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AOKA・SKYサイン会①

翌日、碧華はサイン会に向かうべく、テマソンと本屋になるべく早めにつくように準備していた。ヘアーセットとメイクもテマソンが手際よく仕上げてくれた。何より驚いたのはサイズもピッタリの洋服と靴が全て用意されていたことだった。


「テマソン、これ高いんじゃないの?」


「そうね、あなたの小遣いでは買えないでしょうね。心配しなくてもこれは私のおごりよ。あなたろくな服持っていないんだから、サイン会っていったら、ファンの人達からしたら、あなたは神様みたいな存在なんだから、第一印象ぐらいきちんとしておかなきゃ」


「そうよね、なにからなにまでありがとうございます。私にとってまさにあなたが神様以上の存在です。頼りにしてますテマソン様」


碧華は化粧が終わりダイニングの椅子に座りながら目の前に大きな移動式の鏡越しに自分の後ろに立ち、今度は鬘を碧華にかぶせようとしているテマソンに向かって言った。


「あら、そんな神様は言い過ぎよ。それはそうと、あなた仮にも女なんだから、化粧ぐらい普段からしなさいよね」


「ええ~っ化粧品代も結構高いし、めんどくさいし」


テマソンは仕上がりを確認しながらあきれ顔で言った。


「あなたそれでよく、栄治さんゲットできたわね」

「えへっ。おかげさまで」


テマソンに化粧を施されて、碧華はAOKA・SKYに変身した。髪は長いウエーブがかかった漆黒の鬘を被り、作家らしく今回は眼鏡をかけていた。もちろんコンタクトをしているので、眼鏡は伊達メガネだったが、いつもしている眼鏡ではなく眼鏡の縁に銀細工でユリのデザインが施された高級な眼鏡をかけていた。


服は、ふんわりとした白のレースをあしらった大きな丸い襟付きのシルクの水色のワンピースだった。


「さあ作家AOKA・SKYの完成よ」


そこで初めて鏡を渡され碧華は自分の姿を見た。


「あら、別人みたいね。女は化粧で化けるっていうけど本当なのね。この姿の写真見せられたら私でも自分がわからないかも・・・これって詐欺じゃないの?」


「あら、じゃあいつものあなたの姿のままでいいの?」

「それは困る」

「でしょ」


「テマソン、どうしてあなたはサイン会にSKYとして出ないの?私たち二人で一人って意味でAOKA・SKYにしたでしょ」


「いいのよ、詩を考えだしたのはあなたなんだから」

「でも今回のサイン会はAOKA・SKYなんじゃないの?」


「いいえ、告知見たけど、きちんと書いていたわよ。詩担当のAKOA先生のサイン会ってね。実は編集者には私も出てくれるように頼まれたんだけど、私は無理だって言ったのよ。だって、あの絵の原型はあなたの絵なんだから、あなた一人でも十分よ。私はほら、けっこう有名人でしょ。ファンの子たちがお店に殺到して今の仕事がやりにくくなると困るから」


「そう・・・まっいいか、あの絵があなたが描いてるって世間にしれたら、あの本の価値が上がっちゃって値段が高くなったら困るし」


「あらどうして?」


「だって・・・私若い子にもたくさん読んでもらいたいんだもの。高くて買えなくなったら嫌だもん」


「そうね、誰でも気軽に読んで、元気になってもらいたいわね」

「でしょ」


二人は鏡越しに笑顔で微笑みあった。


「さあ!行きましょうか」

その時、碧華の携帯が鳴った。


「あっ栄治さん、今どこ?えっラーン・ヘンジを見に向かってるの?何それ~いいなあー。お母さんと娘たちは?ヒューマリン宮殿見学に行ってるの?何それ!私もどっちも行きたいなあ。写真撮ってきてよ。うん、これからサイン会場に行くところ」


〈仕事ガンバレよ、緊張してミスしないようにな〉


「うん、なるべく気をつける」


受話器の向こうから楽しんでいるのが目に見えるような声が聞こえてきた。栄治は要件だけいうとすぐ切ってしまった。


「はああ・・・あああっ観光したぁーい」


碧華は首を回るとコリコリと音がなった。


「碧華、あなただけでも帰国伸ばせないの?」


「無理よ。だって帰りの飛行機予約してるし、明後日から栄治さん仕事だから、私だけ遊ぶわけには行かないから」


「そうなの。結婚ってめんどくさいわね」


独身のテマソンには理解できないことだった。その時また電話が鳴った。


〈ママ、今大丈夫?〉


「栞、どうしたの?今日も市内観光するんでしょ」


〈うん、あのね、さっきエンリーのお父様からエンリーに連絡があって、今夜夕食を一緒に食べることになってたでしょ。あれ中止になったんだって〉


「えっ、そうなの?どうして?」


〈今、お父様はフランスにいらっしゃるみたいで、急の仕事が入って帰国が明後日になるんだって、でね、おじさまが私の帰国を少し延期してもらえないかって今エンリーの携帯に連絡はいったんだけど、どうしよう〉


「そうねえ・・あんたはまだ学校休みだから飛行機の手続きとか延期できるんだったら別にしてもいいけど、そうかあ・・・ビンセント家の皆さまにはきちんと挨拶しておきたかったけど・・・」


碧華の話を聞いていたテマソンが急に碧華の携帯を奪って話だした。


「ハロ~、栞ちゃん」

〈あっテマソン先生〉


「話はだいたい聞いたわ。碧華と栞ちゃんと優ちゃんの三人だけ帰国を延期すればいいじゃない。栄治パパさんは仕事があるみたいから無理でしょうけど、碧華は大丈夫でしょ。栄治パパさんには私から連絡しておいてあげるわ。優ちゃんも一緒でしょ。ライフにちゃんとエスコートするように伝えといて。飛行機のキャンセルは私が手続きをしておいてあげるわ」


〈ありがとうテマソン先生〉


栞の嬉しそうな声が受話器の向こうから聞こえてきた。テマソンはすぐに栄治に電話をかけ直した


「栄治さん、テマソンです」

〈あっテマソンさん、どうかしましたか?〉


「今ビンセント氏から連絡があって、今夜の夕食会までにアトラスに戻れそうにないから中止にしたいんですって、フランスから帰国できなくなってしまったんですって、でっ、栞ちゃんだけでも帰国を延期してもらえないかっていうんだけど、栞ちゃんだけだと不安でしょ。だから碧華が残って挨拶したいって言ってるのよ。だから明日、広お母様と栄治さんの二人だけで帰ってもらえないかしら?三人のことは私がきちんと帰りの飛行機に乗り込むまで見届けるから」


〈そうですか・・・今回はエンリー君のご両親にあうためにきたんですから、仕方ないですね。ですがテマソンさんはご迷惑ではありませんか?〉


「私なら大丈夫よ。ビンセント家と会う時も予定通りリリーが同行すると思うから心配ないと思うわ。きちんと三人はお預かりしますので安心してくださいな。でも碧華があなたのことを心配してるのよ」


〈ありがとうございます。碧華さんに変われますか〉


「もしもし、栄治さん、うん、そうみたい、栄治さんあさってから仕事でしょ」

〈僕一人だったらなんとでもなるから心配いらないよ。けど、碧華さん一人で大丈夫か?エンリー君くんのご両親に会うの?〉


「うん、ちょっと不安だけど・・・なんとかなるよきっと、栞のことは任せて。ごめんね。うん、えっじゃあ今夜はそっちに泊まるの?うんわかった。じゃあ明日空港まで見送りにいくわ」


そういって碧華は電話を切った。


「今夜の夕食会がなくなったのなら、ビルさんとキャンピングカーで今夜はキャンプしてくるって。明日昼までには空港に戻るから空港で会おうって」


「ふふっよっぽど、ビルと気が合っているのね。あのビルがずっと栄治さんにべったりだもんね。珍しいわ」


「えっ気を使って栄治さんの相手してくださっているだけなんじゃないの?」


「あら何を言ってるのよ。かりにもビルはレヴァント家の当主よ、そんなに暇じゃないわよ。普通だったら夕食ぐらい一緒にとれればラッキーなぐらいよ。ビンセント氏のようにね。でもリリーに聞いたんだけど、ビルったら、ライフから栄治さんの話聞いてからすっかり気に入ってて、今回、二ケ月休みなしで仕事してまとまった休暇を無理やりとったらしいわよ。昨日リリーが驚いていたわ。あんな楽しそうに栄治さんと話がはずんでいるビルは久しぶりにみるって」


「そうなの、ならいいけど、栄治さんも楽しんでいるようだし。じゃあ私も楽しんでサイン会に行こうかな」


テマソンの顔をみて笑顔で言った。


「そうね。行きましょうか。しばらくアトラスにいるなら、とっておきの場所を案内してあげるわ」


テマソンはそういうと、立ち上がり、鏡の前の化粧箱を片づけはじめた。

そして、テマソンは先に航空会社に碧華たち三人の飛行機のキャンセルの電話を入れた。そして二人はサイン会に向かうべくテマソンの車に乗り込んだ。





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