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ビンセント家VS桜木家②

その日の夜は、食事会が再び再開され、話が盛り上がった。ジャンニが日本語を話せることが分かると、食事中も真向かいに座った碧華と話が盛り上がった。シャリーだけが日本語が話せないため、隣座ったエンリーに通訳をしてもらい、なんとか話しに入ろうと頑張っている様子だった。

エンリーは帰り際に車の中で碧華に言った。


「碧華ママ、ありがとうございました」

「あら、お礼をいわれるようなことは何もしていないわ。でもあなた一緒にきてよかったの?」

「はい、三人がアトラスに滞在するまで同行すると決めてますから。くるなと言われてもついて行きますよ」

「そういってくれると心強いわ。エンリーは頼りになるもの」


碧華がそういうと、助手席に座っていたライフが言った。


「碧ちゃん僕は? 今夜僕も活躍したでしょ」


「そうね、通訳ありがとう。ライフはリリーお姉様と同じ車に乗らなくてよかったの?リリーお姉様寂しそうだったわよ。私があっちに乗ればよかったかしら」


「いいんだよ。ママはこれから館の方に一旦戻るって言ってたじゃないか、僕達はグラニエ城に行くんだから。おばあ様碧ちゃんと日本に帰るまでにもう一度会って話たいって言ってたから、僕がエスコートしなきゃ」


「光栄だわ。私もビクトリア様とはもう一度ゆっくり話てみたかったのよね。あっそうだ、今度こっちにくる機会があったら、栄治さんとビルさんにジャンニさんも誘ってあげてって言おうかしら。ねえ栞、優、ジャンニさんって性格がパパに似ている気がしなかった?怒った感じの迫力は栄治さんの百倍すごかったけど」


「あっ私もそう思った」


碧華の言葉に栞が言うと優も頷いた。その言葉に反対の反応をしたのはエンリーだった。


「栄治パパさんと父とじゃ全く違いますよ。栄治パパさんは怒ったりしないじゃないですか」


納得がいかないと言いたげなエンリーに碧華はほほ笑みながら言った。


「あらエンリー、栄治さんはエンリーの前では大きな猫を被ってるだけよ。それに、私たちが怒らせないようにいつも栄治さんをおだてて気を使ってるもの、ねえ」


碧華の言葉に二人の娘が同時に頷いた。


「あなたのママもジャンニさんの性格をわかってたみたいだし。素敵なご両親じゃない。あなたが知らなかっただけで、ジャンニさんは少し不器用なだけなのよ。すごい大会社のオーナーっていっても欠点ぐらいあるわよ。だって人間なんだもの。大切なのは、自分の心の持ちようよ。人間だれしも欠点もあればいい面も必ずあるものよ。だって神様じゃないんだから」


「そうですね、あんなに笑っている父を初めてみました。でも僕では無理だったと思います。やはり、あの父を引き出したのは碧華ママだと思います。でも、僕はもう決めていますから」


「何を決めているの?」


碧華が首をかしげて聞き返すと、エンリーは碧華に最高の笑顔で言った。


「あなたの息子になることをです。碧華ママの老後は僕に任せてください」


 エンリーが言うと、ライフもすかさず付け加えた。


「もちろん僕も碧ちゃんをバックアップできるすごい人間になるから安心してよね。ねえ優ちゃん」


ライフの言葉に優は困った顔をしていたがとりあえず微笑み返してみせた。そんな子供達を順番に眺めながら碧華は言った。


「あら~私モテモテだわ。テマソンにも老後は任せてって言われたのよね。ねえ聞いた栞、優、ママの老後はバッチリ安泰よ」


そういいながら碧華は後ろの席にいる娘達にガッツポーズをしてみせた。


「ママ欲張りすぎじゃない」


栞の言葉に碧華はウインクしてみせながら付け加えた。


「いいじゃない。老後を見てくれる人間は多い方が安心よ。これで思いっきり人生を楽しめるわね」


碧華の言葉に車内で笑いが起こった。

エンリーは碧華のこの明るさが人を引きつけるのだと感じ、碧華を一人の人間として尊敬のまなざしで見つめていた。


エンリーは彼女と出逢ったことでこの先も生き続けていたいと思えるようになった自分がラッキーだったと感じずにはいられなかった。


そして、今夜、碧華という一人の人間が訪れたことによって、悪魔の巣窟のようなビンセント家が温かいぬくもりに包まれたように変わっていくのを今夜初めて感じたのだった。


こんなにすがすがしい気持ちになったのは初めてだった。



その頃、ビンセント家の一室では、ブランデーを飲みながら、ジャンニが碧華からもらったばかりの日本語版の新作本を読んでいた。


「日本語と英語では表現が違いますか?」


シャリーは珍しく笑顔で読書しているジャンニの横のソファーで、碧華の英語版の新作を読みながらジャンニが読んでいる本をのぞき込みながら聞き返した。


「気になるならお前も日本語を覚えればいいではないか」


「あら簡単におっしゃいますけれど、しゃべるのと読むのとは別ですわよ。日本語は漢字がたくさんありますもの。でもしゃべるようにはなりたいと思っているんですの。だってわたくし碧華さんともっとおしゃべりしたいんですもの、あの方の詩はとても素敵で大ファンですけど、実際あってますます好きなってしまったみたいですわ。ふふっみてくださいな。わたくし、碧華さんとメール交換したんですのよ。日本語でならいいっていってくださったんですの。これから勉強しなくてわ」


楽しそうに話しかけてくるシャリーにジャンニは思うのだった。


『碧華桜木・・・彼女は神の使いなのかもしれんな。今まで必死でかぶってきた仮面を一瞬でこわしてしまった。手に入らないものなどないと思ってきたが、ないものもあったようだな』


「ジャンニ、本当に考えてあげてくださいませんか?あの子の日本の大学行きの件。私、あんな楽しそうにおしゃべりしている顔のエンリーを初めてみましたわ。あの方にならエンリーを預けても大丈夫だと思ったんですの。あの子が日本で住みたいというのでしたら、あの子の好きなようにして差し上げたいと思っているんですの。会いたくなれば私から会いにいけばいいだけのことですし」


「そうだな・・・」


ジャンニはそう返事をしながら心の中で思うのだった。


『ファミリーか・・・頼めばこんな偏屈でも入れてくれるのだろうか』


ジャンニの願いは意外と早く叶うことになるのだった。

ビル・レヴァントから年末のキャンプの誘いがきたからだ。

それは碧華から今回のことを聞いた栄治が、ビルに男親どおし交流するのもいいんじゃないかと提案したのがきっかけだった。


やがて年末になり、三人が会って同じ時間を過ごしてみると驚くことに碧華の言った言葉の通り、この三人は似た者同士だったのだ。


それはまだ先の話だが、この時ジャンニはビルからの誘いを受けてからというもの、心のどこかで久しぶりに感じる胸の高鳴りを感じるのだった。


ジャンニは予定を確認してから、後日連絡するとビルから連絡がきた時はそっけなく返答したが、内心はウキウキしている自分がいることに驚いていた。普段なら仕事がらみの付き合いを入れる所だが、早速、予定を空白にしておくように秘書に連絡している自分に驚いていた。


そして、気づくのだった。いつのまにか彼もまた桜木ファミリーの一員に入ることを喜んでいることに






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