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心とプレゼント③

最上階につくと、エンリーと栞もすでにきており、おいしそうなにおいが充満していた。


「いい匂い、お腹すいたあ~」

「お疲れ様。料理温めておいたから、食べてください。僕たちは先にいただきましたから」


そう言ってテーブルいっぱいに並べられたおいしそうな料理に温かいスープの追加を運んできた。


「さすがエンリーね。まるでお店の料理みたいだわ。ねえ、エンリー、栞みたいなのでよかったらいつでもあげるから、うちの子に早くならない。あなたの料理最高だわ」


碧華はおいしい料理を食べながら言った。


「ママ、あげるってひどくない?」


「あらどうしてよ、こんないい男日本じゃいないわよ。顔よし、性格よし、頭よし、おまけに料理上手なんて、欠点といえば、何で栞が好みなのかって疑問ぐらいよね」


「ママ!」


「何よ。あんたも思うでしょ。金髪の美女たくさんいたでしょ。アトラス観光してても」

「そうね、確かにエンリーとライフが並んで歩いてると女のコたちがキャーキャー言ってるの聞こえたわよ」

「碧華ママ、栞ちゃんは素敵な女性ですよ。僕の中では世界一です」

「ありがとう。いい子ね。栞、嫌われないようにしなさいよ」


あまりにおいしい料理に感動しながらも、忙しそうに料理を口に運びながら食べ進めた。テマソンもよほどおいしいのか無言のまま食べていた。そしてたくさんあった料理を全て平らげてからテマソンがエンリーに言った。


「エンリーくん、あなた、実家でお父様とケンカしたら遠慮なく家に来なさいよ。あなたなら大歓迎よ」

「ありがとうございます」

「叔父さん僕は?」


「あらライフはあまり来なくていいわよ。あなたが私の所にくるのはお小遣いをせびりにくる時ぐらいでしょ。どうせ今回もそうなんでしょ。何またリリーに内緒でカード使いまくって上限超えちゃったの?」


「だって、かっこいい時計があったんだよ。買っとかなきゃ売り切れちゃうでしょ」


二人の会話を聞いていた碧華が優に向かって言った。


「優、金遣いの荒い男と言い訳がうまい男はやめときなさいよ」

「うん、わかってる。私もエンリー兄さんみたいな人探す」

「ちょっと待った。そっちで何こそこそ話してるんだよ」

「あらあなたには関係ないわよ。女の話よね優」

「うん、ライフさんはいい人だけど、私には無理かなって話です」

「ええ~どうして? 僕はこんなに優ちゃんのこと好きなのに」

「だって、ライフさん、今日だって、ずーと携帯電話に違う女の人からひっきりなしにデートの誘いの電話やメールがきてばかりなんだもん。私、やきもちばかりやいてイライラしたくないし、彼氏にするなら誰にでもやさしい人はちょっと・・・ごめんなさい。いい友達になれたらいいんですけど」


「きついなあ。女のコが勝手にかけてくるんだよ」


ライフは必至で優に言い訳をしていたが、優は笑顔で聞きながら。ごめんなさいアピールは崩さなかった。碧華はその様子をみて、この二人はまだまだだなと母親のカンというやつを働かせていた。楽しそうに会話が続き、やがて全員がシャワーを浴び寝る準備が整った。


「碧華、そろそろ寝ましょうか。明日も忙しくなるわよ」


テマソンがそう言って立ち上がろうとした時、碧華が言った。


「そうね栞、優行くわよ。あなたたちはどうするの?」

「僕らはもう少しテレビをみてからにするよ」


ライフはそう言って、テマソンにおやすみの手を振った。

碧華と栞と優はテマソンの後ろを歩き、碧華は娘たちを引き連れて、素直に布団がひかれている和室の客間にむかった。そしてその先にあるテマソンの寝室の方を向くとテマソンがまだこっちを見ていた。


「おやすみなさいテマソン」

「おやすみ」


そう言ってテマソンは中に入って行った。その瞬間三人とリビングで手を振っていたはずのライフがテマソンの寝室の扉に耳をつけた。テマソンの寝室は天窓がかけられていて、テマソンはいつもベッドに入る時には寝室を真っ暗にして眠りにつく、テマソンはいつものように室内を真っ暗にさせ、布団の中に潜り込んだ。その瞬間足元にグニャグニャな物が触れた気がした。


「うわっ!なっ何?」


テマソンは思わず叫んでベッドから飛び降り、部屋の扉の横の照明のスイッチに手を伸ばし、羽毛布団をはぎ取った。テマソンがベッドの中をのぞき込むと、そにはいろんなクッションが所せましと置かれていた。テマソンの足に触れたのは柔らかいぶにょぶにょした丸いクッションだった。


「こんないたずらをしたのは・・誰‼」


そういうなり、扉を思いっきり開いた。


「キャッ」


テマソンが扉を開くと、そこには碧華とライフそれにその後ろには栞や優、エンリーの順に全員がいた。


「あんた達、みんなグルだったの!こっこら~!」


テマソンは罰の悪そうな顔をしながら碧華とライフに向かってこぶしを振り上げた。


「キャー!テマソン暴力反対!」


そういいながら五人はリビングの方に逃げ出した。


「待ちなさい!」


テマソンが追いかけてきた。


「ちょっとライフ、あなた何とかしてくれるんじゃないの?」


碧華はそういいながらあとずさりして後ろにいるライフに向かって言った。


「むっ無理だよ、叔父さんマジ切れしてるじゃないか?あの目は無理だよ」

「もう役にたたないわね」


「あんたたち覚悟しなさい。私はやられたらやり返すタイプなのよ。碧華、あなたの仕業ね。覚悟しなさい」


「みんなお座り!」


そう叫ぶと碧華はその場に正座した。それに倣って四人も碧華の後ろで正座した。そして碧華が叫んだ。


「ごめんなさい」


碧華はそういうなり、頭を床につけて土下座をした。その後で四人も同時に

「ごめんなさい」を連呼した。


「あっ謝られたって、許してあっあげないわよ。私ビックリしたんだから」


「でも叔父さんも人間だったんだね。安心したよ」


碧華と同様に土下座しながらもにやけ顔でボソッと言った。


「ライフ、それどういう意味よ」


「だって叔父さんいつも誰に何を言われても無関心みたいじゃないか。気にしないって顔で笑っている時でさえ、どこか冷めてて、僕ずっと叔父さんきっと感情が欠落してるんだなって思っていたんだ」


「そんなわけないでしょ」


「そうよ、テマソンはちゃんと感情あるわよ。だって、あんなぬいぐるみに驚いてうわー!って言ってたし」


「こら碧華、あなたでしょ。あんな所にぬいぐるみいれてみようっていったのは」


テマソンは碧華の頭を軽くポカッと小突くと言った。


「いたっ!暴力反対!」


碧華は両手を頭の上に乗せながら言った。


「何言ってるのよ。それぐらいでさわぎなさんな。あれはどうしたの?」


テマソンはそういうと、リビングのソファーに腰かけると足を組んで、まだ正座している五人に向かって聞き返した。


「ごめんなさい先生、あれはママのファンの人からのプレゼントの中に入っていたテマソン先生宛のプレゼントです」

「私・・・碧華宛じゃなくて?」

「はい」


そういうと、優が和室に走っていき、お昼に撮ったプレゼントの写真ファイルをめくり、一つのページを指さした。


「イラストレーターのSKY先生へって書いているでしょ。こっちも、これも」


テマソンはその写真をみて呟いた。


「あなたたち、こんなファイル作ってたの?」


「驚くのそこ? ええそうよ。だってファイルしておくと、ファンの人達がどんなプレゼントをくれたのかすぐわかるし、いつでも見れるでしょ。全部置いておくことできないし。いいアイデアでしょ。ほらこのメッセージみて、ペンタ君のガールフレンドにしてあげてくださいって書いてるんでしょ。だから、あなた宛のぬいぐるみの一部をペンタの側に置いてあげたのよ。残りは物置に詰め込んどいたわ」


「ぬいぐるみを置いたいきさつはわかったわ。でも驚いたわ。私にプレゼント?この私にぬいぐるみ?ファンの子たちわかってるのかしら、私が誰なのか?」


「わかってないと思うわ。だって私ブログでこの会社の名前言ってないもの。でもすごいわね。前作の本を出した時から私生活のブログ始めたら、けっこうアクセスしてくれるファンの子たちいるのよ。日本語でしか書いていないのに。プレゼントはあなただけじゃないの。栄治さん宛や娘たちあてのもあったのよ。感激しちゃったわ」


「そうだったの。すごいわね。でも気をつけなさいよ。あまりプライベートのことを書きすぎると犯罪に使われることもあるから」


「うん、わかった。大丈夫、写真とかはのせてないから、詩人の碧華の独り言ってタイトルで書いてるだけだから。でも気をつけるわ」


「わかればいいわ。じゃあもういいわ。みんなもう寝なさい。もうドッキリはないわね」


テマソンがいうと、五人は大きく頷いた。それをみてテマソンが笑い出した。


「まったく、こんなに驚いたの初めてよ。碧華、あなたがきてから私のクールさがどんどん色あせていく感じがするわ」


「でも、私、今のテマソン先生大好きです」


栞がいうと、優も頷きながら言った。


「私も」

「僕も叔父さん好きだよ。昔より今の方が断然」

「あらライフ、あなたはお世辞をいっても小遣いはでないわよ。リリーに止められてるんだから」

「あっひどいな、僕はそんなつもり全然ないのに・・・そんなに僕の言葉って重みがないかなあ」

「そうだね、君の日頃の行いが悪すぎるからじゃないのか?」


後ろで大人しく聞いていたエンリーがぼそっと言った。


「なんだよ、僕は本能のままだな。みんなに楽しんでもらおうとしているだけじゃないか」


「あらみんなあなたを嫌っているって意味じゃないと思うわ。あなたは大好きよ」


碧華がそういうと、栞や優も頷いていた。


「そっそうか、ならいいや。叔父さん。明日も忙しいんだろ、朝食の支度は僕とエンリーに任せてよ。さあ、早く寝なよ。もう二時だよ」

「そうね。そうするわ。碧華も早く寝なさい。明日は八時から予約入ってるんだから」

「そうだったわ。栞・優寝るわよ。おやすみなさい」


そういうなり、碧華は立ち上がると、和室に小走りになってむかった。けれど扉の前で振り向くなり、


「エンリー今夜の夕食おいしかったわ。ありがとうね」


碧華はエンリーに向かって笑顔で手を振った。ふいに言われたエンリーは照れたように下を向いてしまった。


まったく、碧華にはかなわないわね。あれで日本では友達がいないっていってるんだから信じられないわね」


「でも碧ちゃん、ああ見えて人見知りすごいよ。知らない人が相手だと別人みたいだもん。なんか、アトラスじゃあ、誰も知り合いいないし、嫌われても、どうせめったに来られる場所じゃないからいいかあって開き直ってるから本来の碧ちゃんが全面にだせているんじゃないかな。日本じゃ、気にし過ぎて人付き合い全

くうまくできていないみたいだと思うな」


「そうかもしれないわね。碧華たちこっちに住めばいいのに。そしたらまたこんな楽しい一日が過ごせるのに。まったくうまくいかないわね」


テマソンは小さくそうささやきながら自分の部屋へと戻っていった。ライフやエンリーも同感だった。


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