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グラニエ城と前世の記憶①

「あなたが碧華さんね。私はこの城の主のヴィクトリアよ。お会いしたかったわ」


結局、交通網がかなり渋滞していたこともあり、碧華とテマソンはかなり遅い時間にテマソンの母が住む城に到着した。城につくと、碧華はすぐにテマソンの母ヴィクトリアの部屋に一人通された。


晩餐会はすでに終わった様子で家族はみな各自用意されていた部屋に戻ってくつろいでいるとのことだった。


テマソンも一緒に行こうとしたが、呼んでいるのは碧華一人だと執事にさえぎられた様子で玄関ホールで碧華を一人で見送った。


碧華はゴクリと唾をのみこんで執事の後をついてヴィクトリアの部屋に向かった。碧華が部屋に入ると、銀髪の髪を後ろに束ねて結い上げているすらりとしたテマソンによく似た女性が立っていた。その女性はいきなり日本語で碧華に話してきたのだ。


「はっ初めまして」


碧華は緊張した声でそれだけいうと、ヴィクトリアはソファーに先に座ると碧華が立っている目の前のソファーに座るように言った。


「どうぞ緊張なさらずに、実はね、私あなたにお聞きしたいことがあってあなたがいらして下さるのお待ちしていましたのよ。倒れられたってお聞きしましたけど、お体は大丈夫かしら?」


「はい、少し眠りましたので回復しました。晩餐会に招待して頂いていましたのに、遅れてしまってすみません」


碧華はもう一度頭を下げた。


「あらいいのよ。あなたのご家族の方々はみなさん素敵な方たちばかりなのね。すごく楽しい晩餐会でしたわ。はあ~!ああ駄目だわ。私ね、心の中で気になっていることをそのままにしていると落ち着かないの。碧華さん、失礼を承知で単刀直入にお聞きしますわね。テマソンとはどういう関係なのかしら?」


「関係ですか?仕事を一緒にさせてもらっているだけですが」

「聞き方を変えるわね」


「もし、テマソンがあなたにプロポーズをしてきたら、今のご主人と離婚してアトラスにくる覚悟があるのかしら?」


「えっ?プップロポーズですか?ええっ!あのどうして急にそんな話になるのでしょうか?私は彼に会ったのはまだ二度目ですよ、いくら何でも話しが急ではありませんか?」


碧華はそういったがテマソンがプロポーズ?考えたこともない。仕事が楽しくて、テマソンと毎日テレビ電話では話すうちにもうずいぶん前からの知り合いのような錯覚になってはいるが、会ったのはまだ二度目なのだ。碧華は混乱しかかっている頭でもう一度訪ねた。


「あの申し訳ありません。それは冗談とかではなく本気でお聞きになっていることなのでしょうか?」


「ええ、私はいつも本気ですよ。実際にあった回数は関係ありませんわ。今は昔とは違って毎日テレビ電話で会話をしようと思えばできる時代ですもの。それよりも大切なのは気持ちですよ。あの子が他人に心を許るすなんて初めてのことなんですよ。あっ誤解なさらないでね。あなたを招待したのは、テマソンとのことを問い詰めるためではありませんわよ。これはあくまで私の好奇心でお聞きしているの?あなたもお察しいただけると思いますけれど、あの子もそれなりの地位にいますでしょ。噂というものは一人歩きするものですから。真実をご本人にお聞きしておきたかったの。とはいえ、個人的に私はあなたに興味があったからお会いしたかったのですけれど」


ヴィクトリアの言葉に驚きを覚えながらも冗談ではないことがわかると、碧華も真剣な表情で答えることにした。


「わかりました。では真剣に答えさせていただきます。私は今の主人と離婚するつもりはありません。主人は私の家族なで、私の一部なんです。私は欲張りなのかもしれませんが、正直テマソンさんもまたなくしたくないものになっているのも事実です。テマソンさんとは仕事上の相棒と思っていますが、テマソンさんとは正直、初めてお会いした時、懐かしさを感じました。初めてあったはずなのに、どこかで会ったことがあるような、不思議な感覚だったのを覚えています。どこでだったか、どうしても思い出せなかったのですが、さきほどこの城についた時わかりました」


「どこかで会っていたのかしら」

「それは前世です」

「前世?ご冗談ではなくて?」


ヴィクトリアは怪訝そうな顔をしながらも碧華を真剣な眼差しで見つめ返しながらたずね返した。碧華は笑みを浮かべながら大きく頷いてからまた話だした。


「はい、私たちは前世では双子の兄妹でした。その前は夫婦、私たちは生まれ代わりを繰り返しながら同じ時を過ごす一つの存在。けれど、今回は少し離れた場所で生きるのを選んでしまったために出会うのが遅くなってしまったようです。きっと理解してはいただけないと思います。私も自分で何を言っているんだろうって思ってます。テマソンさんは知りあえば知り合うほど、私の中で大きな存在になってきているのも事実です。テマソンさんは、あの通りお姉口調ですけど、とても頼りがいがあって素敵な方ですけれど、彼が私みたいなおばさんに、もしプロポーズしてくださっても、お受けすることはありません。もし、すでに彼に素敵なお相手の方がいらっしゃって、私の存在が邪魔だというのでしたら、この旅行が終わりましたら、仕事の方もやめて、連絡もしないようにいたしますわ。私が彼の幸せの邪魔をしているのでしたら、私は身を引きます。彼が本気でそう望むのであればですけど」


「あの子に本当にそういう方がいると言ったらあなたはあの子と縁を切っていただけるの?本当にそれでよろしいの?あなたはせっかく掴んだ仕事も辞めるとおっしゃるの?」


「はい、私がもし、二十代で彼と出会っていたとしたら、もしかしたら違う選択肢があったかもしれませんけれど、今そんなエネルギーはありません。私には彼の幸せを奪う権利はありませんから。あのご用はそれだけでしょうか?もし私の存在がご迷惑なら、私だけでもホテルに泊まれるように手配していただけないでしょうか。私、英語の喋れない馬鹿な人間ですから、一人ここを出されてしまったら路頭に迷ってしまいそうですので、お願いします」


碧華はそういうとまた頭を下げた。


「ごめんなさい。私も言い過ぎたわ。私が招待したのですもの。今夜はゆっくりしていってくださいな」


「ありがとうございます。ではこれで失礼します」


碧華はそれだけいうと、一礼して部屋を出て行った。ヴィクトリアはソファーの背もたれに体をしずめ、静かにため息をついた。


「出てらっしゃい、ずっと聞いていたんでしょ」


すると、もう一つの続き部屋に通じる部屋の扉からテマソンが現れた。


「その顔は怒っている顔ね」


「そうですね。私はママンとも親子の縁を切らなければいけないかもしれないと思って悲しいだけです」


「でもね、世間では、男女の友情は通用しませんよ。碧華さんの旦那様もいい思いはしないでしょう」


「ママン、今夜はあなたを許せそうにありませんが、一つ感謝します。ずっと心に引っかかっていた答えが今やっと解けました。あなたのおかげです」


「碧華さんがおっしゃっていた言葉かしら?」


「ええ、私と碧華の前世は遥か遠い昔、このお城で生まれた双子でした。けれど、私たちは幼いころ別々の人生を歩んでいかなければならない人生をおくった。だから私は神にお願いをした。次に生まれてくる時は、自分の力で生きられる力がついてから出会えるようにと。だからこんなに遅くなってしまった。ママン、私はようやく見つけた自分の半身をあきらめて、来世まで待つ気はありませんから。そして、彼女から彼女の家族を引き離すようなこともしません。私の子供の顔をお見せできない事は申し訳ありません」


そういうと碧華を追ってテマソンは出て行ってしまった。


「はあ・・・まさかレイモンドとアーメルナ。あなた方にもう一度会えるなんて。そうだったの、皮肉なものね。また私たちは親子としてこの世に転生してしまったなんて。ごめんなさい私が前世で二人を引き離した張本人よね。あの日から悔いぬ日はありませんでしたよ。まさか、私の息子に生まれてきてくれていたなんて、アーメルナを養子に預ける決断をし、あなたたちを引き離したことをあなたは私が死ぬまで許さなかったわね。そのせいでアーメルナが行方不明になってしまったから。なんて不思議な運命のみちびきなのかしら、だからなのね、碧華さんの詩を手にした時不思議な感じがしたわ。そうね・・・前世と同じ過ちを繰り返すわけにはいかないわね」


ヴィクトリアはそういうと、壁にかかっていた額を外すと、そこから小さな隠し扉が現れた。その扉を開けると、そこには銀細工で作られたブレスレットが二つ置かれていた。それを取り出すと、小さな声でいった。


「マティリア様、どうか私の罪をお許しください。そして願わくば、私の願いをお聞き届けくださいませ。二人の未来がこの世でもまだ続いていきますように」


ビクトリアは胸にかけている十字架のクロスを手に握りながら祈りを捧げた。





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