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グラニエ城と前世の記憶②

碧華はヴィクトリアにああ言ったものの、少し後悔していた。テマソンとの関係が切れるのは辛かったからだ。また仕方ない、諦めるかって割り切れる自信がなかった。やっとみつけた生きがいと相棒、碧華の心ははちきれそうだった。


どこをどう歩いたのか、ふと気が付くと、外の通路を歩いていた。そこは古びた昔のままの通路のようだった。手入れの行き届いた庭園の木々から夜の風がここちよく、まるで歌を歌っているかのようだった。


「ここはどこかしら、懐かしいような気がするわ。神様ありがとうございました。こんな素敵な場所に越させてくださって感謝します」


「まだ神に感謝するのは早いわよ」


碧華が振り向くと息を切らせたテマソンがすぐ後ろに立っていた。


「どうしたの、そんなに急いで」


「碧華こそ、よくこの場所にこれたわね。ここにくるのにはコツがいるのよ」


「そうなんだ。執事さんを探してて気がついたらここにいたのよ。私の部屋を聞こうと思って」


「後で私が案内してあげるわ。ちょっとここに座らない。今夜は月もきれいだわね」


「そうね、なんだか不思議な感じがするわ。なんでかな、すごく落ち着く。いいなあ・・・こんな素敵な場所で生活できて、うらやましい」


「でもね、ここで生きるのも大変よ。いろんなしがらみや付き合いもあるしね。地位があるってことも生きづらいものよ」


「そうでしょうね。な~んにもない方が楽かもしれないわね」


碧華は先に芝生の上に腰をおろして星空を見上げているテマソンの隣に腰をおろすと大きく伸びをした。


「はあ・・・今日は長い一日だったわね、お疲れ様。あっあのねテマソン、仕事のことなんだけど」


「碧華、私はもう子供じゃないわ。他人にどういわれようと、自分の生きたいように生きるわ」


「そっそうね。テマソンならできるわよ。頑張ってね」


「何言ってるのよ。これからはあなたも一緒よ。私はあなたを独り占めにはしないわ。あなたが作り上げてきた家族の一員に私も入れてくれないかしら?」


「お母様との話聞いていたの?」

「ごめんなさいね」


「そう・・・でも私、あなたのお母様に宣言しちゃったし。お母様はいていいっておっしゃってくださったけど、今すぐみんなを起こしてそうそうにここを出た方がいいよね。栄治さんに言って他の宿泊先探さなきゃ、あなたいいところ知らないかな?」


「あら、私のママンは追い出したりしないわよ。もし本当に私とママンが喧嘩したとしてもね。いったん引き受けたことを覆したりはしないわ。だから大丈夫よ。リリーがいるし、もう今夜は遅いから今からだと他にホテルとか探すのは無理よ。朝になれば今度はリリーの別荘に移動することになってるんだから心配ないわよ」


「本当にいいの?」


「ほんとに相変わらず心配症ね。大丈夫よ」


そういったテマソンの言葉でもまだ不安そうにしている碧華にテマソンが軽くため息をつくと、勢いよく立ち上がると碧華の手を掴んで碧華を立たせると、急に歩き出した。


「どっどうしたの?」


「そんなに心配ならもう一度ママンに会いに行ってきちんと聞きましょうよ。すぐに出て行ったほうがいいのか?ついでに宣言しましょ。私たちはこれからも付き合っていくって。ママンの想像しているような形にはならないけど。私たちは相棒、お互いに家族があったとしてもその関係は生涯かわらないわ。そうでしょ。あなたよくいうじゃない。自分の言った言葉の間違いに気が付いたら後回しにしないですぐ訂正した方がいいって、それに栄治さんにもこの際だからきちんと了解を得ましょう」


「栄治さんにも?」

「一番肝心なことでしょ。あなた栄治さんに反対されたら私との縁を切るでしょ」

「・・・」


碧華は何も答えなかったがテマソンは見抜いていた。


「大丈夫よ。あなたの旦那様はそんなに心の狭い人間じゃないでしょ。私のことを浮気相手だとか疑っていたらアトラス旅行なんかこないわよ。だけど、この際だから私もきちんと話しておかなきゃね。よし、じゃあ聞きにいきましょうか」


「でも・・・」


「このままだったら気になって倒れちゃうわよ。さあいくわよ相棒」


「わかったわよ。でも、不思議ね」

「何が?」

「テマソンは気付いてたの?私たちが前世で兄妹だったって」

「さっきあなたとこの城に来た時に思い出したわ」


「そうなんだ。不思議よね。ふふっでも今回は私が年上だったわね」


「あら、私がお兄ちゃんやってもいいわよ。あなた頼りなさすぎなんだもの」

「何よ生意気よ!」


二人は手をつなぎながら遥か古の時を駆け抜けた。



その後、二人はヴィクトリアの所に行き、今まで通りに付き合っていくと宣言し頭を下げた。

そして、栄治が既に眠っている寝室に行き、枕元に二人が立った時は、大いに栄治を驚かせたが、眠たい目をこすりながら栄治は二人の言葉を真剣に聞き入れ、今まで通りの関係でいいんじゃないかと言ってくれた。


「本当にいいの?栄治さんは私がテマソンと浮気してるとか疑ったりしてない?」


碧華は一番心配していることを正直に尋ねた。


「うーん、浮気って・・・テマソンさんは碧華さんの弟みたいな感覚なんだろ?」


栄治の言った言葉に碧華の表情は明るくなった。


「うん。そうなんだけど、周りが誤解してたらって、私仕事辞めたほうがいいかな」


「テマソンさんは碧華さんのことどう思っているんですか?」


「私の正直な気持ちは、碧華は男女の愛だとか恋とかそういう次元じゃなくて、なんて表現したらいいのかしら、自分の分身みたいな感覚という言葉が一番合っている気がしてるの。そうねえ・・・双子の姉弟みたいな感覚かしらね。でも、それがもし栄治さんがおもしろくないって言われたらどうしようもないんだけど、栄治さんにはわかってもらいたいわ。理解できないかもしれないけど」


テマソンの言葉を聞いたあとしばらく考えていた栄治だったが静かに答えた。


「そうですか。僕はそういう感覚はわからないけど、僕は、碧華さんの実の兄弟にも嫉妬なんかしたことないよ。テマソンさんあなたも同じですよ。テマソンさんはとっくに桜木家の親戚みたいなものじゃないですか?碧華さんがいつも生き生きと仕事をしている姿をみているし、それを取り上げるような非道なことはしませんよ。それに、僕が定年になっても、これから碧華さんがバリバリ働いてくれると、老後も安心だし」


「ありがとう栄治さん、すごく心配だったんだ。ああースッキリした。やっぱり私の旦那様だ!」


碧華は笑顔で栄治に向かっていった。


「明日早いんだろ?早く会社に戻ったほうがいいんじゃないか?また倒れたら迷惑かかるだろう?それでなくても体力ないんだし」


「うん、わかった」


「テマソンさん、碧華さんのことお願いします。碧華さんは少し抜けているとこあるから、御迷惑をおかけすることもあるかもしれませんがよろしくお願いします」


テマソンは返事のかわりに、栄治に抱き着いた。


「ありがとう栄治さん。あなたに反対されたらどうしようかと思っちゃった。あなたたちの老後は私に任せて!」


そういいながら笑って見せた。その後おやすみをいうと、碧華は自分の荷物を栄治の荷物からだし、二人は結局城には泊らず城を出て仕事現場に戻って行った。



よく日の早朝、テマソンの会社にヴィクトリアの召使の1人が手紙と何かが入った封筒を持って訪ねてきた。テマソンが開けてみると、中には銀細工のブレスレットが二対と、AOKA・SKYの本とペンが入っていた。


〈碧華さん、昨日は失礼なことをお聞きしてしまってごめんなさいね。

一晩考えて私が間違っていたことに気が付きました。生きているうちに間違いは訂正しておかなきゃ、前世のような後悔はもうたくさん。

そのブレスレットはあなた方のものです。お返しするわ。

テマソン、碧華さん、人は人ですね。本当はわかっていたのだけれど、でも私はきちんと形を示す必要があったの。本当にごめんなさい。できればこの年寄りも桜木家の一員に入れてもらえないかしら?

碧華さんのお子さんも私の本当の孫みたいに可愛いわ。この年寄りのわがままを聞いてもらえるなら、もう一度謝るチャンスをいただけないかしら?・・あなた方の前世の母テレーズより 


追伸、ヴィクトリアとしてのお願いがあるのだけれど、碧華さん、私あなたの詩集の大ファンなの、サインしていただけないかしら?〉



碧華はその手紙をみて涙があふれてきた。それを手で拭いながら言った。


「テマソン、お母様に先を越されちゃったわね。私もお母様大好き、ああどうしよう。もう一度お会いできないかしら?」


「そうね・・・じゃあ今夜、ママンにもう一度会いに行きましょう」

「いいの?あなた体大丈夫?」


「平気よ、何故かしら?いつもバタンキューなんだけど、今日も体調がバッチリよ」


「私、理由知ってるわよ」

「あら何よ」


「ペンタじゃないの?あなたの寝室の安楽椅子の上に置いてあるのみかけたわ。抱き枕できちんと寝ているのね。いい子ね」


「まあ、エッチ、勝手にへんな想像しないでよ」


テマソンはそういいながら照れて顔を背けてしまったが、思い出したようにくるっと向き直り言った。


「そうだわ。忘れるところだったわ。明日はサイン会の予定が入ったからオッケーしておいたわよ。明日も忙しくなるわね」


「はあ?今なんて言ったのテ・マ・ソ・ン!」


「あら、あんた耳が遠くなったんじゃないの?サイン会って言ったのよ。どこから聞きつけたのか、出版社の人から連絡がきたのよ。会場のセッティングやサイン会開催の連絡報道はやってくれるっていうから、本人を連れて行くって伝えといたわ。明日は、トルーナブック店でAOKA・SKYのサイン会よ。急だから人がどれだけ集まるかわからないけど面白そうでしょ。あっ安心してぼろがでないように私がサポートしてあげるわよ。明日は会社は休みだから」


不気味な笑みを向けてくるテマソンに碧華の顔が青ざめていくのがわかった。


「テマソン!聞いてないわよ。なんで3日連続見世物にならなきゃいけないのよ。家族で観光できないじゃない」


「あら、でも結局みんなバラバラに観光することになったってリリーが連絡してきたわよ。宿泊も結局リリーの別荘には行かず城に滞在することになったらしいし、栄治さんは昨日の夜ビルと意気投合したみたいで今日はビルと二人でお出かけらしいわ。栞ちゃんと優ちゃんたちはライフとエンリーくんの四人で市内観光に行くらしいし、広お母様は、ママンと意気投合したから城に滞在してゆっくり城内を散策するらしいわよ」


「いいなあー。もう!私も観光したーい!お城もっとゆっくりみたーい。せっかくアトラスにきたのにー!」


「貧乏人は仕事があるだけありがたいと思いなさい。老後の資金貯めるんでしょ。働きなさい!」


「ああ~冷た~い。姉に向かってそれは冷たいわよ。弟のくせに姉はいたわるものよ」

「何よ、私も同じ時間働いているじゃない」

「私はもうすぐ五十になるのよ、年寄りをいたわりなさいよ。いーだ!」


碧華はテマソンの顔の前で両手人差し指を口の中に入れ、い―だをしてみせた。

するとテマソンも同じ顔をした。そして同時に笑い出した。


「はああ!ああスッキリした。さあて、ブツブツいっててても状況は変わらないわね。もう仕方ないわね。働くかあ!明日はサイン会かあ、こんなに急で一人もこなかったらどうしよう。あの本でたの二月でしょ。もうみんな興味ないんじゃないかしら。でもいいか、来なかったら私が楽だし。あっでも誰も来なくて本が売れなかったら、損害賠償請求されたりするの?」


「大丈夫よ。本屋の一角を借りてるだけだし、言い出したのは出版社なんだから。私が窓口になってるんだから安心しなさい」


「それもそうか。やっぱり、私十歳若返ることにするからテマソンはお兄ちゃんやってもいいわよ」


「何よそれ、十歳は無理よ化粧でもごまかせないわよ」

「失礼よテマソン!」


二人は笑いあいながらまた会場設営準備を開始した。





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