内蔵されていた。


「可愛い、私こんなの欲しかったのよ。でもこれ高いんでしょ。本当にもらっていいの?今回の飛行機代もアルバイト料ももらったのに」


「何言ってるのよ。今回はその分たくさんあなたをこき使ったんだから、それは私からの個人的なお礼の気持よ。あなた、今日からディオレス・ルイの正社員よ、これからはきちんと報酬は支払うわ。後日必要書類を送るわ」


「えっ、でも、娘達のレッスン代は?」


「あんなものたいした額にはならないわよ。あなたが気にするならその分の料金は差し引いてあげるわ。これで気がねなくどんどん仕事してくれるわよね」


「ありがとうテマソン」


碧華はそういうと頭をさげてお礼を言った。


「私頑張るわよ!これ大切にするね。私の宝物が増えたわ。テマソン、私仕事って二十年ぶりかにしたけど、初めての体験ばかりですごく楽しかった。まだお客様の元に品物が届いていないから、私がアドバイスしたものがよかったのか、悪かったのかわからないから不安だけど、もし評判が悪くて苦情がきたらごめんね」


そういうと笑顔を見せた。


「その時は、私がうまくフォローしておくわ」

「任せた!」


碧華はそういうと、次にエンリーの元に行った。エンリーは栞と別れを済ませたばかりのようだった。


「エンリー、栞と優をずっと見ててもらってありがとうね」


「いえ、僕も楽しかったですから。今度アトラスに来れる時は、碧華ママにもお勧めスポットに案内しますよ」


「ありがとう。楽しみにしとくわ」


そういうとエンリーに向かって首を下げるように指示し、エンリーが首を下げると、碧華は背伸びをしてエンリーの耳元で小声で言った。


「あなたのご両親と話せて本当によかったわ。正直ほっとしたわ。お父様とは簡単には打ちとけられないかもしれないけれど、忘れないで、お父様も人なのよ。神様じゃないってこと。私もね、失敗や失言なんて数えきれないほどしてるわ。世の中なんて理不尽だらけよ。でも、負けないでね。あなたなら何とかできるわ。辛くなったら、いつでも日本にいらっしゃいね。あなたは私の息子だって思ってるから。愚痴ならいくらでも聞くわよ。私はすぐ忘れちゃうけど」


「はい」


そういうとエンリーは碧華をギュッと抱きしめた。碧華も両腕をエンリーの背中に回し、右手でポンポンと背中を軽くたたいた。


碧華は最後にライフの所に行った。ライフは優とまだ話をしている最中だった。


「お取込み中おじゃまかしら?」

「そんなことないよ。碧ちゃんなら歓迎だよ」

「そう?ありがとう。あなたにもお礼を言っておかなきゃと思って」

「僕はたいしたことはしてないよ」


「いいえ、いつかキチンとお礼を言いたかったのよ。あなたが私の作品を気に入って使ってくれたおかげで、私はテマソンと出会い、子どもの頃の夢だった。本まで出版することができたのよ。今でも夢なんじゃないかって思う時があるわ、全てあなたのおかげよ、ありがとう」


碧華はライフにもギュッと抱きしめた。



そして碧華は三人に向かって、もう一度一礼した。


「お世話になりました。ありがとうございました」


碧華がいうと栞と優も同じように頭をさげていた。



三人はそれからすぐ、搭乗口に入っていった。テマソンとエンリーとライフは碧華たちの乗せた飛行機が飛び立つのを見送った。


「ああ・・・いっちゃったわね。なんかおっきな穴が開いちゃったみたいね」


「あああ、明日からつまんないなあ・・・」


「ライフ、お前は少し勉強しろよ。進級ギリギリだったんだろ?なんだったら僕が教えてあげようか?」


「遠慮しておきます。お前は日本の大学を受けるんだろ。大丈夫なのか?」

「僕に不可能はないさ」


「若いっていいわね。可能性に満ち溢れていて、頑張りなさい。未来は自分の手でつかみ取るものよ。さっ帰りましょうか」 


『碧華、またいらっしゃい。私たちの時間はまだまだこれからも続くわよ』


テマソンは日本に向かって飛び立った碧華に心の中でつぶやいた。


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